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森を征く者  作者: 架音
一章
15/18

1-12 模擬戦

【竜鱗蔓】(リュウリン―カズラ)双子葉植物・食肉蔓目・釣鉤蔓科・竜鱗蔓


 浮遊島基底部に多数存在する魔力溜に繁茂する多年草。食肉植物である食肉蔓目に属する。近縁種に地這蔦、洞窟蔓が存在する。主な捕食対象は飛竜及び鳥類。魔力溜という特異な環境で生育するためか、植物種では数少ない魔力形成圏を形成する魔力を持ち、簡易なものではあるが、幻影系統の魔法を行使する。このため現在主流である“知能のある生物のみが持つ創魔腑が魔力を生み出す”という理論に対する反証としてよく用いられる。


 全長は最大のものでは八〇ロード(約一二〇m)を越え、平均でも六〇ロード(約九〇m)を超える。食肉蔓目における最大種である。


 葉は全て釣鉤状になっており、その繊維構造の強靭さは成体の赤の飛竜でも囚われた場合抜け出すことが不可能なほど。飛竜種にとって抗いがたい香気を放ち、近付いた捕食対象をその釣鉤状の葉で捕獲、樹幹部から消化酵素を浸出し捕食対象を分解、吸収する。


                       プラム=ウント著

                             『植物図鑑』より

                 



 通常“創魔腑”から生成された魔力は生み出されるたびに拡散していき、何らかの魔法術式を用いない限り一カ所にとどまることはない。しかしその魔力が拡散せずに特定の地域、あるいは空間に留まる事がある。

 特に浮遊島の基底部には多数の魔力溜が存在し、一説ではこの魔力溜が浮遊島を支えているのではないかと言われているが、無論それを検証することは出来ないのであくまでも『そう言った考え方』もあるといった程度の認識であるが。


 その、浮遊島基底部に存在する魔力溜に繁茂する植物の一つがこの竜鱗蔓である。


 通常ならば“根”と呼ばれる部分を上方に存在する浮遊島基底部の岩盤内に張り巡らし、長大な蔦を岩盤に這わせ、その四分の一程度の長さを空中に揺らめかせている様は口の悪い空船乗りに『爺の顎鬚の様だ』と言われる程度に密生して生えている。


 この竜鱗蔓はこの世界でもあまり数の多くない食肉植物であり、その捕食対象は飛竜である。他の生物は感じ取れない、しかし飛竜――特に力が強い飛竜ほど強力に作用する――にとっては抗いがたい香気を放ち、さまよい込んだ飛竜をその蔦でからめ捕り、消化液を兼ねた樹液を蔦全体から浸出。その肉を少しずつ溶かしながら養分として吸収していく。


 蔦から生える鉤針状の葉は飛竜の肉に喰い込み、もがくほどその身体を絡め取られていく。その蔦の強靭さ、しなやかさは赤の飛竜でも一度囚われたならば逃れられないほどである。


 最も高い知能を有し、あるいは人以上の知恵を持つとも言われる赤の飛竜から人間の友人へと語られた話では二〇〇年ほど昔、当時の赤の飛竜の中で最強を謳われた“ズズルイグルブ=ロヴァンデンナーグ=ズ”と呼ばれた赤の飛竜もこの蔦に絡め取られて命を失ったとされている。


 そのため、飛竜達は浮遊島の中でもさらに高い位置に好んで居を構える。竜鱗蔓は浮遊島の基底部ならばどこにでも存在しているため、次善の策としてそうしているのだろう。


 飛竜の中でも最も強大とされる赤の飛竜が滅多に人前に姿を現さない原因はここに在る。逆に最も力ない――それでも人が抗うには無理がある――黒の飛竜が人が住む地の近縁でもその姿を見かけるのは、竜鱗蔓の香気にあまり影響されないからだと思われる。


                   探求の友社発刊

                   『世界秘密目録 巻ノ六 飛竜の秘密』

                       【飛竜の天敵】の項より抜粋




      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇




 赤の飛竜ですら絡め取られたら引きちぎることは不可能――。


 恐らくこの浮遊島世界で最も強靭かつしなやかな竜鱗蔓を解し、得られた繊維を再度編み上げて作られる、頑丈かつ耐久性の高い『竜縛縄』と呼ばれる身も蓋もない名前の綱がある。


 古来より飛竜を用いた大型貨物の運搬に使用されてきたその『竜縛縄』をさらに幾本か束ねて編み上げたものが、巨人機械の可動部分に使われている。


 この、人間でいう筋肉にあたる部材は、例えば最も配置数が少ない腕部ならば内側に二本、外側に二本、側面部に各一本の計六本配されている。


 これを人間でいうところの骨格にあたる基幹構造部の外側に刻まれた誘導溝に沿って配置。固定場所の両端に設置した絞り機で綱を絞り上げ、あるいは緩めることでその全長を調節し、筋肉と同様の効果を発揮するように作り上げられている。


 両端に設置した理由はそれぞれ逆方向に回転させることで、絞り緩める速度を半分にするためである。


 ただしこの部材、未だ発展途上であるためどうしても即時即反応というわけにはいかず、操縦時における収縮と弛緩に若干の時間的齟齬が発生してしまう。


 これが第一世代機のような操縦方法なら――真似ができる者は恐らく存在しないが――その時間的齟齬を織り込んだうえで巨人機械を動かすことができる。各種切替機を操作するというある意味間接的な方法なので、そのような思考的余裕が存在するのだろう


 しかし第二世代機のような操機士の身体の動きそのものをなぞる様な操縦方式だと、この点が些か以上の欠点になってくる。


 単に腕を上下させるだけでも、自分の反応速度よりも僅かばかりに遅れて動く機体。なまじ正確に動くだけにその違和感は凄じく、操機士である少女が感じる精神的負担も当初予想されていたモノよりも遥かに強いものだった。

 何しろ一回目の起動実験時における稼働時間は僅か五分。操機士室内に充填されている干渉液に対する抵抗感もあっただろうが、それ以上に思うように動かせない……いや、思った反応速度で動かせない第二世代機がその神経をささくれ立たせたのだろう。


『娘が乱暴な言葉で怒鳴るなど、初めて見た』


 エンドランツ侯爵サーディスの言葉が、当時における彼女の精神状態を端的に表しているだろう。







「それでも以前よりは大分改善されてはいますからね……!」


 少女はそう呟くと第一世代機が振るう、一見無造作な左腕の攻撃を受けるとその勢いに逆らわず、大きく後方へと飛び退く。


『ありゃ、ばれてたか』

「さすがに何度か経験しましたから!」


 今の攻撃をただ単に受け止めた場合、多重関節で作られた腕が大きくしなり、胴体部に大きな破損が生じただろう。かといって小さくかわしただけでは、おそらく腕よりも長い尾部の攻撃で足元をすくわれた可能性が高い。

 完全な正解ではないが、攻撃を受けたその勢いも加味して距離を取ったことは然程間違いではないだろう。


「以前でしたら失敗していたでしょうね」


 





 現在改修が進められた第二世代機の、操機士の動きに対する追随性能――反応速度は一秒以下まで抑え込まれている。

 ここまで抑え込めてもどうしても違和感――全身が抵抗力のある薄い布にくるまれているような感覚は抜け切れないが、以前に比べればその違和感は大分軽減されている。どうしても生まれてしまう時間的齟齬は……感覚で埋めるしかないだろう。

 恐らくこれ以上に反応速度の改善は、何か全く別の技術でも開発されない限り為されることはない。これは全身の駆動部分を機械的に処理している限り、付きまとう問題であるのだから。


 ならばあとは……操る者が僅かなりとも先手を読み、早め早めに巨人機械を動かすか、全ての動作を洗練したモノへと昇華するか。


 例えば父がそうしている通り、全ての行動に常に二択三択の選択余裕を持たせて巨人機械を操る様に。







「私もガードラントさんに何か武術を教わった方がいいのかしら……」


 第一世代機と間合いの取り合いをしながら、少女は小さく呟く。


 その圧倒的な力で空賊を屠る力を持っているが、そこに技術はない。溢れんばかりの魔力によるゴリ押しでしかないのだ。

 この第二世代機の操縦方法を考えるならば、もっと技術を……というよりも体の動かし方を理論的に覚えた方がいいのかもしれない。

 肝心なところで攻撃が当たらないという事は……つまりそういう事なのだろうから。


 第二世代機が振るう鞭をいなし掻い潜り、懐に入ってきた第一世代機が振るう右腕を左肘で外側に向かって跳ね上げつつその巨体を回転させつつ低く屈める。その頭上を第一世代機の左腕が――恐らく右腕を弾いた反動を利用して勢いよく通り過ぎた。

 そのことを投影された映像で確認しつつも少女は第二世代機の身体をその場で回転させ続け、長い尾部で第一世代機の足元を、右腕の鞭でそれよりも上方を薙ぎ払う。が、それを読んでいたのか第一世代機――父は大きく後方へ飛び退ると嬉しそうな声を発した。


『驚いた。左腕は読んでた?』

「多少は」

『尻尾の追撃は予想してたけど、鞭も来るとはね。位置も悪くない。普通に跳んで避けてたら貰ってたかな?』

「結局当たりませんでしたけど」


 父の称賛の声に、少女は短く答える。多少先読みできるようになっても、結局未だまともな攻撃は当たっていない。

 確かにこちらには鞭という武器もあり、それを振るう事で攻撃を繰り出してはいるが……すべて躱すかいなされるか。


 ――鞭の先端部分は音速を超えるというのに……正直お父様でなければ化物と叫んでいた所です……


 もっとも、その速度故に鞭が描く軌道自体はそれほど複雑なものではない。恐らくあの父の事だから、腕の動きから軌道を読み切っているのだろう。


「……だからって全部防ぐのはどうかと」

『? どうした?』

「何でもありません!」


 叫ぶ合間も鞭を振るい、あるいは間合いを詰め、時には距離を置いて何とか攻撃を当てようとしているが……一つもあたらない。

正直巨人機械を操っている時の父の勘の良さ、目の良さは常人離れしている。それでもなんとか一矢は報いたい所なのだが。


 が、巨人機械を操っている時の父は、普段自分に対して甘すぎる父とは全く別の存在であり……要するに甘くはなかった。


『ならまあいいや』


 父はそう呟くと、不意に第一世代機の刻印機関の回転数を落とす。


「……え?」


 刻印機関が生み出す膨大な魔力、その大半は機体の強度を上げることと、重量の軽減という、空船で使われる浮遊魔法の応用魔法に消費される。それらがなければこれほどの巨体が肉弾戦を行うことなど不可能……どころか直立を維持することすらままならないだろう。


 その、巨人機械という機体の維持に必要な魔力を絞ることで何をするつもりか。あの父が考えもなしにそんなことをするわけがないが、しかしこのままではすぐにでも前方に倒れて……


「……まさか!?」


 父の意図に気が付いた少女が思わず声を漏らし、鞭を振り上げるのと第一世代機の刻印機関の回転数が強引と行ってよい勢いで高められたのは同時だった。


『正解。だけどちょっと遅かったかな?』


前方へと傾いでいた第一世代機。その重量により倒れ込む速度から回復できるぎりぎりの地点での刻印機関の再起動により、およそ従来のそれよりも恐ろしく早い踏み込みを見せる第一世代機に向かって鞭の先端を合わせるが……


「またそんな避け方っ!」


 長い尻尾で地面を叩きつけた勢いで、鞭を躱した第一世代機の上体の軸が僅かにぶれる。


 それを視認した瞬間、少女は反射的に左腕の鞭を振るってしまい……直後縦に鞭を振るった自分に対して心の中で罵り声を上げ、それと同時に驚愕で目を見開いた。


 一体何をどうやったらそんな動きができるのか。


 軸がぶれ、上体が泳いだはずの第一世代機はそのまま側方へと倒れ込むような姿勢から、側転を披露して見せたのだ。


 三本の爪しかない腕を使って。


『というわけで僕の勝ちかな?』


 あまりにも非常識なその機動に呆気にとられてしまい、動きが止まってしまった第二世代機の横に立ち、首に当たる部分に爪を立てる第一世代機。


 少女は小さく溜息をつくと、外部拡声器を作動させると声を漏らした。


「……参りました」







なんか素材の解説でえらい時数取られてしまった上、可動部分の説明でどうにも手間取りました。

読んでて面白い説明にしたいんですが、なかなか難しいです。工学系の方はこれよりもめんどくさい事考えてるんだろうなと思うと頭が上がりません。


いや可動部分はもうちょっと魔法的でいいような気もしないでもないんですがね?いきなり何の積み重ねもない所で人工筋肉みたいなものってできないよなと思うと……

たすき掛けに竜縛縄を配置するともう少し関節可動域とか柔軟性が上がると思うんですが……多分その発想が出てこない気が……

どちらかというと油圧機構の上位版として配置してる感じですし。



おそらく50年くらい経過すればマッスルパッケージみたいなものも登場するんじゃないでしょうか。

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