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森を征く者  作者: 架音
一章
5/18

1-2 コーレリア連島(2)

2012/04/11:誤字修正・ご指摘ありがとうございます

 ゴライアス翁の漁船を後にした少女、シェリーマイアは兜を腰の裏に金具で吊るし、光翅から魔力の粒子を散らしながらマレナ湖の湖畔に広がる森の中へと翅を向ける。


 先ほどの急降下よりもよほどゆっくりとした……それでも飛竜並みの速度で空を舞いつつ時折木々の梢を爪先で弾き、朝日に照らされ出した森の空気を楽しみながら天を翔ける。


「流石にこれくらいの速度なら、これはもう必要なさそうね」


 少女はそう呟くと、腰に据えた兜を軽く手で叩いた。全速を出す時にはまだ必要だろうが、生まれる前の記憶の中にある言葉で表現するならば経済速度……最も魔力を消費しない速度ならば、未熟な自分の技量でも気流を操作できるようだ。


「髪がぺったんこになっちゃうしね、これ」


 それ自体少女自身は全く構わないというか気にしないのだが、邸には大いに構う上に気にしまくる人間が母を筆頭に多数存在する。

 彼女達に捕獲された後に朝から風呂で世話されまくるというのが、この朝の散歩を始めてからほぼ日課に近くなっている。

 確かに今現在を考えるならば女同士である上、甚だ実感が湧かないがこちらは身分のある女性であり、それ故何をするにしても人の手を介さなければいけないという習慣も理解しつつはあるのだが……


「……どうにもおもちゃにされてる気がしてならないのよねぇ……」


 風呂時と着替えの時以外はさほど構われていないことを考えると、あながち間違いでない気もするが……深く考えると何か開けてはいけない扉に気が付いてしまいそうなので、少女は頭を振って思考を中断した。


 と、その時少女の耳に森の中から樹が倒れる音が聞こえてくる。


「……あ、そうかこの辺りは……」


 一瞬訝しげな表情を浮かべた少女は、邸の方向と湖の位置から音が聞こえた方に何があるのか、何を行っているのかを思い出し、空中に佇みながら軽く掌を打ち合わせた。


「よし、ついでだから行ってみよう」




      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇



 それでは今見せた伐採の手順を改めて説明する。


 まず最初に行うのはこの、目に見えないほど極小の刃が刻まれた直径一サイド半(約二cm)の『刃綱』を切り倒すべき樹木の幹に巻き付けるように半周させること。


 この際伐採者立つ反対側……円周側だな。が、やや下になるようにすること。これにより切断した樹木が反対側に倒れることになり、伐採者の安全性は確保される。もちろん樹木が倒れる方向の安全は前もって確保しておかなくてはならない。


『刃綱』の位置取りが決まったら、『刃綱』の両端を『飛び亀』右腕部の『交互巻き込み機構』の接続部分に固定。


 特にこの作業は慎重に行うこと。


 もし接続部分の繋ぎ方が不十分だった場合『刃綱』は周囲を蹂躙する凶器になる……“皇樹檀”すら切断できる『刃綱』がどれだけ危険か……理解は出来ているな?


 ほぼ一昼夜を費やし、侯爵邸……皇国魔道機研究第三塔特別開発部からこの場所へと赴いていた伐採部隊の隊長を務めるガードラント=バスはそう訓辞を垂れると、まるで肉食獣を思わせる獰猛そうな笑いをその顔に浮かべた。


 身長はおよそ一四〇サイド(約二一〇cm)もあり、全身を覆う筋肉の厚みは小型の飛竜程度なら撲殺できそうなほどである。


 皇国でも高名な騎士と武人の家系である、バス伯爵家の次男でもあるガードラント。“武の神に愛された”との評価をその年若い頃に受けた男は、バス伯爵家の誉であった。が、同時にバス伯爵家で最も異色の男だった。


 幼少のころから好んだのは剣術と機械いじり。


 まるで相反するその二つの道を、少年であったガードラントは当然のように両方同時に進むことを選び、皇国魔道機研究塔付属学舎へと入学することを選択した。無論家族一同親戚全てに至るまでが猛反対したわけであるが、それら肉親を前にガードラントは獲物を前にした青の飛竜のような表情を浮かべると宣言した。


『自分に一人でも剣の腕で勝ったなら飛竜騎士団へ進みましょう。なに、時間は取らせません。今から二時間後、庭におります私に全員で打ちかかってきてください。私が膝を突いたら負けを認めましょう。制限時間はそうですね……日が沈むまででよいでしょうか?』


 こう宣言したのは朝の七時。


 結果がどうだったかと言えば、今現在ガードランドに与えられた肩書が皇国魔道機三級技師という、皇国魔道機導師に次ぐ階級であることからおのずと判断できよう。


「そういうわけで全員作業には細心の注意を払うように。姫様もご覧になられるつもりらしいからな?」


 ガードランドの言葉にこの場に集められた伐採部隊員一五名がざわめき立つ。


 確かにエンドランツ侯爵家令嬢シェリーマイアと言えば、とても公爵家の令嬢とは思えないほど気さくで人当たりの良い少女で、雑用程度しか仕事を与えられていない研究員にも分け隔てなく接してくる令嬢であるが……このような場所に現れるなど普通に考えればあるはずがない。


「さすがに貴方の頭上を取ることは難しいわね」


 その、あるはずがない人物の声が静まり返った森の中に響き……遥か上空から光の翅を震わせた少女が下りてくる。


「さすがは『光刃』のリリアスフィーア様の血を引くだけはありますな。これほど幼いのに三対の光翅を持っておられるとは」


 煌めく少女の光翅を眩しそうに見つめながら男は嬉しそうにそう漏らし、少女は僅かばかりに眉を顰める。


「どうなさいました?」

「いえ……なんと言うか、肉親の二つ名を人から聞かされるのは少しですね……お母様ってそんなに凄い方だったんですか?」

「『蒼穹の魔女』という呼び名もあった方ですからな。生憎手合わせはしたことはございませんが……今度姫様の方からお願いして頂けませんか?」

「皇国魔道機研究第三塔特別開発部の職員が、最高責任者の伴侶と手合せしたいっていうのは色々間違っていると思うのですが……」

「そうですか?『蒼穹の魔女』との手合せなら男ならだれでも望むことかと思いますが」


 ガードランドの言葉を聞いた少女が確認するように目の前にいる研究員に視線を向けると、研究員たちは揃って頭を大きく横に振る。


 それは手合せをすること自体を否定したのか、それとも『蒼穹の魔女』などという、自分が付けられたら悶絶死しかねない二つ名を持つ母との手合せはしたくないという意思表示なのか。


 できれば前者であってほしい。


 少女は軽く頭を振って思考を元に戻す。


「今日は装甲板と構造材の材料調達ですか?」

「ええ。『飛び亀』の運用試験も兼ねてですが」


 『飛び亀』……先日父とガンドウ小父様の工房、そう言ってほとんど差支えない皇国魔道機研究第三塔特別開発部の開発塔で完成した、全高二ロード半(約四m)の二脚歩行機械だった。いや、跳躍機械と呼ぶべきか。


 短径一ロード(約一.五m)長径二ロード(約三m)の楕円形をした操縦席を兼ねた胴体部分と、左右のやや下方位置に据えられた伸縮式の多重関節構造を与えられた両腕。その先端部に据えられた三本の指は意外と器用な動きを見せるが、今この場に持ち込まれた三体の右腕は別のモノに換装されているようだった。


「あれは、伐採用の換装腕ですか?」

「ええ、『刃綱』を交互に引き込み、木の幹に切れ込みを入れて伐採するための換装腕です」


 ガードランドの言葉に少女は小さく頷いた。


 要するにあれは伐採に特化した、旋盤の鋸のようなものなのだろう。あれも両端を固定し上下動させる加工道具だから似たようなものだ。或いは内刃のチェーンソーとでも表現するべきか。

 あちらの世界のチェーンソーは外向きの刃が付いたチェーンを機械で高速回転させるものだが、この換装腕は同様の発想で、刃を内向きにしたものと考えればいいだろう。


 少女がそんなことを考えているうちに、伐採の準備が整ったらしい。


「一号機『刃綱』の固定完了しました!」

「二号機も完了です!」

「三号機起動できます!」

「ようし、それでは伐採作業開始だ。姫様も見てらっしゃるんだ。慎重にな」


 ガードランドの言葉で三体とも起動作業に入り、瞬く間に操縦者から起動回路に魔力が供給され、魔道機の心臓部である刻印機関が僅かな駆動音を立てて起動する。


「お父様が先頃開発した新型の刻印機関起動機ですね?」

「御存知でしたか?」

「いいえ……でも、刻印機関と刻印機関起動機の音くらいわかりますよ?」


 少女の言葉にガードランドは驚いたように片眉を上げ、少女はやや誇らしそうに、恥ずかしげに小さく声を漏らした。


「これでもサーディス=ゴラン=エンドランツの娘ですから……」

「確かに……その通りですな」


 三体の『飛び亀』は刻印機関の回転数が安定領域に入ったのを確認すると、左右の換装腕に固定された『刃綱』が弛まないようにゆっくりと逆関節の脚部を伸ばし、慎重に位置を探り確定すると換装腕に組みこまれた『交互巻き込み機構』を起動させる。


 それは最初ゆっくりと、目でわかる程度の速さで右が引き、左が引きという動きを繰り返していたが、ほどなくそれは目で終える速さでなくなりやがて残像ですら霞むほどの速さになる。


「あの速さですと、摩擦熱を含めた余剰熱が大変そうですね」

「放置しておけばその通りですが、あれには簡易型の冷却特化型の小型刻印機関を組み込んでいますので問題はないでしょう」

「刻印機関を乗せているんですか?」


 少女は驚いてガードランドの事を見上げる。刻印機関はまさしく魔道機械の心臓部であり、それ故かなりの重量がある。それをどうやってあの換装腕に組み込んだのか。


「開発塔に戻りましたら種明かしをしますよ姫様」

「必ずですよ?」


 少女がガードランドとそう約束を交わした時、一号機が伐採をまず完了した。続けて三号機、やや遅れて二号機が完了し、伐採した樹木が倒れる音が森の中に響き渡り、その音に驚いた鳥たちがあちこちで騒ぎ立て始める。


「お父様が設計されたモノですが、こうしてみると凄いものですね」


 伐採された樹木は“剛紫樹檀”と呼ばれる強度の高い樹木だった。従来の斧で切り倒す場合だと、直径一ロード(約一.五m)程度の太さのものでも伐採まで三人がかりでほぼ一日かかるという難物である。


 圧縮加工後に巨人機械の骨格部に使用されるという、それほどの硬さを持つ代物であるのだからさもありなんと言った感じではあるが。それを事前準備も含めて一五分ほどで伐採してしまうのだから、換装腕に仕込まれた『交互巻き込み機構』と『刃綱』の組み合わせは相当なものだろう。


「もう暫くご覧になっていきますか?」

「いいえ、そろそろ戻らないと朝食に間に合わなくなりそうですから」

「そうですか。我々の帰還は恐らく明後日の朝になるでしょう。ご説明の件はその後で」

「わかりました。その時はよろしくお願いしますね」


 そう言うと少女は背中から光翅を展開させ、訝しげに耳を震わせるとガードランドに小声で告げた。


「二号機の左足中関節部分ですが、油圧部分に歪が起きてると思います。部品があれば交換した方がよろしいかと……作業中に破断したら危険ですから」















ついにメカが出ました!


人型じゃありませんが


卵型の胴体と蛇腹関節の腕部、逆関節の脚部という実にスタンダードなメカですが、現段階ではまだまだ試作機もしくは先行量産型といった感じです。


いわゆる自動車に分類される機械も存在しているのですが、今後移住先として開発しなければならない「大陸」は、当然道路なんかない場所なので、このような機械が開発されましたと言った感じです。



あ、ジャンプさせるの忘れた……



今回はちょっと時間がないので解説はまた次回以降という事で……








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