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第5話  アナタが現れて…

女のコとしての生活を始めてそろそろ半年が経つ。

そして今年ボクは3年生

いよいよ受験生となった。


最近では女のコの言葉遣いや習慣にもわりと慣れてきて、それにつれて女友達の幅も次第に広がっていった。

それでもボクにとってミコは一番大切な、そしてとくべつの友達だった。


彼女は一言で言うとオープンで気さくな性格

他人のことをけっこう気にしてしまう小心者のボクとは対照的な気がするんだけど、ボクたちは実際気が合っていると思う。


ボクはミコになんでも相談できたし、ミコもボクに自分の気持ちをよく話してくれる。


そして、今では学校以外でも休みになるとボクとミコはほとんど毎週のようにお互いの家をを行き来したり、また図書館に行ったりしながら同じ時間を過ごしている。


じつは最初の頃、ミコがボクと友達になってくれた代わりにボクが彼女のことを独り占めしてしまっているんじゃないか、なんて心配したりしことがあって、以前彼女に怒られたことがあった。


「アタシは凛と一緒にいてすごく居心地がいいんだヨ。凛もきっと同じ気持ちだって思ってたけど、そうじゃないの?」

いつもはわりとクールなミコがそのときは感情を表に出すようにして言った。


そう言われたとき、ボクはホントに嬉しくて涙が湧いてきた。

「ゴメン、変なこと言っちゃって。 アタシも同じだヨ。ミコと一緒にいれてすごく楽しいの」


そのときボクは、彼女は安田や工藤たち男友達と違う、自分にとって何か心を分け合えるような、そんな存在に思えたんだ。


今日もボクとミコはこうして2人で図書館に来て勉強をしている。


ボクたちの行動パターンはいつもほとんど一緒。

お互いに家でお昼ご飯を食べた後に1時から近所の図書館の前で待ち合わせをする。

そして夕方頃まで勉強をすると帰り道に近くのクレープ屋さんに寄ってとりとめもない話に花を咲かせる。


ボクも昔から甘いもの好きだったから勉強が終わった後のこの店の生クリープたっぷりのチョコバナナクレープは楽しみだった。


ミコと仲良くなる前は、ボクから見て彼女は学校ではそれほどガツガツと勉強する素振りがない

休み時間にはいつも女のコ同士でワイワイと話をしている

それなのにテストではほとんどの教科でトップクラスという完全無欠のタイプに見えた。

しかし実際のミコはすごく努力家で、自分にとても厳しい女のコだってことがわかった。


そんなミコに刺激を受けたのか、2年生の始めの頃はクラスの中でも中の上くらいをウロウロしていたボクの成績も最近けっこう上昇している。


そして今日もいつものクレープ屋さんで、

ボクはいつものチョコバナナ、ミコはやっぱりいつものストロベリーチョコを頬張って話していると、彼女は突然こんなことをボクに聞いてきた。


「ねぇ、凛はもう志望校って決まってるの?」


ボクは口の中に入っているクレープをごくんと飲み込むと少し考えて

「ウーン、まだどういう学校があるのかよくわかってないけど。でも、都立だったら白洋高校かなぁ。私立は…どうなんだろう。ミコは?」

と尋ねた。


「アタシは第一志望は青葉学院高等部!もう決めてるの」

ミコはやけにハッキリとそう言い切る。


「青葉かぁー、さすがミコだよネ」


青葉学院高等部は渋谷にキャンパスがある青葉学院大学の付属校で、卒業するとほとんどの生徒が青葉学院大学に進学する学校だ。

高等部のキャンパスも大学のキャンパスと同じところにあって、東京の高校のイメージリーダー的存在として昔から人気がとても高い。


そういえば病院で一緒だった芦田さんは青葉学院大学の学生だって言ってたっけ

芦田さん、どうしてるかなあ…。

ボクはそんなことをフッと思い出した。


するとミコは突然ボクの方に乗り出してきてこう言ってきた。

「ね、凛も一緒に青葉を目指そうよ!」


突然のミコの発言にボクはちょっと驚いてしまう。


「エー!アタシは無理だヨォー。 あそこって偏差値が最低でも70ないと無理じゃん。 ミコは行けると思うけどアタシなんかじゃとても無理、無理(笑)」

ボクはミコの言葉に笑ってそう答えた。


するとそんなボクの言葉にミコはちょっと口を尖らせて

「そんなことないヨォー! 凛だって今はクラスの中で10番以内に入ってるはずだヨ? 受験までまだ10ヶ月あるんだもん。これから頑張れば受かる可能性は十分あると思うな。それに凛ってすごく勘がいいし、本気になれば一気に成績伸びるって思うの!」

彼女にしては珍しく強引な主張を始めたのだ。


「ウーーーーン…」

ボクは小さく唸って考えた。


まあ頑張ってみることは損じゃない。

一生懸命勉強して成績が上がれば青葉は無理でも他の学校には受かる可能性が高くなるし…。


「よしっ! じゃあ、アタシもダメもとで目指してみようかな!」

そう言ってボクは小さくエイっと力こぶを作るポーズをする。


すると

「わぁーい!やったぁーーーー!」

そう叫ぶとミコは両手を挙げてボクに抱きついてきた。


「頑張ろうネ! 絶対に2人で同じ高校に行こう!」

「オーーーーーッッ!!」


そんなふうに女のコとしてのボクの生活は小さな流れが次第に寄せ集まって少しずつ一本の川の流れのようなものを作っていった。


ただ、そうした女のコとしての人生という川の流れと別の川を見つめているもうひとりのボクがいるような気がする。


そんな頃、ボクの周りにあるひとりの男のコが現れる。



それは3年生になったばかりの

5月のある日のことだった。


その日ボクはいつも一緒に帰るミコが放課後の委員会に出席していたためひとりで帰ろうとしていた。

すると正門のところで偶然久美ちゃんの後ろ姿を見かける。

久美ちゃんは昔から見慣れたポニーテールの髪を可愛らしく揺らして歩いていた。


「久美ちゃーん!」

ボクは彼女の後ろ姿に声をかけた。


すると久美ちゃんはくるっと振り返って

「わぁー、凛! 久しぶりー」

と笑顔で答えてくれる。


「今日はミコと一緒じゃないの?」


「あ、今日は委員会で遅くなるんだって」


「そうなんだぁー。 じゃあ、一緒に帰ろうか?」


「ウンッ!」


そしてボクたちはお喋りをしながら肩を並べてゆっくりと歩き始めた。


「こうやって2人で帰るのってすごく久しぶりだよネ」

久美ちゃんが懐かしそうに言った。


「そうだよねぇ。小学校の時以来?」


「ウン、そうかも。昔はいつも一緒に帰ってたのにね(笑)」


「そう、そう。 それにまっすぐ帰らないでいつも帰り道で寄り道して遊んでさぁ。 家に帰ると「遅いっ!」って親に怒られて(笑)」 


「アハハ。そうだったねぇ。 ほら、あの赤いブランコのある小さな公園覚えてる? そこでいつも帰りに遊んでたじゃない?」


「あー、覚えてるー! そういえばあの頃ってアタシと久美ちゃんの他にももうひとりよく一緒に遊んでなかったっけ?」


「ああー、いたねー! エット、誰だったっけ? ほら、小5のとき大阪の方に転校してっちゃった男のコ」


「エットね…、なんて言ったっけ…。ワタ…ル、だっけ?」


「そう、そう! ワタル君! たしかイシカワ ワタル君だヨ」


「ウン、ウン! 懐かしいなぁー。 そういえば3人で釣りに行ったりしたよね? アイツってすっごい負けず嫌いでさ、釣りでアタシに負けてすっごい悔しがってた(笑)」


「行ったねー! この3人で遊ぶ時って男のコ2人に女のコはアタシだけだったからさぁ、いつもアンタたちの意見ばっかり通っちゃって。「アタシの意見もちょっとは聞いてヨー!」って怒ったこともあったじゃん(笑)」


「アハハハ、あった、あった! でももし今だったら逆転できるんじゃない?」


「そうだねー!なんたってこっちは女のコ2人になったんだから(笑)」


「アイツって今頃何してるんだろう? 元気かなぁ」


そんな話をしながらボクたちが商店街の入口に差しかかったときだった。

通りの向こうから細身の身体で背が高くて、さらさらした髪の毛の男のコが歩いてくるのが見えた。


そしてボクたちがその男のコとすれ違ったそのとき


「アレっ! 久美ちゃん? 久美ちゃんやろ?」

その男のコは突然ボクたちの方を振り返ってそう叫んだのだ。


ボクたちは驚いたようにそこ場に止まった。


「久美ちゃんの知ってる人?」

ボクは久美ちゃんの耳に手を当てて小さな声で尋ねる。


「ウウン、ぜんぜん知らない」

久美ちゃんも同じように小さな声で答えた。


もしかして新手のナンパとか?

久美ちゃんのカバンかどこかに名前が書いてあってそれを見て声をかけたとか…。

ボクと久美ちゃんは訝しそうな目でその男のコを見つめる。


するとその男のコは陽気な声でこう言った。

「ボクやぁー!石川 渉やがなぁーー!」


「あああああーーーーーーーーーっっ!!」

ボクと久美ちゃんはほとんど同時にその男のコに向かってそう叫んで指をさした。


すると、その男のコはボクの方を見て

「ん? こっちは久美ちゃんの友達の娘かいな? はじめまして、ボク、久美ちゃんの幼馴染で石川 渉いいます。 どうぞよろしゅう」

そう言ってとぺこっと挨拶した。


ボクはどう返事したらいいものかわからない。

とりあえず控えめに

「ドウモ…」とだけ言ってペコッと小さく頭を下げた。


「いやー、しかし懐かしいなぁー! 久美ちゃん、元気やったか?」


「ウン。ワタル君も元気そうだネ。でも、こんなとこでどうしたの?アナタって大阪に転校したんじゃなかったっけ? あ、もしかして家出でもしてきたとか?」


「そんなわけあるかいなーーーっ!(笑) ボクな、お父ちゃんの転勤でまたこっちに戻ってきたんや。それで今日は転校の手続きした後制服のボタンとか買ったん」

そう言って彼はボタンの入った袋をボクたちに見せた。


「ヘェー、そうなんだぁ。 じゃあ、そこのお店でボタン買ったってことは、もしかして若松中学とか?」


「ウン、そうや。もしかして久美ちゃんたちも若松中なんか?」


「そうだヨ。じゃあ一緒だネー」


「わぉー、そらラッキーやわ。あ、そや! ところでな」

ワタルは思い出したように言った。


「ウン、なに?」


「アイツ! ホラっ、哲、小谷 哲や!どうないしてる?アイツ元気か?」


「エ、あ、哲ちゃん…ね」

久美ちゃんは彼のこの問いに戸惑ったように答える。


「ウン、そうや。その哲や。転校する前に3人で釣りに行ったやろ?あのときアイツに負けてまだ雪辱戦してないねん。今度こそは絶対負けへん思ていろいろ研究もしたんや。なあ、久美ちゃん。アイツも同じ中学なんか?」


「まあ、ウン。そう…ね」


「なんや、はっきりしないなあ?」

久美ちゃんの曖昧な返答にワタルは不思議そうに尋ねた。


すると久美ちゃんは返事に困ったようにボクの方をチラッと見た。


言葉を交わさず目で意思のやり取りをするボクと久美ちゃん

その間わずか1秒ほど

女のコだけが持ってるウルトラエクセレンス

スーパテレパシー(古っ!)


「どうする?凛」


「いいヨ。あとでショック受けないように今話しちゃおう」


決意を固めたボクたちはワタルの方をまっすぐ向く。

そして久美ちゃんは彼にこう尋ねた。

「そんなに哲ちゃんに会いたい?」


「あったりまえやがなー。ボクはずっとこの日を楽しみにしてたんや。 で、今ヤツはどうしてるんや?」


「今、アナタの前にいるのヨ」

久美ちゃんはそう言って再びボクの方をチラッと見る。


「は? 今ボクの前にいるんは久美ちゃんとこのおねーちゃんの2人だけやんか?」


「そうネ。だからこの娘が…」


「この娘が?」


「哲ちゃんなのヨ」


「はいいい??」

彼は久美ちゃんの予想外の言葉にとぼけたような声を出す。


「だから、この娘が哲ちゃんなのっ!」

久美ちゃんは再度念ををすようにそう答える。


しかし彼は久美ちゃんのその言葉にどうにも戸惑うような顔をして

「ちょ、ちょっと待ってくれや。ボクの記憶やと、たしか哲は男だったはずやけど、この娘はどこをどう見ても女のコにしか見えんど?」

と尋ねた。


どうも彼の頭の中はパニックを起こしているみたいだ。

まあ、無理もない。


そこでボクはワタルに向かって小さな声でこう言った。

「ヨォ、ワタル。ひさびさ」


すると

ワタルは一瞬ポカーンとした顔をして

「え? え?」

と混乱した様子


しかし次に彼はボクの顔に自分の顔をグッと寄せて言った。

「そ、そういえばなんとなく哲の面影が…。 おおおおっっ!哲、オマエどうしちゃったんやぁー!?そんな姿に!もしかして最近よく聞く性同一性なんかっていうーーー」


「ちがぁぁぁーーーーうっ! 哲ちゃんをそんな変なのと一緒にしないでっっ!!」


「でも、なんで男だったはずの哲がこんな女のコに?」


「それはね、じつは哲ちゃんは本当はもともと女のコだったの」

そして久美ちゃんは今までのボクのいきさつをワタルに説明した。


「ホェェェーーーーーー!! そんなことってあるんやぁ? なんか信じられん話やけど、でも確かにこのおねーちゃんは哲やな」


「そうヨ。だからもしこれから3人で遊ぶときには前みたいにアンタの好きにはならないわヨ。なんたって今度は女のコ組はアタシと凛の2人だからアンタは少数派なんだからネッ!」


「そっか、哲は凛って名前になったんか。じゃあ、ボクもこれからは凛って呼ぶことにするわ!」


「女同士だから呼び捨てにしてるの! アンタはちゃんと凛ちゃんって呼びなさい!」

久美ちゃんがキッとしたような表情で言うと


「へーーーい!」

ワタルはおどけるようにそう返事をしたのだった。



こうしてボクはある日突然に昔の幼馴染との再会を果たしてしまった。

そしてワタルがボクたちの中学に転校してきたのはその翌週のことだった。


月曜日の朝のホームルームの時間

担任の山岸先生は教室に一人の転校生を連れてきた。


「今日からこのクラスの仲間になります石川 渉君です。 それじゃ、石川君。挨拶して」


「エー、石川 渉いいます。大阪からやってきました。でも小学校の時はこっちにいて、五小に通ってましたんでボクのこと知ってる人も何人かいると思います。 好きなスポーツはサッカーです。友達百人作れるかなって気持ちでみんなと早く仲良くなりたい思ってます。どうぞよろしゅう」


たいていの転校生は最初は大人しそうに猫をかぶってるもんだけど、ワタルは図々しいくらい堂々とした態度でそう挨拶した。

小学校時代から知っている安田などはワタルの再会に嬉しそうだ。


ボクの身長は152センチ

クラスの女のコの中でも真ん中よりちょっと後ろくらいだ。

それに対してワタルは175センチは超えている感じ

ボクが彼の前に立てば見上げてしまう。


小学校の時はクラスで一番小さくて『まめぞう』なんて呼ばれてたくせに、たった3年間ちょっとでなんでこんなになっちゃったんだろう?

その上、なんかすっきりした感じの爽やか顔だし、さらに髪の毛はサラサラヘア。

なんかボクの記憶にある昔のワタルとあまりにかけ離れているような…。


だいたいアイツってこんな格好良かったかなぁ?

でも彼はボクのことも久美ちゃんのこともちゃんと覚えてたし、釣りのことも

ただし、この図々しい性格だけはボクの記憶の中のワタルとだぶっている。


(男のコってたった3年でこんなに変わっちゃうもんなんだなぁ……)

自分がわずか数ヶ月前まで男として生活していたのになぜか感心してしまう。


そんな感じだから、クラスの女のコたちのいたるところから

「ねぇ、なんかカッコ良いくない」

「やった!うちのクラスで久々のヒットじゃん!!」

なんて声がヒソヒソと聞こえてくる。


「えっと、じゃあ石川君はあそこの席に座ってくれる?」

そう言って山岸先生が指差したのは、女子の列の最後尾にいるミコの隣の席。


ワタルはその席に向かう途中、小学校時代同じクラスだった安田は

「よお、ワタル。また一緒に遊べるな」

と言って握手なんかしている。


そして自分の席に着くとミコの前の席に座るボクに

「凛ちゃん、よろしゅうな。ところで久美ちゃんは同じクラスやないんか?」

と言ってきた。


「久美ちゃんは隣のA組だヨ。あとで行ってみたら?」

ボクがそう答えると、

後ろの席のミコは

「あれ、凛の知ってる人?」

とちょっと驚いたように聞いてきた。


「あ、ウン。アタシの小学校の時同じクラスの友達だった人なの」

ボクがミコにそう言うとワタルは


「あれ、冷たいなぁー。今でも友達やで」

と飄々とした顔で笑顔で言う。


その姿を見てミコがクスクスと笑った。


「おおっ、ずいぶんべっぴんさんやな。石川です、よろしゅう」


「藤本です。よろしく」


こうしてボクの周りにちょっと変わったヤツが出現したのだった。


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