暇つぶし
三題噺もどき―はっぴゃくろくじゅう。
スマホを片手に、机の上に置かれている飲み物に手を伸ばす。
冷えた缶が指先に触れ、だんだんと冷えていく。
中身は冷たいココア。
「……」
その前に、スマホの画面に映し出されたトランプを動かす。
あまりこういうパズルゲームパズル的な得意ではないのだけど、なんとなくたまにやってみたくなる。
基本的に考えることが好きではないので、頭を使うゲームは苦手なのだ。単にバカと言うだけだが。すぐにヒントを使うし、何も考えずに動かしすぎてすぐに積む。何が楽しいのかと言われれば、何もと言うしかない。
「……」
まぁ、それでも目の前の現実から目をそらすには丁度いい。
視線をスマホから動かすことなく、手に持った缶を口元に持ってくる。
ヒヤリとした冷たいアルミが口先に触れ、そこから甘い香りが漂う。
「……」
こぼれないように傾ければ、口内に甘味料の塊のような甘さが広がる。
喉に流し込めばまとわりつくような甘さに変わる。
ココアと言うのは美味しいのだけど、市販のものは甘すぎると言うのが難点だ。
美味しいから飲むけど。
「……」
周囲はざわざわと騒がしい。
昼休みだから当たり前なのだけど。
これでも校内に居る人数は少ない方だろう。
今日は天気も程よく晴れているし、さほど暑いという事もない。
なんだか久しぶりに心地のいい天気に見舞われている。
「……」
なんだかこういういい方は好きではないが、男子というモノはいくつになっても外遊びが好きなんだな……小学校から変わらずサッカーボールを取り出し、校庭で駆け回り、ボールを取り出し、当て合って。ここからは見えないから実際どうかは知らないけど。
「……」
まぁ、その点女子も変わらないのか。
集団を作ってきゃっきゃと楽しそうに話をしていると思えば、他の集団に向けてのあれこれを言い出して。仲間外れは当たり前で、いじめなんて大抵陰湿なモノばかり。
頭がいいのか悪いのか……。私も言えたことではないので。何もこれ以上はやめておこう。
「……」
目の前では、いつものメンバーが楽しそうに話している。
その中にはもちろん、あの子がいる。
長い髪の毛先をほんの少し切ってきたらしい。
動くたびにさらりと揺れて、どこか少し艶やかにさえ見える。
「……」
その先に見える制服のボタンが。
一か所だけ外れているのが見えた。
らしくもなく。
「……」
スマホを閉じ、膝の上に置く。
手に持っていた缶を机の上に置き、その手を伸ばす。
目の前で楽しそうに話すその横顔に。
「……、」
「ん、どうしたの」
まぁ、直接その頬に触れるなんてことは出来ないので。
細い腕を覆う制服を軽く引っ張るにとどめる。
驚くこともなく、ただきょとんと、こちらに顔を向ける。
大きな瞳と、ぱちりと目があい、それだけで、なぜか不思議な気持ちになる。
「ボタン、外れてる」
「え、ほんとだ」
顔を伏せると同時に、長い髪がさらりと落ちる。
輪をくぐらせるタイプではなく、ぱちんと止めるタイプ。
何かの拍子で取れたのか、止め忘れていただけなのかは分からないけれど。
あまり外れることもなさそうなのに。
「ありがと」
「ん、」
外れていたボタンを、パチンと止め、会話に戻ることなく。
身体ごとこちらに向ける。
もうお話は終わったんだろうか。
いつものように机を挟んで、座っている。
「なにしてたの」
「……暇つぶし?」
「え~」
ニコニコと。
いや、にやにやと?
楽しそうに。
「……」
こんな表情を見せるのが、私にだけだったらなんて。
思ってもいいのだろうか。
お題:ボタン・甘味料・トランプ




