表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森を征く者  作者: 架音
Prologue
1/18

Prologue・1

 それは不格好ながら、確かに人の形をしていた。


 形状は……何とも形容がしがたい。あえて近いものを上げるとすれば、短躯の人間に現在では廃れてしまった重装鎧を着せたような外見……と言えば適切だろうか?


 上下逆になった円錐形をしたやや細身の胴体。それを支える太い二本の脚。身長から考えると不自然に長い両腕と、胴体にへばりつくような小さな頭。そして全体のバランスを取るために存在するのだろう長大な尻尾。


 生物と魔道機が融合したようなその形状は粗野にして武骨。

 だが、だからこそなのかその全身を視界に収めれば、奇妙なほどの統一感を覚える異形。

 しかし前述の様々な特徴も、最大の特徴の前には些細なもののようにも見える。


 その人型を模したものは、ただ大きかった。


 皇都の大店……三層建ての建物の屋根よりもまだ高い位置に頭が位置すると言えば、その身体の大きさが分かるだろうか?


 その巨人に群がっているのは多数の人。


 巨人よりもなお高い天井と、種々雑多な機材、魔道機が散乱する縦横三〇ロード(45m)はある室内にいるその数は二〇名前後にもなるだろうか。


 同じ型の動きやすそうな水色の服を着込んだ彼らは定められた手順を確認し、不調があれば修正し、致命的なものであれば上司とみられる人間の指示を仰ぎ、そうでなければ自らの手腕で問題を解決していく。


 早朝七時から始められた最終調整作業は太陽が中天にかかる昼時、一二時を過ぎるころに、ようやくその全行程を終わらせつつあった。


彼らは己が果たすべき役割を十全に完了したことを確認した者から順番に、この場の技術者全てを統括する責任者に作業完了の報告をすべく、声を張り上げる。


「右脚部班点検終了です親方!」

「左腕部班終了です!親方!」

「魔道増幅器調整班調整完了しました親方!」

「積層魔道方陣起動確認!魔力供給安定基準値超えました親方!」

「各部点検報告完了です!いつでも起動できます親方!」


 その報告を受け取り、手順に不備がない事を確認した責任者の男は部下たちに、改めて乱暴な口調で為すべきことを伝えた。


「おう!いいか手前らそのまま気ぃ抜くんじゃねぇぞ!」


 皇国魔道機導師ガンドウ=ガルズバン。


 現在はこの空に存在しない、堕ちた島コンフォートレットの固有人種である金剛族の男で、皇国の魔道機技師の最高位である導師の位を与えられた男でもある。


 もっとも当人は“導師”などという『黒板をひっかいたような』呼ばれ方を嫌い、弟子達にはもっぱら金剛族の技術者に対する尊称である“親方”と、呼ばせていた。


 その“親方”は全ての準備が完了したことを確認すると、設計図を始めとした多量の資料が散乱する討議机に設置されている短距離通信機を手に取ると、その髭面に獰猛な笑みを浮かべ、口を開いた。


「さて侯爵殿。こちとらの作業はすべて完了した。あとはあんたがいいところを見せるだけなんだが……そっちの準備はどうだ?」


 ガンドウのその言葉に呼応するかのように、ややくぐもった若い男の声がその場……皇国魔道機研究第三塔特別開発部専用開発室全体に響き渡る。


『侯爵殿はやめてくれガンドウ。なんだかバカにされてる気分になる』


 自分の上司でありまた、豆粒のようなガキの頃からの付き合いがある古馴染みの実にらしい返答に、ガンドウは鼻を鳴らして応えた。


 どこかくぐもった感じだが、張りのある若々しい男の照れたような美声にこの工房の主任甲術師のガンドウは鼻を鳴らして答える。


「へっ……なに言ってやがる。昨日綬爵して領地をいただいたばかりだろうが。え?エンドランツ大陸侯爵様?」

『領地って言われてもな……』


 皇国魔道機導師の揶揄するようなその言葉に、実にいやそうな声音で青年は言葉を返した。


『今後二〇年の間に土地を開墾出来たらって条件が付いてるんだぞ?……準備期間で半分は取られるから、一〇年でどこまでできるのやら……あの大樹の地上でさ』

「それができる見込みを作っちまったんだから仕方ねぇだろうに。いい加減腹ぁ括れや」


 やや憂鬱そうな青年の言葉にガンドウ主任機甲術師は呆れたような声を返した。


「そもそもの発端はお前の道楽だろう?一〇年近く魔道機いじりを続けてたのは、こいつを組み上げるためだったんじゃないのか?」

『まあ……言われてみればそうなんだけど、あれは俺が爺さんになる頃に完成すればいいなとか思ってやってたわけで』

「ぬかしやがる……あの調子で魔道機いじりなんぞ続けてたらとっくに破産して路頭に迷ってたところだぜ?」

『いやまあその通りではあるかもしれないけど……そもそも何で俺だけ爵位を追贈されなきゃならないのさ。ガンドウだって俺と一緒に色々やってたはずなのに』

「俺ぁお前の引いた図面通りの仕事をしただけだろうに。大体よその島の人間がそうそう爵位なんかもらえるわけねぇだろう?俺はあの気色悪い『導師』って称号だけで腹いっぱいだ……大体お前、皇陛下からあんだけの予算分捕っておいて、今さら不満なんざ漏らしてるんじゃねえぜ?」

『まぁ……確かに』

「先の事は先で悩みゃあいいさ。愚痴と酒ならいくらでも付き合ってやる」

『ガンドウ……お前タダ酒が飲みたいだけじゃないか?』


 侯爵の呆れたような声に、違いねぇ、とガンドウは返し大声で笑い声を上げ、そして表情を改める。


「それじゃあいいところ見せてくれよ?侯爵。未来の皇国住人のために……は、まあ先々考える事としてだ」


 そこで真面目な顔を再び歪ませ、工房の片隅に視線を送り、ニヤリと笑いを浮かべる。


「とりあえずは嫁さんとお嬢ちゃんにいいトコロ見せてやらなくちゃなぁ?」


 皇国魔道機導師の視線の先……壁際に設けられている普段全く活用されることのない見学者用の空間にいるのは、一人の女性と一人の子供だった。


 女性の方はガンドウの出身島であるコンフォートレットと同様、現在はこの空に存在しない堕ちた島ヒューロニクスの固有人種であることを示す長く大きな耳を持っていた。光翅族でしか持ちえない、金糸のような長い髪を持つほっそりとした美人で、心配そうな表情で巨人に視線を送っている。

 もう一人は女性によく似た銀色の髪の少女で、女性にそっくりな顔をこちらは好奇心で輝かせ、同じように巨人を見上げていた。


『そうだな……リリー、シェリー、見ていてくれるか?』


 ガンドウの言葉に侯爵と呼ばれた青年は気を取り直すようにそう呟くと、愛する二人の女性の名を呼ぶ。


「サーディス……」

「お父さまー!」


 心配そうな妻の声に適度な緊張感を覚え、やや興奮気味な娘の声で僅かばかり残されていた不安が払拭される。


『それじゃあ歩行実験から始めるぞ。記録の方よろしく』

「おうよ。まあぶっ倒れてもまたすぐ直してやるから心配するな」






 サーディス=ゴラン=エンドランツ侯爵はその日、自らが設計し作り上げた巨人『森を征く者』試作機を操作し、特別開発部専用開発室内で記念すべき第一歩を踏み出させることに成功した。




 時にアルエンド太陽暦八七三年四の月三日。春雪花の真っ白な花弁が皇都を飾る春の季節。

 浮遊島シェルラ大島の遥か彼方の眼下に広がる、大樹にその全貌を隠された緑の大陸を切り開くための巨人は、産声を上げたのだった。







つい勢いで始めてしまいました。第一弾。

何となくメカとかやりたかったんで……


しかし、魔法系ロボ使っての大陸開拓史とか、この話もニッチ路線確定な気がしないでもないですはい。


そしてタグに性懲りもなく性転換ついてますが、主人公がまともに登場するのはPrologue・3からになります、はい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ