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第13話 ライバル登場

さて

みーちゃんに引っ張られてなんとチアリーディング部に入ってしまったボク。

しかし、さらにびっくりしたのは、チア部の顧問はなんとうちのクラス担任の佐藤 優実先生だった。


みーちゃんと共に最初の説明会に出席したとき、ボクは佐藤先生にこう言われた。

「へぇ、小谷さんは文化系のイメージだったんだけど。チア部はきついわヨー。 でも受験教室もクラス分けもアタシが担任だったのはびっくりだったけど、部活まで同じとはねぇ。アナタとはよっぽど縁があるのネ」


ボクにとってチアリーディングといえば女のコばかりの何か女子校的な感じで、TVでときどき見るミニスカートで足を上げて踊っているイメージしかなかった。


だから適当に愛想を振りまいて踊っていればいいんだろうくらいの軽い気持ちで公開練習に出たけど、実際のチアはそんな生易しいものではなかった。

まさに体力とチームワークを必要とするスポーツそのものだったのだ。



今年チア部に入部した新入生はぜんぶで10人。

例年1年経って残るのはこのうち半分程度だという。


とにかく最初は基礎トレーニングから。

毎回基礎体力をつけるばかりどでチアのチの字も感じられない。


でも小学校からチアをやってきた経験者のみーちゃんでさえそうしたトレーニングを文句ひとつ言わず頑張っている。


本格的に演技になってくればスタンツといわれるピラミッドの体制を組むことがあるそうだ。

そのとき、自分がそれを構成するベース、スポット、トップのどの役割になってもお互いを支え合う基礎が大切で、一瞬の気の緩みが自分だけでなく他の人にも大怪我をさせてしまう危険性があるという。



「ハイ、それじゃランニングいくヨー。じゃあキャンパス3週ー!」」

かるい体操の後3年生の可奈子先輩の合図でランニングが始まる。


「あのー、キャンパスって高等部の中だけですかあ?」

新入部員の女のコのひとりが軽く息を切らせながら質問した。


「何言ってるの。 こんな狭いとこ3周したってランニングにならないでしょ! キャンパスっていったら大学も中等部も全部ヨ。ただし初等部は大通りの向こうからカンベンしてあげとくわ」

平然とした顔で怒鳴りつける可奈子先輩


「エー!だって1周で1.5キロくらいあるヨー? それを3週って…」

新入生の女のコたちは一斉に驚きの表情


「文句言わない! さあ、いくヨー!」

そしてボクらは2,3年生の後についてキャンパスの壁沿いに走っていく。


2周目になると足がフラフラしてきて、3周目では頭がボーっとさえしてくる。


「ハァ、ハァ、ハァーーーーーー」

新入生のほとんどは意識朦朧とした状態。

最後に正門から構内に入ったときには足が絡まって転ぶ娘までいた。


「ハイ、とうちゃーーーーーく!」

ようやく3周が終わると1年生は一斉にその場に腰を下ろしてしまった。


まだ春だというのに身体からは滝のように汗が吹き出してくる。

「ハァ、ハァ…アタシ…どうしよぉ。替えの下着持ってくれば…ハァ、ハァ…よかったヨ…ハァ、ハァ…」


話をするより息を付く回数のほうが多い。

ヘタをすれば、ウウン、ヘタをしたくてもこれは中学時代のサッカー部の練習よりキツイ。


そして

10分間の休憩のあとは柔軟体操

2人ペアになって足を広げて容赦なく地面に押し付けられるのだ。


「ウゥゥゥゥーーーーーー!!」

ボクのペアの相手はみーちゃん

経験者のみーちゃんはこれでもかというくらいぎゅぅぎゅぅと押してくる。


「み、みーちゃん…もうちょっとゆっくり…い、いたい、いたいってぇ…」

ボクがかろうじて漏らした声にもみーちゃんは

「ダメだヨー。これくらいやらないと身体が柔らかくならないって。ホラッ、凛、ガンバレっ!」


そんな練習が週に3回も続く。

そして最初は10人もいた新入部員も1人辞め、2人辞めという感じで仮入部の1ヶ月が経ったころにはなんと7人にまで減っていた。


それでも先輩たちはゲラゲラ笑っている。

「まあこんなところかな(笑) 今年は半分を切らなかったからよかったネー」

「アハハハ、去年のアタシらなんか12人いたのが6人になったもんネ」


そんな中でボクは先輩たちにこう言われた。

「いやー、凛がまっさきに辞めちゃうんじゃないかって思ったんだけど、意外にねばりがあるんだもん。驚いちゃった(笑)」

「そうそう。アタシもそう思ったヨ。なんか凛って「あー、守ってあげたいっ!」ってイメージなんだよねぇ」


先輩方

なんだか喜んでいいのかからかわれてるのかよくわかんないデス……。


こんなふうに先輩たちにも少しだけ認められるようになって、ボクは次第にたくさんの仲間たちに囲まれるようになっていく。


そしてそうなってくるとボクも段々やる気が湧いてきた。



「みーちゃん!遅れるとまた先輩にどやされちゃうヨッ!」

放課後、自分の机の整理をしているみーちゃんをボクは急かす。


「わかったってぇ(笑) なんか、凛、最近スゴイね?」

みーちゃんはそう言って笑いながら体操着を取り出す。


「さあ、これでオッケーっと。凛、行こうか?」

「ウン!じゃ、ミコ。また明日ネー」

「ウン。じゃ、2人とも頑張って」


これから水泳部に向かうミコにサヨナラを言ってボクとみーちゃんは廊下を足早に歩き出した。


階段を下りて校舎を出て、隣りにある体育館まで約100m。

あの角を曲がればあと少しーーーーーーーーー


そしてボクがいつもの角を曲がろうとした

そのとき、ボクの視界に突然反対側から歩いてきた2人の男の人が入ってきた!!


「きゃぁぁぁーーーーーーっっ!!」


ぶつかるぅぅぅーーーーーーっっ!

と、そう思ったときーーー


(アレッ・・・?)


フワッっとボクの身体が宙に浮かんだのだ!


そして宙に浮かんだボクの身体がスゥッと収まったのは

その2人の男の人のうちのひとりの腕の中だった。


一瞬なにがどうなったかわからずポカンとしたままのボク


そして、ボクの身体を抱いた男の人はゆっくりと下ろした。


「オイオイ、だいじょうぶか?」


まだ少しボーっとしたままのボクはハッと気づき

「あ、あの。すみません。ゴメンなさい」

そう言ってその人に頭を下げる。


「いや、オレはだいじょうぶだけど、そっちはどっか捻ったりしなかった?」

「あ、ハイ。だいじょうぶです」

そう言ってボクが頭を上げたとき


「アレッ!?キミ、もしかして?」

そう言われて指を刺されたボクは彼の顔をしばしじっと見た。


そして


「アァァァーーーーーーーーッ!」


そう!思い出した。

彼は入学前にミコと青葉の制服を買いに来たとき、ナンパされた不良たちから助けてくれた人だった。


「そっかぁ。そういえばあのとき今年青葉に入るって言ってたもんな?」

「ハイ。あのときは本当にありがとうございました」


「いやー、いいヨ。そういや、お互いに名前も知らなかったな。オレは2年で空手部の笹村ささむら とおるっていうんだ」


「1年生の小谷 凛です。 チア部に入りました」

「へぇー、チア部かぁー。じゃあ、戸倉っていない?」


「あ、います。美奈さんですよネ」

「そうそう。オレ、戸倉と同じクラスなんだ。 でも残念だなあ」


「エ、なにがですか?」

「いや、野球部とかサッカー部ならチア部の応援があるだろうけど、まさか空手部じゃ無理だな」

そう言って彼は

「あはは!」

と楽しそうに笑った。


(アレ・・・)

(意外・・・)


あのときの彼はボクたちをナンパした男2人をすごい勢いて倒しちゃって

そのときは目が険しくってちょっと怖かったりした。


少しぶっきらぼうな感じだったし。

でも、今日はとても気さくで優しくって…なんかホント意外。


「あ、これから部活だろ?急いだ方がいいな。ここはよくゴッチンコする名所だからこれからは気をつけろヨ。じゃあ、またな」

「ハイ。ありがとうございます。また」

そう言ってボクたちは分かれた。


「ねぇ、凛。さっきの人、知ってる人?」

再び早足で歩き出したボクにみーちゃんがそう尋ねる。


「あ、ウン。じつは入学前にミコと渋谷に来たときにナンパされて困ってたら助けてくれたの」

「へぇー、そうなんだぁ。でも、なんかカッコイイ人だね?すごく優しい感じだし」

「そ、そうかな?」


ボクはみーちゃんのその言葉になぜかわからないけど少し顔を赤くしてしまう。


(なんでドキドキするんだろう?)

(別にただの先輩なのに…)


ボクはそう考えながら、さっき笹村先の腕の中にいた自分を思い出してしまった。


(でも、笹村先輩の腕の中すごく温かかったな…)


それがボクと笹村先輩との再会だった。




さて、こんなふうにしてクラスでも部活でも次第にたくさんの仲間が出来ていった頃

そんなときある事件が起こったのだ。


それはある日

2時限目が終わった休み時間だった。


ボクはミコとみーちゃんの3人でトイレに行って教室に戻ろうとしていたときだ。

フッと廊下の向こうを見るとワタルが何冊かの大きな本を抱えて歩いてくる。


「ワタルくーーーん!」

ボクは小さく手を振ってカレの名前を呼んだ。


「おお、凛ちゃんたちやないか」

「どうしたの?そんな大きな本持って」

「いやな、ウチのクラスで今度グループ研究やるねん。それでボクのグループは戦争史を発表するんで、その調べもんで大学の図書館で借りてきたんや」


「へぇー、すごいねー。そういえばワタル君って歴史の勉強好きだもんね」

「でも、思ったより奥が深くってな。ボクがリーダーになったもんやさかいけっこう大変なんヨ」


「すごいじゃない。じゃあ、頑張らないとね」

「ワハハ、そやなー」


すると

そんな話をしていたボクたちの後ろから突然


「石川君、みんなまってるヨ?」

とワタルに声をかけたのはウエーブのかかった長い髪にわりと高めの身長、そしてはっきりした顔立ちの女のコだった。


「ああ、すまん、すまん」

ワタルは頭をかきながらその娘に謝る。


「このひと誰?」

その娘はボクの方を見てぶっきらぼうにそう言った。


はっきり言ってちょっとムッとしたけど、ワタルの知り合いだから、ボクは一応愛想よくニコっとして

「はじめまして」

と挨拶した。


「あ、ボクの同じ中学出身でな。小谷 凛さんっていうんや」

ワタルは彼女にそう説明した。


すると

その娘は

「ふぅん。」

と僕を横目で見て一言。


(ちょっとぉぉーーー!)

(それってあんまり失礼じゃない?)


「ワタル君、こちらどなたかしら?」

ボクは頬が頭に来てひきつるのを我慢しながらワタルにそう尋ねた。


「あ、エット、そ、その、ボクと同じクラスの川島 弥生さんっていうんや」

ワタルはただならぬ気配を察してどもりながらもそう紹介する。


「そう、ドーモ」

ボクは改めてそう一言だけ吐く。

そしてボクと川上 弥生はお互い横目でにらみ合うように見合った。


すると

川島 弥生は突然

「さあ、石川君。グループ学習会に遅れちゃうヨ!」

そう言ってワタルの腕を掴んだ。


(エ、ちょっとっ!!)

(アンタ、人の彼氏になにしてんの!?)


そして

ボーゼンとするボクを横目でフフンとせせら笑うように、川島 弥生はワタルの腕を抱えるように連れ去っていったのだった。


それを見ていたミコとみーちゃんは怒り心頭という表情で吐き捨てるように言う。

「なに!?あの娘。スッゴイムカツク!!」

「石川君も、なんであんな娘のいいなりになってんのヨッ!」


そこにたまたま通りかかったのが同じクラスのエリちゃん。


「アレ、どーしたの?」

彼女はボクたちの憮然とした顔を見て声をかけてきた。


「ねぇ、エリ。あの娘って知ってる?」

ミコはワタルの腕を引っ張って廊下を闊歩する彼女を指差してエリちゃんにそう尋ねた。


「エ、ああ。川島 弥生でしょ。アタシ、中等部で2,3年生のとき同じクラスだったヨ」

「そうなんだ? で、どんな娘?」


「なんかねー、あんまりいい噂は聞かない。中等部のときから男をとっかえひっかえしててさぁ、男がその気になるまではすごい強力にアプローチするんだけど、2,3回デートしたら振っちゃうって。女のコの間ではあんまり評判良くなかったね」

「そっかぁー。じゃあ、今度は石川君に目をつけたってことかな」



そして

事件の発端が起こったのはその日のお昼休みだった。


ボクがミコやみーちゃんたちとお昼ご飯を食べていると

「ねぇ、凛。なんかアンタのこと呼んでる娘がいるヨ」

チナミがそう言って後ろからボクの肩をちょんとつついた。


「あ、アリガトー」

ボクは食べ終わったお弁当のフタを閉じて、教室のドアの方に歩いていく。


すると

そこに立っていたのはあの川島 弥生だった。


さっきの様子を思いだし頬がひきつるボク


そして

「なにかしら?」

ボクは一言そう彼女に尋ねた。


すると彼女は

「あのさぁー、ちょっと聞きたいことがあって」

いきなりぶっきらぼうな言い方でこう言ってきた。


「アナタって石川君と付き合ってるの?」


ホォー!ずいぶん直球でくるじゃない?

直球には直球で勝負せにゃ女がすたるっ!


「付き合ってるわヨ。それがなにか?」

ボクは吐き捨てるようにそう答えた。


すると川島 弥生はキッとした顔でボクを睨みつけ

そして

「アナタのホワンってした雰囲気で石川君のことちょっと惑わせただけなんじゃないの?凛って名前なのにぜんぜん雰囲気違うもん(笑)」

とニヤッと笑って言ったのだ。


これにはさすがに我慢ができなかった。


「ちょっとっ!親が付けてくれた名前を他人のアンタにとやかく言われる覚えないわヨッ! アンタだって弥生って名前なんかよりアザミって方がずっとお似合いだと思うけど。トゲいっぱいで(笑)」


「なんですってぇーっ!」

「なにヨッ!」


2人の言い合いは廊下中に響いていた。


すると廊下の方のただならぬ雰囲気を感じたのか、ミコとみーちゃんが教室の中から出てきた。


「ねぇ、川島さん。石川君は凛の彼氏だってわかったんだから、それでもういいんじゃない?」

ミコが落ち着いた表情で石川 弥生にそう言うと、


彼女はミコにいきなり

「アンタたちは関係ないでしょ!?」

と大きな声で叫ぶ。


その声に周りにいる何人かの人がボクたちの方を見た。


「アレ、弥生。どーしたの?」

そのとき廊下を歩いていた2人の女のコが彼女に声をかける。


すると石川 弥生は

「なんかさぁ、103HRの小谷さんが石川君は自分の彼氏だから話しかけないでって言うのー」

と泣きつくような表情で言い始めたのだ。


「エー!なにそれ?石川君はウチのクラスの男子じゃん」

その女のコたちはザワザワと言い始めた。


「エ、ちょっと待ってヨ!アタシ、そんなこと言ってないじゃん!」

ボクは慌てて彼女たちにそう言い


ミコやみーちゃんも

「ちょっと川島さん、アンタ、デマばっかり言わないでヨッ!凛はそんなこと一言も言ってないじゃん!」

と川島 弥生に怒鳴る。


「ねー、こんな感じなのヨ。3人でアタシのこと攻めてきてさぁ」

川島 弥生はフフンと鼻を鳴らしてその友達にそう言い出した。


するとそのとき

「チョットッ!弥生。アンタ、いいかげんにしなヨッ!」

とエリちゃんと佐和がボクたちの後ろから川島 弥生を怒鳴った。


そしてエリちゃんは前の方に出てくると

「アンタ、その中等部の頃からの悪い癖いい加減にやめたら?アタシも佐和もずっとアンタのそれにムカついてたんだワ!」

と川島 弥生に言い放つ。


それに対し

「中等部のときの話なんて関係ないでしょー!?弥生は今のことを言ってるんじゃん!」

川島弥生のクラスメイトが目を吊り上げて言う。


しかしエリちゃんと佐和が入って5人対3人と形勢が悪くなった川島 弥生側


そのとき彼女の友達のひとりがクルッと踵を返すと、

「アタシ107HRに行って応援連れてくるからー!」

そう叫んで走っていった。


そしてしばらくすると

ワイワイ、ガヤガヤと連れてきたのは10人くらいの女のコの集団


なに!それ?大軍でくるわけーーー!?

一気に形勢は逆転となった。


するとこっち側でも佐和がクルッと振り返り、教室の中に響く声で

「ねぇー、女のコ集まってーーー!!」

と叫んだ。


「なに、なにー?」

「どーしたの?」

その声にワイワイと集まってくる我が103HRの女のコたち。


彼女たちはみーちゃんから話を聞くと

「エ、なにそれ?」

「ちょっとひどくない!?」

と怒り始めた。


そしてとうとう廊下の真ん中で103HRと107HRの女のコ、それぞれ10数人ずつが睨み合いを始めたのであった。



さてその頃、

この揉め事の当の本人であるはずのワタルはどこで何をしていたかというと


「やったーーー!これで5連チャンやぁーーー!」

「おおー!スゲーな、ワタル!」



呆れはてたことに、ワタルは例のハッチとグッチの3人で午後の授業をサボって渋谷のパチンコに熱狂中であったらしい。


そしてこの事件はこれだけでは収まらなかった。



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