女神とサトミと宗次とヌシの縁
宗次はいつの間にか眠っていた。
女神は変わらず沼のほとりに座っている。
「女神様……」
声をかけると、大事ないと一言返事があった。
その姿を見て、ヌシが女神のところへいけと言った意味が分かった。
一人にさせたくなかったのだ、と。
今、女神はとても不安げで、物寂しそうにしている。
「女神様……」
宗次は再び声をかける。
「大丈夫ですよ、きっと」
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サトミが帰ってきたのは、翌日の昼過ぎであった。
なんの前触れもなく、ヌシに伴われて社に姿を現した。
「サトミ!」
その姿をみとめ、女神が立ち上がる。
宗次も二人を迎えたが、一見してなんの変化も見られない。
「……終わったのですか?」
恐る恐る声をかける。
宗次と女神の心配する姿を見て、ヌシは軽く首肯した。
「神の縁を切るなど、崇徳院にも初めての事ゆえ多少時間はかかるといわれたがな」
元は悪縁を切る祈願をする場所である。
神との縁を悪とするには、いささか不敬である。
だが。
サトミと里見の縁を切るにはその力こそ有効であった。
「宗次、女神様、心配をおかけしました」
サトミが二人に礼をする。
「あの、向こうの里見さんは……」
「あれも大事ないと思う。天狗に添われ帰って行ったが、体験した神威にあてられたやもしれぬが、自らの足で帰っていきおった」
「あとは、完全に縁が切れるまで身を清く保つことだ」
サトミとヌシに言われ、宗次も安堵する。
ふと気づくと。
女神が泣いていた。
「女神様!?」
「お主、何を泣いておる」
「だってぇ!良かったぁ」
まるで子供のように泣きじゃくる女神を、サトミが優しくその頭をなでる。
「女神様、大丈夫です。私はここにいます」
「サトミぃー」
女神がしっかとサトミの細い腰を抱く。
「崇徳院は怖くなかったか?大物主にいじめられなかったか?」
「大丈夫ですよ。それは……院は都に祟りを成したといわれるお方ですが、今はもう、ご自身と同じく人々が不幸にならぬようにと願っておいでですので」
ヌシが二人に割って入る。
「大物主に失礼だぞ、お主」
「でも、これで縁が切れたら再び安寧な日々を過ごすことができますね」
宗次も目じりに涙を浮かべた。
「お主も美童を好むその趣向を少しは断ち切れ」
サトミに巻きついた女神の腕を払いながら、ヌシが言う。
「あっれ、嫉妬ですか?」
「なぜ嫉妬などせねばならん。もとはお主がサトミの霊をとどめたからおかしな噂が……ええい!なんでもないわ!」
少し前のヌシの沼にいるようだった。
女神がいて、サトミがいて、ヌシがいて、宗次がいる。
今回の事は何もかもがつながっている。
大事な縁だ。
自身の力の影響で不幸な娘を生み出してしまったヌシ。
ヌシとであった事で美童好みになってしまった女神。
美童好みの女神に生贄として差し出されたサトミ。
村から追い出され、女神たちに出会った宗次。
この世に留められた先祖の霊に深く悩まさせられた惟周。
惟周に命を救われた天狗。
すべての理が、つながっている。
今回は縁を切ることになったが、宗次は今結ばれている縁を大切にしたいと思う。
特異な縁ではあるが。
「さ、今日は宗次もここにとどまれ。明日朝送ってやろう」
「そうですね。ありがとうございます。では僕は食事の用意を……」
言うそばから、宗次の腹が鳴った。
「これはうっかりしておった。すまんな宗次」
ヌシがまじめな顔をして謝罪した。
「意外とかわいいな、宗次」
女神がにやにやとつぶやく。
「しかし、宗次は大人になるから良いが……お主、そろそろ稚児趣味をやめぬか」
「いやです!私の心の平安を奪わないでください!」
女神の反発を聞きながら宗次は場にいる面々を見回した。
笑顔がこぼれる。
「女神様の逸話、また聞かせてくださいね」
そう言って、この特異な縁に感謝した。




