まおうさまの愛玩日記
吾輩はまおうである
名前はたぶんない
生まれたときから、魔王という名以外で呼ばれたことはないのだから、名はたぶんないのだろう。
そんな吾輩は日々魔王としての職務に励んでいる。
椅子をあたためる仕事だ。
石で作られた大きなそれは、冬になるとちょっと冷たい。
腰を冷やすと大変だという。吾輩はお気に入りのマントを敷いて座っている。
時々吾輩の城には、コワモテの知らない連中が押し入ってくる。
盗っ人なのだろうか、今日先頭きって押し入ってきた男は金髪碧眼の見目麗しい男だった。輝く金の剣をかざして「セイバイ!」とか謎の呪文を唱えていた。
吾輩、盗っ人が怖くて怖くて、つい魔力を解放してしまったので、その後のことはわからない。
盗っ人には何人か仲間がいたようだが、吾輩の部下がひとまず地下の客室にご案内したようだった。
地下の客室はほどよくじめじめしており、薄暗い。鉄格子なので外の様子もよくわかる。ひとりでくつろぐのにぴったりの部屋である。
今日も無事、椅子をあたためる仕事を終えた。吾輩は自室に戻る。部屋は吾輩の好みで設計されており、薄暗く、じめじめしており、どこかカビ臭い。蜘蛛が巣を張っている日は幸先がいい。
バルコニーに出れば外の空気を吸うことができる。
吾輩の城は、怖がりな吾輩のために、部下達がドラゴンを見張りに立ててくれている。城の周りはドラゴンとゴーレムが入り乱れ、火山流が流れている。
その光景を見ることで、吾輩は毎日安心して眠ることができるのだ。
まおうに生まれて随分経つが、未だに枕元のランプを消して寝れないのは秘密だ。
ある日、吾輩の側近が拾い物をした。
遠く人間のクニで拾ってきたというそれは、淡い金の髪を持った人間の子どもだった。
拾われてきた当初は落ち着きもなく周りを伺っていたが、吾輩と話すうちにこの城で世話をみることが決まった。
桃色のひらひらした服を着て、歩きにくそうではあるが、好んでひらひらを着ていた。
吾輩、ペットは可愛がる主義である。
世話のついでに、風呂で背中を洗ってやろうと言ったところ、なぜだか顔を真っ赤にして断られた。
その日は早々と布団にくるまって眠ることにした。
ペットと暮らし始めて幾月か経った頃、吾輩はずっしりと重い王冠を頭にのせられ、血のように真っ赤な絨毯の上を歩いていた。
タイカンシキでは、側近を筆頭に部下は皆着飾って魔石やら骨やらじゃらじゃらとつけていた。見知らぬ者共も多数いたが、側近がマカイヘイテイによるものというので、気にしないことにした。
そういえば、少し前にペットと喧嘩したとき、思わず泣いて魔力を開放してしまったことがあったなあ。
あのとき稲妻が辺りを轟き、吾輩をその美しい光で癒してくれた。
側近も慰めてくれたが、その後しばらく見かけなかった。どこかに行っていたのだろうか?
ある日、ペットが吾輩に聞いてきた。タイセツなものはありますか、と。
吾輩、考えてみたが、昔から椅子ばかりあたためていた。たまに城を改装して気晴らしする程度か。
先日客間を改装したが、岩板の問を答えるとクリスタルゴーレムがお出迎えするようにした。なかなか、結構お気に入りである。
ふと、聞いてみた。タイセツなものはあるのか、と。
ペットはいつものようににっこりと微笑んだ。
吾輩、その笑顔がとても美しいと思った。
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吾輩は魔王である。
名前はない。
この魔界で唯一にして絶対の王である。
今日も元気にお仕事している。
あたためるいすは変わらず固いので、ふかふかクッションを作ってもらった。
相も変わらず、コワモテの者共が城に押し入ってくる。
ちょっぴり涙目になるけれど、吾輩、夜はランプを消して眠れるようになった。
眩しくて眠れないと言われたので、特訓したのだ。
吾輩の主義は変わらない。
今日もあやつをとことん可愛がるのだ。
あやつの名前はレシィ。
吾輩の愛玩動物である。
初めての投稿作品です。
おとぼけまおうさまのため、わかりにくい描写ばかりですみません……