第12話 新しい仲間たち!
集合時間となり、教室には新しいクラスの仲間たちがぞくぞく集まってきた。
そしてみんなが揃った頃
ザワザワとした話し声の中、教室の前ドアがガラッと開きひとりの女の人が入ってくる。
そのとき教室の中の話し声がピタッとやんだ。
立っている人たちが慌てて空いている席に着いた。
クラス中の目がその女の人の姿に集中する。
その人は身長は165センチくらいだろうか
女性としてはわりと高め
スラっとした細身の身体に紺のスカートスーツを上手に着こなして
髪の毛は肩先まで伸びた見事なレイヤーで完璧だ。
そしてその人は教壇へツカツカと歩いていき
「皆さん、全員揃いましたかー?」
そう言ってクラスの中をひと見回しした。
それにしても
ボクはこの人をどっかで見たような記憶がある。
それはそんなに何度も会った人ではなく
たった1日どっかで・・・
そんなことを考えていると、その女の人は
「エー、それではまず私から挨拶からしましょう。私はこのクラスの担任になる佐藤 優実といいます」
とハリのある声で挨拶を始めた。
あ、思い出した!
ボクが受験したとき試験監督だった先生だ!
他にも何人かの女の子がそのことに気づいたようだった。
そしてその佐藤先生が
「好きな音楽は…」
そう言いかけたとき
「サザンオールスターズ!!」
ボクを含めて3人の女のコが声を揃えてそう言ったのだ。
一瞬キョトンとする佐藤先生と他のクラスメートたち
先生はニヤッと笑い
「あら、それを知ってるっていうことはアナタたちは受験のときアタシの担当した教室にいた娘ね?(笑)」
と言った。
「そうでーーーす!」
先生の問いにボクたちはまた声を揃えて返事をする。
「そっかぁー。あのとき5倍の倍率だったらしいけど、受かった人のうち3人も本当にアタシのクラスになったなんて、奇遇だネー!」
このやり取りで他のみんなもようやく事情がわかったようだ。
「エー、今3人の女のコたちからもご紹介があったように、アタシの好きな音楽はなんといってもサザンです。彼らはアナタたちが大学に上がったときの先輩ヨ。 そして何を申すこのアタシも中等部からと大学までを青葉学院で過ごしたアナタ方の先輩です。というわけで、これから1年間、一緒に楽しくやっていきましょう。それじゃ、みんなにも自己紹介してもらいましょうか」
先生の言葉に、適当に座っている一番前の席にいる男のコがスクッと立ち上がる。
「エー、中等部から来た三瓶 真司です。中学のときは『べーやん』って呼ばれてたんでそれでよかったらそう呼んでやってください。趣味はーーーー」
そして何人かのあとにいよいよボクの順番が回ってきた。
何をしゃべろうかといろいろ考えていたんだけど、中々まとまらないまま自分の順番になってしまいボクは焦っている。
「あ、小谷 凛です。エット、区立若松中学出身です。それで趣味は、エット、…」
しかし焦るほどさっきまで考えてたことが頭の中から抜けていく。
そしてボクはとんでもないことを口走ってしまった。
「趣味は、エット、そうっ!ワンピースとこち亀の単行本を全巻集めていることっ!これだけは誰にも負けませんっ!」
(あぁぁ~~~~~~!)
(なんてことを言ってしまったんだろぉぉぉぉ)
「趣味はお菓子作りです」とでも言うつもりだったに
ついっ!!
でも、ボクのまともに作れるお菓子ってホットケーキくらいなもんだし
あとでバレて恥かくのもなぁーーーーー。
何人かからクスクスという笑いが溢れている。
「あらぁー、いいじゃない。こち亀、アタシも好きヨ。今度情報交換しましょう」
助かったぁーーーー
佐藤先生のフォローでなんとか乗り切ったみたい。
ボクは真っ赤になって席に腰を下ろした。
そして次は後ろの席に座ったミコの番
「エー、藤本 美子です。小学校のときからミコって呼ばれてきました。前の席にいる小谷さんとは同じ中学の親友です。趣味は対戦ゲーム!自信のある人はぜひ私と対戦しましょう!」
何気にミコもフォローしてくれたり。
アリガトー!ミコ。
教室での簡単な挨拶が終わるといよいよ入学式が始まる。
PM講堂という場所に移動してそこで式が行われることになっている。
「ねぇ、この講堂って普段は礼拝にも使うんだって」
移動中みーちゃんがボクとミコにそう教えてくれた。
「礼拝ってお祈りだよね?(ミコ)」
「まあ、そうだね。ミッションスクールだし毎日授業の間にやるらしいヨ(みーちゃん)」
「みーちゃんちはクリスチャンとかなの? お母さんってイギリス系なんでしょ?(凛)」
「ウチの母親? まあ、イギリス系っていってもハーフで国籍は日本だしね。 それにウチの母親って江戸っ子だし、お祭り万歳!なのヨ(笑)(みーちゃん)」
そんなことを話していると途中で向こうから歩いてくるワタルを見つけた。
中学時代から気さくだったカレは新しいクラスでもさっそく友人を作った様子で3人ほどのグループでワイワイと楽しそうに話している。
フッと目が合ってボクがニコッと笑って左手を小さく上げて振ると
「ヨォー、凛ちゃんとミコちゃんやんか」
ワタルはそう言ってクラスの列を離れてボクたちのほうに寄ってきた。
「もう友達作ったの?」
「ワハハハ、コイツら面白いねん。2人とも中等部から来たそうやけどな。あだ名が『ハッチ』と『グッチ』いうねんて」
「ハ、ハッチとグッチ?」
なんかすごいあだ名じゃない?
「アハハ、なんかトムとジェリーみたいでいいじゃん(笑)」
隣にいるミコも思わずボクの想像していたことと同じことを口にした。
「おーい、ハッチー、グッチー!」
ワタルが大声で2人を呼ぶ。
するとボクたちのところにそのハッチ君とグッチ君もやって来た。
「石川ぁー、オマエもうほかのクラスの女のコまでチェックしてんの?」
「ちゃうねん。こっちの2人はボクと同じ中学だったんや」
「へぇー、ヨロシク。蜂谷っていいます」
ハッチ君がボクらにそう挨拶する。
「こちらこそ、小谷です。 あ、それでハッチ君って言うんですか?」
するとボクの横に並んでいるミコは
「じゃあ、まさかこっちのグッチ君はグチヤっていうとか?」
ともうひとりに尋ねた。
「ハハハ!まさか(笑) 関口です。ヨロシク。」
なるほどー、関口君でグッチ君、蜂谷君でハッチ君ねー!
そう聞いてミコはウンウンと納得した表情をした。
「へぇー、そういうふうにペアで言われるなんてきっと中等部のときも仲良かったんですね?」
「まあねー。ハッチとは初等部のときからのダチでさ、部活もずっと同じなんだ」
初等部ってことは小学生のときから!?
それじゃ親友だよねー。
「だからさ、石川にもサッカー部入れヨってさっきから勧めてるんだけどね。」
「あ、いいじゃない。 ワタル君も小学校のときサッカーやってたんだし。せっか
く誘われたんなら入ったら?」
ボクがそう言うと
「うーん、ボクもやりたい気持ちはあるにゃけどな。他にも色々やりたいこともあってな。あんまり時間がないねん(笑)」
そう言ってワタルはなんか誤魔化すように笑った。
「小谷さんは石川のこと昔から知ってるの?」
「小学校からの幼馴染なの。 でもカレは5年生のとき転校しちゃって、それでまた中3の初めに東京に戻ってきたんだよね」
「へぇ、でも面白いね。男と女でも幼馴染って意外と続くもんなんだな。オレなんか初等部から一緒の女のコでも下の名前呼び合う娘ってほとんどいないけど」
グッチ君がそう言うとボクはなんとなく話しすぎちゃったかなという気がしてきた。
その頃のボクはワタルと男同士の友達だ(と思って)たわけで、ただそのことを知っているのはこの学校ではミコとワタルしか知らない。
あのとき、逃げないと決めた以上別に隠す理由もないだろうけど、それでもせっかく入った学校で変な噂をされるのも嫌だった。
そのとき
「それでは新入生はクラスごとに入場します」
というアナウンスが入る。
「あ、じゃあ凛ちゃん。ボク、もう行くわ」
そう言ってワタルはハッチ君とグッチを連れて自分たちの列へと戻っていった。
ボクの横にいたミコはみーちゃんが他の方を向いていた間に
「凛、わざわざ自分から話す必要ないヨ」
と小さく耳元で囁いた。
「ウン・・・」
そのときボクは、あのときの決心に少し不安を感じるような
そして、ホントは思ってはいけないことを考えたりしちゃったんだ。
もし、過去が消せたら・・・なんて・・・ね。
登校3日目
最初はぎこちなかったクラスの中だったが次第に他に何人かの話せる友達ができた。
入学初日は中等部から来た人たちと高等部入学組にあった壁みたいのも3日目にはすっかり取り払われて
目が合えば声をかけて友達になっていくみたいにして友達の輪はドンドン広がっていった。
そして女のコ同士でいくつかのグループができあがっていく。
ボクたちのグループはボクとミコ、みーちゃん、そして中等部から来たエリちゃんと佐和の5人。
そして目下のところこのグループでの話題の中心は、どこのクラブへ入部するかだった。
中2の夏休み前までサッカー部だったボクだけど学校の中に女子サッカー部なんていうのがあるはずもなく、テニス部やバレー部など運動系の部の公開練習をいくつか覗いてみたりもしたが、これ!というものは見つかっていない。
一方で中学時代水泳部だったミコは迷うことなく水泳部の門を叩いた。彼女の話によると青葉の水泳部は都大会でベスト10に入るくらいの中々の強豪らしい。
そしてお昼休みが終わろうとするとき
「ねぇ、凛はもう部活決めたの?」
トイレで手を洗っているボクにみーちゃんがそう聞いてきた。
「ウウン。まだだヨ。せっかく付属校に入ったんだし何か熱中できるものがほしいんだけどさ」
すると、みーちゃんはニコッと笑ってこう言った。
「ヘヘヘ、じゃあさ、アタシと一緒に入らない?」
「どこに?まさか…江戸っ子愛好会とか?」
お母さんがイギリス人とのハーフなのになぜか母娘で浅草の生まれで江戸っ子のお祭り大好きのみーちゃんだから、もしかして…。
「アラヨッ!ソレッ!お祭りだーい!ーーーってちがぁぁーーーうっ! 凛、アンタ。アタシをノセるんじゃないわヨッ!」
「エヘヘ、ゴメン(笑) でもそれじゃどこの部なの?」
「チア部ヨッ!チアリーディング部!」
「エーーーッ!チアリーディング!?」
「そう!ね、一緒に入ろうヨー?」
「だって、アタシそんなのやったことないヨ?それにチアってあれでしょ? なんかすごい短いミニスカートはいて踊るんでしょ?パンツとか見えちゃうじゃん? なんか恥ずかしいヨォー!」
「ユニフォームって言ってヨ。それにアンダースコートは見えて気にするようなもんじゃないんだって。アタシ、小学校から中1までずっと地元のチアチーム入ってたんだぁ」
「サンバチームじゃなくて?」
「オーレ、オレ、オレッ!アミーゴッ! ってちがぁぁーーーうっ!アタシをノセるなって言ってんでしょーがっ!」
「アハハハ。ゴメンチョ」
「けっこー楽しいヨ。それにチアって先輩も後輩もみんな心を一つにできるから、いっぱい仲間もできちゃうし」
「そっかぁー。そうだねぇ…」
「よしっ!じゃあ、決まりね。今日の放課後2人でさっそく入部説明会に行こう!」
そういうわけで
ボクは半ば強引なみーちゃんのお誘いでチアリーディングなるものに入ることになったのであった。
ウーン・・・(笑)




