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森を征く者  作者: 架音
一章
7/18

1-4 空賊

長くなったので分割


2012/04/08:後段の空船の解説を少し訂正しました

「へっへへっ。今日の獲物は船団組んでるくせに護衛なしとは……ちょろい連中だぜ。アイン、ツラゥド、ベネクは左下の白い奴にまわれ!」


『あいよ』

『おうさ』

『了解』


 大型の五〇座級空船を母船とし、二〇座級の空船を護衛船として従える中規模の空賊、フェリノス一家における切り込み隊長ガルバードは先頃改装を済ませたばかりの愛機である騎乗型空船の上で部下に指示を出しつつ、呼吸補助と風圧軽減、遠距離会話の魔法刻印が刻まれた面頬付きの兜の下で、にんまりと口元を歪める。


「まったく、こんなにおいしい獲物がたまたま見つかるとは……これも日頃の行いの良さってやつですかね?」


 ガルバードの漏らした言葉に部下達が同意するようなくぐもった笑いを漏らし、その反応にガルバードは楽しそうに目を細める。


 なにしろ今現在、ガルバード以下騎乗型の単座級小型空船を駆る一〇名が追い込みをかけている船団を発見したのは、滅多にありえないほどの偶然……それがもたらしたものだったからだ。







 大空を漂う浮遊島により形作られるこの世界には、基本的に二つの時間が存在する。


 一つは、『時の島』という情緒も風情もない名で呼ばれる、この世界で人が生活することを許された数少ない海上の島。

 『製塩組合』がその会所を唯一置くことのない、ただ時を定めるためにのみ存在している赤道付近に存在するその島に設置された『標準基』と呼ばれるこの世界全ての時計の基準となる時計が示す時間がそれである。


 もう一つはその『標準基』が示す時間をもとに、各浮遊島を支配下に置く国家が浮遊島の位置と進路を計算を入れた上でおおよそ一〇日毎、月に3回ほど修正を行い公示する『修正時』がそれにあたる。


 が、普段自らが生まれた島から外に出ることが滅多にない一般民衆に関しては“時間”というものは概ね、特に指定がなければ『修正時』の方を示すことになる。


 しかしこの二つに含まれない時間もまた、存在する。


 それが大空に存在する、所有権のない小さな浮遊島……あるいは岩塊とも呼ぶべきそれらをねぐらにする空賊が好んで用いる『空時』というものがそれである。

 もっとも、ねぐらもしくは母船が朝日を浴びた時間を『零時』とし、二四時間計を作動させるといったものなので空賊ごとにてんでバラバラな……なにしろ航路によっては一日が一八時間になったり三〇時間になったりする……それを、時間と呼んでいいものかどうかは疑問が残るものであるのだが。


 元来一般社会に馴染めなかった者達の集団である空賊には、あるいは相応しいのかもしれない。







 話を戻す。


 ガルバードが盃を受けたフェリノス一家が一仕事を終え、母船に戻り宴会を開いていたのは『空時二二時』……空賊の仕来りに従うならば午前三時ごろに当たるだろう。皇国の『修正時』で表現すれば深夜の一時過ぎといった所か。

 どちらにしろ深夜であることに変わりはないが。


 きっかけは何のことはない。


 飲み過ぎたせいで急に下の世話をしたくなった誰かが甲板に出て、出すものを出し切ってすっきりしたところで、太陽光とは違った反射光を発見したのだ。


 通常の商船団の航路から外れた空を行くそれらを見て、最初はどこぞの軍属の空船かと判断されかけたのだが、フェリノス一家の頭であるサルバ=フェリノスは船団を組むこと自体に慣れていなさそうな動きを見て取り、空船同士の連携協議を図る時間を取ることもできなかった急造船団か、または夜逃げの商人かとあたりを付けて襲撃を決定したのだった。


「お頭の読みはドンピシャだったわけだ」


 ガルバードは自分の指揮下にある九名に指示を飛ばしつつ、外縁部の空船から徐々に駆り立てていく。

 追撃を始めたころは一五隻はいたはずの船団の数は、既に八隻まで減ってしまっている。減らされた分は母船と護衛艇の連中が確保しているか、あるいは遥か眼下に広がる大海原に落ちたか。


「ま、海に落ちた方々はご愁傷様ってね」


 単に海に着水しただけならば、暫くは生きていられるだろうが、この世界の海はある意味空よりも過酷である。

 空の支配者である赤の飛竜……三〇座級の中型空船に匹敵する巨体を持つあの飛竜のそれよりも遥かに大きい……小さなものでも同等、大きなものなら五倍以上という馬鹿げた体躯を持つ『海竜』が支配するそこに落ちた者は、すべからくあの化物の餌にされてしまう。


 以前、追い込みをかけた八座級の小型空船が海面すれすれの逃避行動のさなか、突然海面から頭を突き出してきた『海竜』に一呑みにされるという、馬鹿馬鹿しくも空恐ろしい光景を思い出したガルバードは思わず背筋を震わせ、気を取り直すかのように笑みを浮かべた。


 物思いにふけっているうちに、もう一隻が船団から引き離され……乱流に巻き込まれたのか、船体の制御を失い急速に高度を下げていく姿が視界の端に映る。


「排気噴流に巻き込まれるなんて、どこの素人だよ」


 完全に船体の制御を失い、錐揉み状態に陥った空船を見下ろしてガルバードは呟いた。







 空船が大空を航行するための仕組みは、それほど複雑なものではない。刻印機関から生み出された魔力を掬い上げ、浮遊術式に流し込み船体を大空に浮かばせる。

 その後、効率の観点から主に船体全面下部に設けられることの多い吸気口……無論効率化のための魔法式は組み込まれている……から大気を吸い込み、船体内部で圧縮。さらにその圧縮された空気に触媒を混合させることにより、爆発的に体積を増加させたそれを排気口から排出させることにより推進力を得るのが一般的である。


 上記の推進方式を理由とし、特に船団航行時の排気噴流に関しては空船の操船資格を得る際に特に厳重に教育を施される。


 どれほど効率の良い機構を構築しようとも、その機構上どうしても排気噴流の中には反応しきれなかった触媒物質がある程度は含まれる。触媒物質がその性質を保ち続ける時間はそれほど長くはないが、それでも排出されたばかりの排気噴流の中にはある程度それらは混入したままになっている。

 それを吸気口から取り入れてしまった場合にはどうなるか……よくても吸気効率の低下、あるいは推進力の低下……悪くすれば制御不能による墜落である。


 無論そのような仕組みを組み込むことのできない単座、あるいは複座級の空船はその推進力も刻印機関から生み出される魔力を消費して、わざわざ各種魔法を展開、推進力を発生させているのだが……単座、あるいは複座級の空船の航続距離が短いことはこれが原因である……それは大勢の中における例外と呼べるものだろう。







 船団航行における排気噴流への対処法は、駆け出しの空輸商人でも骨の髄まで叩き込んでいるはずなのだが……僅かに疑問が浮かんだが、ガルバードはその疑問はとりあえず棚上げにした。

 獲物をどうやって仕留めるか、どうやって追い込むかという方策に頭を巡らせるのが自分の役割であり、獲物の事情を考える事ではない。それは頭の役目であるのだから。


「まったく……勝手に墜ちるくらいなら大人しく獲物になってりゃいいものをよ」


 大人しく捕まっていれば、少なくともこれほどあっけなく死んだりはしなかっただろう。


 もっとも女は一家の共有財産、男は一家の労働奴隷にされるせいでそうそう長生きは出来ないのであるから、即死と緩慢な死のどちらがより良いものであるかは判断が難しいというよりもさして変わらないと言えるかもしれない。




      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇




「三番船……『使者の供船』……操船不能!墜ちます!」


 他船との連携の要である通話士官が幾度目かになる悲痛な報告の声を上げる。


「……脱出できた者は?」


 この船団を率いる女性……未だ少女の雰囲気をその身に漂わせるその女性は、儚げな容貌が苦しさに歪みそうになるのを必死に抑えながら、必要なことを通話士官に尋ねた。


「全員……絶望的かと……」


 その返答に女性はきつく唇を噛みしめ……俯いたまま言うべきことを言うために、再び口を開いた。


「彼ら……の魂が旅路の果てに……我等が主たる神の御許に辿り着けますように……」


 女性の言葉が終わるのと同時に、艦橋に居た者すべてが唱和しこれから永遠の魂の旅路へと赴く者達に、別れの祈りを捧げる。


 それを耳にしながら女性……二年前、僅か一七歳でこの世界に在られる数々の神の中でも主神と目される、空と知恵を司る主神レグニスの主祭司に選定された少女クオレリア=エイル=レグニスラウムは僅かに滲んだ涙を拭う。


 今はまだ泣く時ではない。


 何としても今襲撃をかけている空賊の手から逃れ、皇国シュラウドネへと赴かなければならない。


 空賊の手に囚われた者達、命を落とした者達……もしもこのまま自分達まで同様の憂き目にあってしまったら、彼らに対する申し開きが立たない。


「皇国は……まだですか……っ!」


 だからこそ彼女は、その小さな叫びを押さえることができなかった。


 その叫びは現状をどうにかするためには不必要でまったく意味のないモノであったが、それでも叫ばずにはいられなかった。







説明回でした!


なんかファンタジーの看板すら怪しくなってる気がしますがそのへんは流していただければと……


この空の方でもあれでしたが、いささか魔法の扱いがひねくれてるなと思いつつ、まだ全容は解説していません。

あっちよりはもう少し取り回しがしやすい設定のはずなんですがそこらへんは追々という事で。






解説:空船の構造


と言ってもあらかた本文中で説明してるような?

なので特徴を箇条書きでつらつらと


・外観はおおよそ箱型です。船体前部が傾斜構造をしている物が多いです。いわゆる被弾形成。


・よって艦橋構造物はありません。あった方がロマンはありますが、何しろ海上ではなく空中ですし、何よりレーダーの代わりをする魔法が存在するので有視界に拘る理由があまりないですし。


・小型の空船はともかくとして、中~超大型の空船はジェットエンジンに酷似した推進機関を備えています。


・一応魔法による推進もできないことはないのですが、船体が大きくなるほど効率が悪くなるので船体を浮遊させる魔法式とは別個に推進機関が積まれてる感じです。何でも魔法任せはよくないという事で。


・推進機関の説明は本文の通り。ただしジェット燃料に当たる触媒物質はジェット燃料に比べて遥かに高効率かつクリーンな未知の物質になっています。さすが魔法世界!


・船体の大きさを示す単位として『座級』という単語が使われていますが、これは一人の人間がゆっくり座ることができるスペースとして2m×1.5m×1.5mの内部容積があることを表現しています。当然誤差はありますのでご注意ください。外観は三〇座級でも装甲板を厚くとっているので実質二〇座級という場合もありますので(逆もまた然り)


・空船の大きさ目安


単座球・複座級……騎乗型、あるいは個人型空船

 全長三~四メートル程度。超大型二輪車のイメージで


一〇座級~二五座級……小型空船

 マイクロバス二台を横に並べたくらい~大型観光バスを横に二台並べ高さを1.5倍したくらい


三〇座級~五〇座級……中型空船

 大型観光バスを横に二台並べ高さを1.5倍したくらい~~二〇トントレーラーを横3列縦2列に並べ、高さを2倍したくらい。


五五座級~七〇座級……大型空船

 二〇トントレーラーを横3列縦2列に並べ、高さを2倍したくらい。~重巡くらい(妙高級を想定)


七五座級~……超大型空船

 重巡くらい~正規空母くらい(大鳳を想定……縁起悪いですが)


*座数は5の倍数になります。


 なお座の数と船体の大きさが釣り合わない(特に大型と超大型)のは、動力源である複数の刻印機関が占める割合がそこそこ起きい事(刻印機関合計重量が平均で離床時最大重量の約10%。いわゆるジャンボジェット機のエンジン[4~7%前後]よりも重い……その分航続距離がべらぼうに長いので、こちらの方が優秀ともいえますが)

 また、登場初期の用途が主に貴族のスポーツ用(自動車の黎明期と同様ですね)だったので、倉庫区画が座席数に反映されていないことが理由として挙げられます。


 もちろんこれ以外にもいろいろと決まりはあるのですが、とりあえずお話に出てくるのはこの辺りまでですのでよろしく願します


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