第15話 夏合宿
いよいよ明日から青葉学院高等部に入って初めての夏休みだ。
「凛、成績表どうだった?」
終業日の帰り道、夏休みを前に浮かれたボクにミコは尋ねてきた。
「ダメ~~~。あーあ、やっぱり中学みたいなわけにはいかないヨォ」
「アハハ、そりゃそうだヨ。みんなやってないように見えてけっこう補習塾とか行って頑張ってるんだから。」
「でもミコはやっぱりスゴイよねぇー。クラスで10番以内には入ってるんじゃない? アタシなんかやっと真ん中に追いついてるくらいだもん。 ねぇ、ミコは学校の先生目指してるんだから教育学科志望でしょ?」
「ウン。小学校の頃からのアタシの夢だからね。凛はどの学部志望とか決まってるの?」
「ウウン。今のところは特にないけどね。だってさぁ、今まではとにかく青葉に受かることしか考えてなかったし。でも理工学部だけはやめとく。数学嫌いだもーん(笑)」
「アハハ、凛らしいね。でも3年間って長いようで短いから、今から少しずつでも自分の目標を考えておかないとね」
そうなんだよね。
青葉に入っても、それから先の目標を作らないと、そこで止まっちゃう。
でも目標っていってもボクは将来何になりたいんだろう?
やっぱり一応女だから、将来は結婚して子供を産んで・・・ってなるんだろうか。
そのときボクの頭の中に浮かんだのはやはりワタルとの将来の姿だった。
カレは昔のボクはもう自分の中にいないって言ってくれている。
もしも、もしもボクが将来ワタルと結婚するなんてことになったら
ボクはカレの赤ちゃんを産んでそして育てていくんだろうか。
でも
実はボクはワタルに対してずっとどこか不思議な気持ちを持っていた。
小5のときに転校する前のカレのことはいろいろ知っているのに、中3で戻ってきたカレについてボクは知らないことがたくさんあった。
たとえばボクはワタルの家が今どこにあるのかさえ知らない。
小学校の時カレの家には何度も遊びに行ったことがあったし、カレのお父さんともお母さんともよく話をした。
でも以前昔のカレの家に行ったことがあったが、そこには知らない名前の表札がかかっていた。
今カレのお父さんやお母さんはあのときと同じように元気でいるんだろうか?
学校がある間はカレと会う機会も多い。
でも、夏休みとかの長い休みになってカレと連絡を取れるのはカレから一方的にボクの家か携帯に電話があるときだけだ。
それについてボクはずっと不思議に思ってきた。
カレに連絡先を聞こうと思ったときもあった。
少なくとも学校には連絡先や住所は教えてあるはずなんだし。
でもそう思うたびに何か口ごもってしまうワタルに気を使ってボクはそういう話題を避けてきたんだ。
だから・・・
ボクは、カレが本当にあの頃のワタルなんだろうか…
という思いを今でも心のどこかで抱いてしまっている。
そんなことを考えてボーっと歩いていると、ミコがボクの肩をツンツンとつついてきた。
「凛?ねぇ、凛?」
「あ、ゴメン。なんかボーッとしちゃった」
「へんな凛(笑) そういえばさ、アンタとみー、来週からチア部の合宿でしょ?」
「ウン。っていっても、ホテルとかじゃなくて青葉の校外施設だけどね。だからチア部だけじゃなくて応援団と空手部も時期が一緒らしいヨ」
「そうなんだー。空手部っていったら、あの人がいるんでしょ?入学前に渋谷でアタシたちのこと助けてくれた人」
「あ、ウン。笹村先輩ね」
「そうそう。アタシも前に校舎の中で会ってあのときのお礼言ったら「気にすんな」ってニコっと笑ってくれて。あの人ってすごく感じいい人だね」
「そうだねー。入学してすぐくらいにアタシも偶然会ったんだけど、そのとき一緒にいたみーちゃんが同じこと言ってた(笑)」
「ワタル君もカッコイイけど、なんか彼とはタイプが違う感じだよね」
「あ、アタシもそう思った(笑)かなりタイプ違うよね」
「凛はそれから何度か笹村先輩に会ったりしたの?」
「エットね、3回くらいかな。部活で体育館が一緒だから」
「あ、そっかぁー。アタシは水泳部だから体育館には縁がないなぁ(笑)」
チア部の今年の新入生10人のうち夏休みまでに残ったのは7人。
その7人の新入生にもいよいよチアユニフォームが許されて初めての合宿となるわけだ。
そしてじつは今日そのユニフォームがデパートから届くことになっている。多分家に帰ればもう届いているのかもしれない。
ボクはそのことでちょっと心がワクワクそしてドキドキとしていたのであった。
さて
家に帰ったボクが2階にある自分部屋に入ると、机の上には長方形の箱が2つ置いてあった。
箱にはチアユニを頼んだデパートのマークがついている。
はやる心を抑えてボクがその箱を開けると、中には青葉学院高等部Titansのネームの入ったユニフォームが2着、そしてもうひとつの箱にはとアンダースコートやソックスなどがセットになっていた。
「わぁー!」
ボクはそれを箱の中から取り出して広げてみる。
さっそくそれを身につけてドレッサーに映してみると、やっぱりスコートはかなり短い。
恥ずかしい気もするけど、でもこれを着て飛び跳ねている自分の姿を想像するとなんかワクワクもしてくる。
すると
プルルルーーー
部屋の内線電話の音を鳴りだす。
そして
「凛、佐倉さんが来たわヨ」
と母親の声が聞こえてきた。
「エ、みーちゃんが?」
ボクはチアユニのままで部屋を出て階段を下りていった。
するとリビングのソファにはすでにみーちゃんが座って待っていてくれている。
みーちゃんの横には弟の悟が座り、2人で仲良さそうに話をしていた。
そういえば青葉に入学し、みーちゃんと知り合ってからすぐに彼女がウチに遊びに来たとき以来みーちゃんは悟と妙に仲がいい。
彼女はウチに来るたびに悟の大好物のチョコケーキを持って来てくれる。
悟は彼女のことを『みー姉ちゃん』と呼びとても慕っていた。
「ねぇ、なんでアンタって実の姉のアタシは凛ちゃんでミコもミコちゃんって呼ぶのに、みーちゃんだけみー姉ちゃんなの?」
ボクは悟にそう聞いたことがあった。
悟はしばらく考えたあと
「ウーン…。わかんない。みー姉ちゃんってすごく優しいし、お姉ちゃんってイメージだからじゃん?」
「ちょっとっ!アタシだって優しくしてやってるじゃん」
ボクがちょっとムッとしたように言うと
「凛ちゃんは、優しいときもあるけど怒ったらけっこー怖いじゃん。みー姉ちゃんは怖いときぜんぜんないもん。」
と平気な顔で悟は言いやがったんだ。
まったくどっちがホントの姉弟だかわかんなくなってくる。
「アレ、凛。もう着ちゃってるんだ」
みーちゃんがクルッと振り返ってボクの姿を見た。
「おー、凛ちゃん。スゲーミニスカート!」
みーちゃんの横にいる悟がそう言ってボクをからかう。
「ウルサイ、エッチ!あっち行け!」
ボクはそう言って悟を追い払おうとする。
「アハハ、いいじゃん。じつはアタシも持ってきてるんだ。凛と一緒に着てみたくって」
「あ、そうなんだぁ。じゃあ、アタシの部屋に行こうヨ。 悟!アンタ来ないでヨッ!」
そう言ってボクはみーちゃんを連れて自分の部屋へと戻った。
それからボクとみーちゃんはお互いのチアユニ姿を写真に撮ったり、母親を呼んで2人並んで撮ったりとしばらくコスプレを楽んだ。
「ところでさ、アタシ、さっき学校からの帰り道で笹村さんとばったり会っちゃった。」
コスプレを一通りご満悦して母親の入れてくれた紅茶とクッキーでおしゃべりを始めたとき、みーちゃんがこんなことを言った。
「笹村先輩と? ヘェー、どこで?」
「渋谷駅の近くでね、笹村さんがスポーツ用品店から出てきたとこでバッタリ。まあ、少し話してただけだけどさ。」
「そうなんだぁ。空手部も来週から一緒に合宿だから、何か用具でも買いに来たんだろうね」
「だろうね。でさぁーーー」
「ウン」
「笹村さんにアンタのことを聞かれちゃってさ」
「エ、アタシのことを?なんて?」
「「小谷さんは付き合ってる人っていうのかな?」って」
「それで、みーちゃんはなんて言ったの?」
「107HRの石川君のこと言ったけど、まずかった?」
「ウウン、いいけど…。でも、なんでだろう?」
「まあ、そりゃ…ねぇ。やっぱり、凛に気があるってことじゃないの?」
「アタシにーー!?ウーン・・・」
「ウーンって、その反応なんで?」
「だってさぁ、アタシなんか別に可愛くもないし、目立つわけもないんだヨ?それにあの人ってモテそうだし」
すると
みーちゃんは紅茶を一口すすってクッキーを口に加えると
「あー、凛はわかってないんだなぁー」
そう言って首を左右に振った。
「わかってないって、なにが?」
「アタシが入学式の前に初めてアンタとミコに会ったとき、アタシはアンタのこと、わぁー、可愛い娘!って思ったんだヨ」
「アタシがー!? それをみーちゃんに言われるとは思わなかったなぁ(笑)」
「なんて言うのかなぁ、女のコの可愛さってのは顔が整ってるとかそういうことだけじゃないんだヨ。醸し出す雰囲気っていうかなぁ。アタシなんかさ、初めてアンタを見たとき、あー、もし自分が男だったらこの娘のこと無理やり校舎の影に連れ込んででも自分の彼女にいてただろうなぁー、って思ったんだヨ?」
「み、みーちゃん…それって怖いヨ(汗)」
「まあ、それは半分冗談だけどさ(笑)」
「じゃあ、半分は本気なの?(汗)」
「アハハ(笑)まあ、それはともかくさ、そういうことがあったってこと。アンタには石川君がいるんだし、笹村さんに気を持たせちゃうのはかわいそうじゃん」
「そうだねぇ・・・」
そして一週間後
いよいよ合宿が始まった。
湖の辺にある青葉学院の宿泊施設で、今日から5日間ボクたちチア部と空手部、そして応援団が練習を行う。
とはいっても、3つの部が合同で練習をするわけではなく、それぞれが独自のメニューをこなしていく。
街の中よりは涼しい気候とはいえ練習はいつも以上のハードさ。
朝の5キロランニングから戻ってくると体育館でいつもの柔軟体操。
そしてボクたち新入部員も混ぜていよいよスタンツの基礎訓練が行われる。
身長155センチで体重も軽めのボクにベースは難しく、かといってみーちゃんのようなチアの経験者でもないので一番危険なトップも無理。
だからベースを支えるスポットのポジションがいいだろうということになった。
一方でチア経験者のみちゃんは、身長が162センチと高いこともありベースのポジションを任される。
そして朝9時から12時まで3時間の午前練習をこなしたらようやくお昼ご飯。
大きな食堂には3つの部の70人以上が一堂に会して席に着いている。
今日のお昼のメニューは定番のカレーライス。
チア部の新入部員は少し早目に来て空手部や応援団の新入部員たちと一緒に食事の準備をする。
スプーンとサラダフォークをセットして、カレーをお皿に盛りサラダを添えて準備完了!
ちょうど準備が終わった頃次第に先輩たちが食堂に来て席に着き始める。
ボクやみーちゃんも自分の席に着いた。
目の前にはカレーのいい香りが鼻をくすぐる。
はっきり言ってもうお腹がペコペコだった。
「それじゃ、いただきまーす!」
応援団部長の岩崎先生の合図で食事の開始。
「あー、お・い・し・い!」
ボクはご飯を軽く盛られたカレーを軽く平らげてしまう。
ここではおかわりは自由。
しかしすでに女子よりも男子が先におかわりコーナーに押し寄せていて長蛇の列。
もう一杯だけ食べようかな。
そう思ってボクが空になったお皿を持って立ち上がろうとしたとき
「よぉ!小谷さん」
そう声をかけられて、ボクは後ろの席を振り向くと
そこには笹村先輩が座っていた。
「あ、こんにちわぁ」
ボクはペコンと頭を下げてそう挨拶する。
笹村先輩はお皿を手に持ったボクを見ると
「おかわり?」
と聞いてきた。
「エ、あ、イエ、その…。あー、美味しかった。ごちそうさまー…って」
ボクはそう言ってごまかすように笑う。
それでも横目でおかわりの列を恨めしそうに見るボクの目つきはわかりやすかったみたいで
「こんなんじゃ、ぜんぜん足りないよな。なぁ、オレおかわりするから小谷さんももう少しなら食べれるだろ?」
ボクは心の中でこう叫ぶ。
ウンッ!食べれますっ!
食べれますともっ!
もう少しと言わずもう一杯とでもっ!
「もう少しだけなら・・・」
でも控えめにそう言ったボクに
「じゃあ、一緒に並ぼうぜ!」
笹村先輩はそう言ってニコッと笑った。
「そんな小盛りじゃ足りないだろ?ちゃんと食べておかないと午後練習でバテちゃうぜ」
そして先輩のおすすめで結局もう一杯丸々平らげてしまったボクだった。
毎日のハードスケジュールもいよいよ4日目
そして今日の午後練習は3部とも3時に切り上げて買い出しとパーティの準備に取り掛かる。
明日はいよいよ合宿の最終日。
そこでチア、空手、応援団三部合同で今日の夕御飯は打ち上げのキャンプファイアーが行われるからだ。
「買い出しは4人ね。応援団から2人と空手部から1人来るから。ウチからは凛にお願いするね。みーはお料理の下ごしらえ。オッケー?」
「ハイ!」
そして各部から買い出し係になった3人が玄関のところに集まる。
応援団からは1年生の池尻くんと2年生の文屋さん、
そして
「アレッ、空手部からは笹村先輩ですか?」
「ウン。1年生は薪割りとか機材運びで目一杯だからね」
買い出し係のボクたち4人は宿泊所の自転車1台を転がして3キロ先のスーパーまで行くことになった。
「じゃあ、小谷さんが必要なものを選んでいってもらえるかな。カゴは池尻くんが持ってもらえるかな?」
買い出し班のリーダー笹村さんがそう指示を出す。
「オッス!ありがたく持たせていただきますっ!」
応援団の池尻くんは直立不動で返事をする。
結局買い集めた荷物はダンボール2箱、そしてビニールの大袋で9コと膨大な量になった。
積み上げられた箱と袋を前にして笹村先輩は
「まいったなぁー。まさかこんなにすごい量になるとは思わなかったな。自転車にダンボール2箱と前カゴにビニール袋1つ入れるとして、あと8袋をオレと文屋で持つか」
と呆れたように言う。
「あの、アタシも持てますけど」
ボクがそう言うと
「エ、だって、1袋でもけっこう重いぜ?」
笹村さんは心配そうな顔をして言った。
「大丈夫です。これでもチア部って思ってるよりずっとハードなんですヨ。両手で2つ持てます」
ボクはそう言って片手で力こぶを作るポーズをした。
「ハハハ、そっか。じゃあ、オレと文屋で重いものを中心に3つずつ持つか」
笹村さんは笑いながら応援団の文屋さんに言うと
「オッケー! よぅし、池尻ーーーっ!」
文屋さんは池尻くんの方を振り返った。
「オーーーースッ!!」
「これからオマエに重大な任務を与えるーーーーっ!この自転車に積めるだけの荷物を積んで合宿所まで運べーーーーーっ!」
「オーーーースッ!!」
「途中誰に妨害されようとも命をかけて積荷を守りぬけーーーっ!」
「オーーーースッ!!この命に賭けてまして守り抜いてみせまーーすっ!!」
あの…
命を賭けてって
誰がこんなものを狙うっていうんですか?
唖然とするボク
そして横で聞いて笹村先輩は苦笑する。
「相変わらず応援団はスゲーな(笑)まあ、1年奴隷、2年平民、3年貴族ってのはよく聞くけど(笑)」
1年は奴隷…なんですか?
じゃあ、OBはもしかして神様とか?
ボクたちはそれぞれ手に持てるだけの荷物を持ち、来た道をテクテクと歩き出した。
合宿所に着いたのはそれから30分後。
建物の前にある広い庭にはすでにキャンプファイアが組み立てられ、並べられた長テーブルにはいくつかの料理が並んでいいる。
「さあ、最後の夜をみんなで楽しみましょう!」
組み上げられた薪には炎が点り夜の闇を明々と照らしている。
そして並べられた美味しそうな料理やお菓子の山。
どの部の人たちも混ざり合って楽しそうに語らっている。
しばらくして少し疲れを感じたボクはみんなのいる場所を離れて庭の端にあるベンチに腰掛けた。
「ふぅ・・・」
小さくため息をついてふと夜空を見上げると
まるで黒いカーテンの上に無数の宝石を散りばめたように星が輝いている。
この空の向こうにいるワタルは今頃何をしてるんだろう?
カレのことだからまだ宿題に手をつけ始めているとは思えない。
毎日図書館に通って好きな歴史の本を読んでいるんだろうか。
そんなことを考えていると
「どうした?疲れちゃったかな?」
ふと声がして振り向くとそこには笹村先輩が優しそうな表情で立っていた。
「あ、ちょっとだけ」
「今日は2つも重い荷物抱えて歩いたからな」
「だって、男の人だけに荷物を持ってもらうのって不公平だって思うし」
「ウン。オレも同感だな。でも、そう考えられる女のコは実際少ない」
「そうですか?」
「まあね。だからそう考えられる女のコはとても魅力的じゃないかな?」
「彼氏・・・」
「エ?」
「あ、ウウン。小谷さんの彼氏ってさ、107の石川君っていったっけ?」
「あ、ハイ」
「あ、ゴメンな。この前佐倉さんにばったり会ってさ、そのとき何気なく聞いちゃって」
「あ、それってこの前みーちゃんから聞きました」
「どういうヤツなんだろうなってちょっと思ってさ」
「カレですか? ウーン…、そうですねー。まずいつも飄々としててお気楽そう、何も考えてないんじゃないかって思うくらい。それにどの女のコにも気さくに話しかけるなぁ。もしかして軽い、ナンパなのかもしれない」
「オイオイ(笑)それじゃ彼氏のことボロクソ言ってるみたいに聞こえるぜ」
「エ、そう聞こえます?」
「まあな(笑)」
「フフフ。でもね・・・」
「でも?」
「とっても温かいんです。一緒にいてアタシも温かい気持ちになれちゃうんです」
「そっかぁ。そりゃ男としての魅力ってやつだよなぁ。でも、いいなぁ」
「いいなぁって?」
「いや、人と人の出会いって不公平かもしれないなってちょっと思ったりもする。」
「そうかもしれないですね。でも、もし運命っていうものがあるとしたら、そういういくつもの出会いの繰り返しのあとで最後に出会うべき人に出会えるんじゃないかなって」
ボクがそう言うと笹村先輩はボクの顔をじっと見つめた。
「あの・・・」
ボクは彼の表情に戸惑いを感じた。
「あ、ゴメン。いや、ちょっとびっくりしたんだ」
「ゴメンなさい。アタシ、ヘンなこと言っちゃいました?」
「ウウン。ぜんぜんヘンじゃないヨ。素敵だなって思った」
「エ・・・」
笹村先輩の言葉にボクは耳まで真っ赤になってしまった。
そして笹村先輩は夜空を見上、そして小さく呟いた。
「そうだよな。出会いの繰り返しの中で出会いべき人にはいつか必ず出会うときがくる。それを待ってみるのも悪くないか・・・」




