美童好みの女神の逸話、その語り
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「それで?どうなったの?」
男の周りには、嬉々とした顔の子供たちが肩を寄せていた。
我先に、誰よりも多くを、という気持ちの現れ。
「そのサトミという童の霊は、女神様のもとを離れ、無事立派な神様になられたのだよ」
へぇ~
と、子供たちが歓声をあげた。
小さな郷は、今税として回収される米を収穫する農繁期。
大人たちは稲を刈りに田へ赴き、手伝いが出来るほど大きくない子供たちは一所で面倒を見られる。
今日は、山の麓の大楠の下…。
昔話をする男の背には、立てられたばかりの若宮が一つ。
「先生!女神様とヌシ様はどうなったの?」
先生、と呼ばれ、男は照れたように笑んだ。
目じりに、笑いじわができて、優しげな印象を残す。
「まだまだ女神様はいろいろな所業を成しておられるよ」
男は、小さな子供の頭をなでた。
日も落ちてきて、子供たちが家へ帰る時間が近づいている。
「先生!人間の男の子はどうなったの?」
肩口で綺麗に切りそろえられた髪を持つ少女が、男に聞いた。
「そうだね、人が神様や山のヌシ様と一緒に暮らすことは、本当はできないことだからね。しばらくして、色々な知恵をつけてお山を出て行くことになったんだよ」
「また居場所、なくなっちゃったの?」
「難しい話だけどね、居場所というのは自らが作り上げるもので、なくなったりするようなものではないんだ」
「ふーん?よくわかんない」
「さ、もう夕餉の時刻も近い。暗くなると、おうちに帰れなくなるよ」
「えー、まだ一杯お話し聞かせてよー」
男は立ち上がり、青い袴の土を払った。
「…うん、たくさんお話したいことがあるから明日も待っているよ」
山に住む、眷属を増やす役目を負った蛇神と、神になった霊の話。
そして、神になった少年の話。
そして。
美童好みの女神の逸話を。