第19話 Wデートは恋の予感?
それは、その日(大学祭)の夜のことだった。
プルルルルーーーーー
ボクの部屋のインターホンが音を立てて鳴り響く
受話器を取り上げてみると
「凛、ミコちゃんから電話ヨ」
と母親の声が聞こえる。
そしてそのすぐに
カチャッ
っと回線が切り替わる音がして聞こえてきたのはミコの嬉しそうにはしゃぐ声だった。
「凛、今日はアリガトーー!」
ミコはかなり興奮している様子だ。
普段はけっこう冷静というかクールな面を持っているミコには珍しかった。
「フフフ、ゆっくり楽しめた?」
「ウン!あのあとね、芦田さんに校舎の中を案内してもらったりして、それでお夕飯もご馳走になっちゃったの。」
「わぁー、よかったじゃん。じゃあ、そろそろ『付き合って?』とか言われちゃったりして?」
「ウウン。そういう雰囲気はないかなぁ…。アタシってやっぱり妹に見られてるみたいだから」
「そっかぁー。でも、たくさん会ってお互いのことをいっぱい知っていけば芦田さんのミコへの意識だって変わってくるかもしれないヨ?」
「そうなんだなよねぇー。だから今回の学園祭なんか一歩前進って思うんだけどさ。中々キッカケがないっていうかね」
「ウーン、じゃあさ、こういうのってどう?」
そこで思いついたのがこのWデート作戦だった。
ボクがワタルと惹かれあうようになったのも、あの中3のときのディズニーランドでの集団デートがきっかけだった。
そこで今回はそれをミコと芦田さんに置き換えてみるわけ。
ただしWデートというからには、ボクにも誰か相手がいないと始まらない。まさかミコと芦田さんのデートにボクひとりがお邪魔虫でついていくわけにもいかないだろう。
思いつくのは安田か工藤か…
でも安田は最近中学のときのクラス委員長だった井川さんとけっこう仲が良くなってときどき2人で会っているという話も聞く。
工藤はバスケで推薦をもらって高校に行ったからクラブ活動で忙しいらしい。
こういうときワタルがいればなぁ…。
ボクがそんなことをクルクルと頭の中で考えていると
「あのさ…」
ミコが少し遠慮がちにこう言った。
「笹村さん…誘えないかな?」
「笹村先輩かぁ…」
まあ、たしかにワタルがいなくなって今のボクにはお付き合いをしている彼氏というものはいないんだけど
でも、それだから笹村先輩に乗り換えようなんて気持ちにはなれない。
それにそんなことをすれば笹村先輩に対して失礼だって思うし…。
「あの人なら学祭のとき芦田さんとも会ったしさ、それに感じがいい人だから芦田さんとも気が合いそうじゃない?」
「そうだねぇ…」
「凛、オネガイッ!」
「ウン、わかった。じゃあ、アタシから笹村先輩に聞いてみるヨ」
モチロン笹村先輩は快くオッケーをしてくれた。
そんなわけでボクたちは2年ぶりにディズニーランドを舞台にしての集団デートとなったわけだ。
ボクとミコは最寄りの駅で待ち合わせして、そして新宿駅で芦田さんと笹村先輩が合流することになっている。
この日、ミコの提案でボクとミコはある趣向を凝らしていた。
「あのさ、アタシと凛、おそろいの服を着ていこうヨ」
ボクはちょっと不思議に思った。
今回はミコと芦田さんが主役なんだから、ミコは目一杯オシャレして、ボクはちょっと地味な方がいいんじゃなかって思ったんだけど。
するとミコは
「だってそういう方が姉妹みたいで楽しそうじゃない」
ミコはときどき突飛ない発想をしたりする。
でも言われてみれば確かに楽しそうではある。
そこでその何日か前にボクたちは家の近くのお店でお揃いの服を買ってきたというわけだ。
笹村先輩たちとの待ち合わせの場所に行くと笹村先輩と芦田さんはすでにすっかりと打ち解けた様子で話をして笑い合っていた。
「おはようございます!」
「よぉー、来たな。アレ!?」
芦田さんと笹村先輩はボクたちを見るとすぐにそのことに気づく。
「今日のミコちゃんと凛ちゃんって何か双子の姉妹みたいだな(笑)」
ブラックのウエストを絞ったジャケット
その下は白のリボン付きのブラウス
そしてラメ入りチェック柄の膝上プリーツスカート
ご丁寧にソックスまで黒のもので統一したのだ。
「なんかインパクトあるなぁー(笑)思い出に残りそうだ」
芦田さんが笑いながらミコにそう言った。
するとそれを聞いたボクの前にミコは右手で小さなガッツポーズを作る(笑)
「さあ、じゃあ行こうか?」
こうしてWデート大作戦は始まったのであった。
中央ゲートの前に着くとそこにはすでにたくさんの人たちが並んでいる。
その様子を見るとボクは中3のときみんなで行ったときのことをどうしても思い出してしまった。
あのとき
ボクは初めてワタルを自分とは違う『異性』の存在であることを意識した。
カレは人波に流されて転びそうなボクの身体を自分の腕に抱いた。
それが偶然のタイミングだったのか
それともワタルが意識してボクの近くにいてくれていたのか
今ではわからない。
でもあのときカレの腕に抱かれたときの熱い胸の感触は今でもボクの記憶の中にはっきり残っている。
そして
いよいよ開門の時間になる。
今回はボクらは人波に乗ってスムースに中に入ることができた。
(フフフ、まさか同じことなんてないよね(笑))
そんなことを考えたボクはハッと思った。
ボクは笹村先輩に何を期待したんだろう…。
笹村先輩はワタルじゃないのに。
ボクはフッと横で歩く笹村先輩の顔を見上げた。
「エ、なに?」
先輩はそんなボクに不思議そうな顔をする。
「ウウン。なんでもないです」
ボクはそんな自分の心を誤魔化すようにニコッと微笑んだ。
するとそのときだった。
人波みのずっと向こうの方で
一瞬ボクの目にワタルの姿が映ったような気がしたのだ。
ウソッ!!
ボクはその方向に向かって走り出す。
「お、おい!小谷さん!どこ行くんだ!?」
笹村先輩がびっくりしたようにそう叫んだ。
ワタルを見た気がしたその場所に辿り着きボクは辺りを見回す。
しかしどこを見てもカレの姿なんか見当たらない。
「どうしたの?」
ボクに追いついた笹村先輩がボクにそう尋ねた。
「あ、ウウン。なんか知っている人の姿を見たような気がして…」
「いきなり驚いた表情で走り出すからびっくりしたヨ。その知り合いは男の人?女の人?」
「男の人…です。」
「そっかぁ」
笹村先輩は何かを考えているように一言そう言った。
「どっちにしてもこの人の多さじゃ見つけるのは難しいんじゃないかな。でも、またどこかのアトラクションで見かけられるかもれないし」
「そうですね…」
それは1秒にも満たないほんの一瞬のことだ
果たしてそれが本当にワタルであったのかはボクにも自信がなかった。
「あの、ゴメンなさい。勝手な行動しちゃって」
「いや、いいヨ。さあ、芦田さんたちのところに戻ろう?」
笹村先輩は優しく微笑んで、そしてボクの前にすっと自分の手を差し出した。
不思議なことに、ボクは差し出されたその手をなんの躊躇いもなく握り返したのだった。
笹村先輩の手はあのときのワタルの手よりも厚くて硬かったけど、温かいぬくもりは一緒だった。
それからボクたちは、ボクの立てた作戦通り2つのペアに分かれて中を回ることにする。
意外だったのは、笹村先輩は高い場所が苦手らしいということだった。
ボクと笹村先輩はコースター乗り場で並んでいよいよ最上階まで上がる。
「わぁー、ここからだと下にいる人たちが豆粒みたいに見えちゃいますねー」
ボクが楽しそうにそう言うと
「ハ、ハハ…。そ、そうかい?」
と少し顔を引きつらせながら先輩は答えた。
いよいよボクたちの順番が回ってきて座席に着き
そしてコースターが走り出すとき、ボクはチラッと隣に座る先輩を見た。
すると先輩は目をぎゅっとつむったまま前のハンドルをしっかと握り締めていた。
「あの、笹村先輩。せっかくのコースターで目を閉じてちゃ気分を味わえなくないですか?」
ボクがそう言うと
「い、いや…オレは肌で気分を味わえるから…ハ、ハハ…」
と逞しい笹村先輩のイメージとは正反対の今にも死んでしまいそうなか細い声だ。
そしていよいよコースターが動き出す。
「きゃぁぁ~~~~~~~!」
ボクは回転する景色にキャァキャァと声を張り上げて喜ぶ。
ようやくコースターが終点に着いたときボクが先輩の方を見ると笹村先輩は
「ハハ、ハハハ…ああ、楽しかった」
と言いながらも半分目が潤んでいたのだった(笑)
「あのさ…」
一息つこうとボクと笹村先輩が入ったのは小さなカフェテリアだった。
「あ、ハイ」
「さっき入口のところで小谷さんが見たっていう知り合いの人」
「ああ、でもハッキリと見たわけじゃないから。 似た人だったのかもしれないし」
「あ、ウン。 もしその人だったとしたらだけどさ、もしかして小谷さんの好きだった人とか?」
ボクはちょっと考えた。
好きだった人
たしかにそうだ
そしてそれは今でも…
でもカレは本当に存在するのかどうかもわからない人のような気がする
ボクは笹村先輩になんて説明したらいいのか迷った
「あの、こんな話するとヘンに思われるかもしれないけど…」
「いいヨ。別にヘンなんて思うはずがない」
「昔、中学のときアタシがちょっと好きだった男のコ…っていったらいいのかな」
「その人は今は別の高校に?」
「…わかんないんです。突然いなくなっちゃって」
「どこに行ったかもわからないの?」
「ええ…」
「そっかぁ。それは不思議だな…」
「でも、だって…居もしない人を心のどこかに持ってるなんて…アタシってやっぱり変わってるんだなって思いません?」
すると笹村先輩はコーヒーカップを持ち上げてひと啜りし、そしてこう話し始めた。
「オレさ、昔、ずっと昔、オレがまだ小学3年生だったころ不思議なヤツと出会ったことがあったんだ」
「不思議なって?」
「ウン。ある日、オレが家の近くの公園に遊びに行くと、ひとりの男のコがポツンとブランコに座ってたんだよ。よく見るとその子は何か途方にくれたような、そんな感じがしてね。それでオレ「どうしたの?」って声をかけたんだ。
そうしたら、その子は親と親戚の家に来て途中ではぐれてしまったらしいんだ。
道もわからなくて、親戚の家の電話も知らない。それで年を聞いたらオレより1学年下、そうだな小谷さんと同じ学年だったわけだ。
その子はお金もぜんぜん持ってなくて朝から何も食べていなかったらしく、オレも金を持っていなかったから困った。そこでソイツを連れてオレは家に帰ったんだ。」
「笹村先輩の家に?知らない子を連れて?」
「そう。そしたら運悪くウチの母親は妹のピアノの発表会に付き添いで出ててね。オヤジは仕事でいなかった。そこでオレは食堂にあった食パンに冷蔵庫にあったトマトやらキュウリやらチーズをはさんでサンドイッチを作ったのさ。ガキの作ったもんだから不格好でぐちゃぐちゃなもんだったけどな(笑)
そしてそれを2つに分けてソイツと2人で食べたんだ。
ソイツは「美味い!美味い!」って笑顔で食べてくれてな。それからオレたちは部屋で遊んでいるうちに2人ともそのまま眠りこけちゃってさ。気がついたら会社から帰ってきた父親と母親が眠り込んでたオレたちのこと覗いてて」
「お父さんたち、驚きませんでした?」
「そりゃそうさ(笑) 一緒にいるのはどこの子なんだ?って。でもオレは知らない子って言うしかない。それから父親が警察に電話したら、その子の母親とやっと連絡が取れてね。ソイツの家はウチとちょっと離れたところにあったらしいんだけど、母親がそいつを迎えに来るまで、ソイツはウチで晩メシ食って、オレと一緒に風呂に入って。やっと迎えに来たときは2人でまた眠りこけちゃったんだ(笑)」
「へぇ、なんか兄弟みたい」
「ああ、そうだな。オレには妹しかいないんだけど、そのとき初めて会ったソイツがなぜか自分の弟みたいに思えてね。朝になって目が覚めたときはソイツはもういなかった」
「それからその子はどうしたんですか?」
「ウン。何か生まれつき身体が弱かったらしくてね、入退院をを繰り返していたらしい。何度か手紙を交換したけど、そのうち返事もなくなったな。そのときの手紙もどこにいったかなぁ…」
「たった一日だけの兄弟かぁ…。不思議ですね」
「ああ、アイツ…今頃どうしてるかなぁ」
笹村先輩っていつもクールっぽい感じしてたけど、こうやって2人でゆっくり話してみると意外にもけっこういろいろなことを話す人だったみたいだった。
しかしそれはオシャベリとかそういうのでなく、聞いてて聞き心地がいいというか、穏やかに話ができる人なんだって思う。
今までボクは高校に入ってからのこの人しか知らないわけで、彼にも子供の頃があって、そして偶然の出会いとかそういうものがあって、ボクはなぜだかわからないけど、この人の子供の頃をもっと知りたくなったんだ。
「笹村先輩って小さい頃はどんなタイプの男のコだったんですか?」
ボクがこう尋ねると先輩は少しウーンと考えるようなポーズでこう答えた。
「一言で言えばわりと内気な性格のガキだったな。友達も少なかった」
「エー、そうだったんですか?今からは想像つかないなぁー。先輩の周りっていつも友達がいるし」
「ハハハ、それはあるきっかけがあったんだよ」
「あるきっかけ…ですか?」
「ウン。さっき話した偶然知り合った男のコなんだけど、2,3回くらい手紙のやり取りをしたんだ。その中でソイツがくれた手紙に「透君は身体が元気で羨ましいな。ボクなんか小さい頃から入院ばっかりで透君みたいに強くなりたかった。」って書いてあったんだ。そのとき、オレさ、ソイツの分まで強くなりたいって何か思ってさ。そう思い立ったらあるとき空手道場の前を通って、ほとんど衝動的に入っちゃったんだ」
「へぇー。じゃあ、それからずっと?」
「ウン。道場に通うようになって練習は辛かったけど、自分の肉体だけじゃなく気持ちも強くなっていく気がした。それでそういう苦しさとかを分け合える友達ができるようになってね。熱中するものが同じ仲間っていうのは話だけじゃなくて心で触れ合えるんだなって思ったんだ」
笹村先輩の話はボクにとってすごく新鮮だった
中2まで男のコとして生活していたはずのボクにとって『男の気持ち』ってやつは、ミコやみーちゃんよりわかっている気になっていた。
安田や工藤みたいな仲のいい友達もいたし。
でも苦しみを分け合える友達っていうのが男のコとして生活していたときのボクにはいただろうか?
中学のときの男友達とは、楽しいから一緒にいたっていう気持ちしかないような気がする。
そういえば
ボクは最近ちょっと不思議に思うことがあった。
中学の頃は女のコとして生活しているボクは夢で、じつはボクは今でも男のコで女のコになった夢をみているだけなんじゃないかって思うことが多かった。
しかし最近それが逆に感じられるようになった。
男のコとして生活していたボクが夢で、じつはボクは生まれたときからずっと女のコだったんじゃないかって。
それを感じるようになったのはワタルを意識するようになってからだと思う。
だから、少しずつボクは自分が変わっていくような気がするんだ。
何がボクを変えていくのだろう?
それはやはり女性という自分の身体と男性という自分と対極にいる存在なのだろうか。
最初の頃は女のコの価値観を意識して吸収しようとしていたはずだけど、最近では女友達と話をしているとすごく気持ちが楽な気がする。
逆に男のコと話をしているとどこか緊張しているボクがいるような感じがする。
ただ、いまボクの目の前にいるこの男の人と話をしている自分は緊張感があるのにどこか心地いい気持ちになれるんだ。
それがすごく不思議なんだ。
ワタルが突然いなくなって3ヶ月。
それは長いのか短いのかわからないけど、ボクの日常は相変わらず続いているわけで。
ワタルのことを忘れてはいけないって思う自分と前に進まなくちゃって思っている自分がいて、いまボクはちょっと心が苦しかったりする。
「あのさ…」
「あ、ハイ?」
「オレ、キミのこと『凛ちゃん』って呼んでもいいかな?」
「エ、いいけど、どうしたんですか?急に」
「いや、小谷さんって呼ぶのも何か他人行儀みたいでさ。キミともっといろんな話ができたらいいなって考えたら、そのほうが呼びやすいかなって思ってさ」
「フフフ、そんなこと思ってたんですか?笹村先輩ってマジメだなぁー。」
「ウン、そうかもしれないな(笑)でも女のコを下の名前で呼ぶのって馴れ馴れしいとか思われたりしないかって男は考えちゃったりするんだぜ。男って気がちいせえよな(笑)」
「さあ、どーでしょー(笑)でも最初からそう呼ばれるより感じイイですヨ」
(アレ、でもワタルは最初からボクのこと『凛ちゃん』って呼んでたな)
「じゃあ、オレからもうひとつ提案!」
「ハイ、笹村先輩!」
「オレはキミのことを凛ちゃんって呼ぶ。キミはオレのことをなんて呼ぶ?」
「エ…」
「どう?なんて呼ぶ?」
「笹村…先輩?」
「それじゃ今までと同じだヨ?(笑)」
(いじわるだなぁ…)
「それじゃ…笹村さん?」
「ウーン、もう一声!」
「もう一声ですか?(笑)じゃあ…。」
「じゃあ?」
「トオル先輩」
「ハハハ、まあいいか(笑)じゃあ、それでいこう」
「ハイ(笑)」
そんなわけで、小谷さんと笹村先輩だった2人の関係は、何やら凛ちゃんとトオル先輩になってしまったわけなのだ。
午後4時
ボクたちとミコたちは約束通り中央ゲートの前で集合した。
ミコはもうすごいニコニコ顔
ボクに何かを話したくてウズウズしたような表情だ。
まあ、それは後でゆっくり聞きましょう。
そしてボクたちは今日の記念にとみんなで集合写真を撮ることになった。
近くに歩いていた人に頼んで4人で写真を撮る。
前にボクとミコが中腰で並びそしてその後ろに男の人2人が立って
「パシャっ」
カメラを返してもらったボクは次にミコと芦田さんに
「2人のペア写真撮ってあげる」
と言うと、
いつもわりとクールなミコが頬を赤く染めながら芦田さんの横に立った。
「芦田さん、もう少し近くに来ないとフレームに全部入りませんヨー。」
そしてついでにミコに芦田さんの腕に手を回させて
「パシャっ」
「アリガトー、凛。お土産でフォトスタンド買ってこの写真いれようっと」
ミコは嬉しそうにそう言った。
するとトオル先輩が
「凛ちゃん。せっかくだからさ、オレたちも撮ってもらおうヨ。」
と言ってきた。
その言葉にミコはちょっと意外そうな顔をする。
多分ミコはトオル先輩がボクのことを凛ちゃんと下の名前で呼んだことに反応したんだろう。
それはむしろそれを「ヘェー」というような表情だった。
「いいヨ。じゃあ2人で並んで?」
ボクは手を前に組んでトオル先輩と並んだ。
「アレ、凛。それじゃフレームに全部入らないヨ?ちゃんと腕を組まないと。」
ミコはちょっと意地悪そうにニヤっと笑ってそう言う。
「エ、腕とかそんなのって関係あるの?」
「大アリヨッ!このカメラってフレームが狭いから(笑) さあ、もっとくっついて?」
ああ、ミコったら完全に遊んでるね?
しょうがなくボクはトオル先輩の腕に軽く自分の手を置く。
横にいるトオル先輩は少し緊張したように直立態勢だ。
「ウーン、2人ともちょっと固いわね。もっと自然体に!ほらっ!」
ミコに急かされてボクもとうとう諦めた。
ああ、もうどーにでもしてっ!
ボクはトオル先輩の腕に手を絡ませてニコっと笑う。
そして
パシャっ!
あとでゆっくりミコに芦田さんとのことを聞いてやるつもりだったのに
これじゃボクの方が根掘り葉掘り聞かれちゃうそうだ(笑)




