女神と天狗と戦の末路
何を持って決着となすのか。
消耗戦となっている。
暗澹たる空は時の流れを忘れさせる。
いったいどれほどの時間空を見上げているだろう。
雉子がちらりと比央を見た。
あまり戦の経験がない彼を、わずかだが案じる気配がある。
それに気づいてか、比央は緩やかに口元を緩めた。
「面白いな……。父上たちはこのような争いを日々続けておられたのか」
それは人々の暮らしがまだ京に集約される前の、各所に出現した力ある妖異たちの勢力争い。
平安の時代も終わり古来の信仰も変化した昨今においてはそれらも収束し、定着しつつある。
妖異同士の大きな争いはもう、長く起こっていなかった。
「そろそろ終わりにしよう」
比央のその一言が、なぜかサトミにも聞こえた。
ピリリと皮膚を刺す空気の変化が言葉の重さを感じさせ、サトミの中にある種の恐怖を生む。
それは、ヌシも感じた。
そして。
大きく目が見開かれたかのように重たげな雲が比央を中心に割れた。
しかしそこには空はない。
空の代わりにさらに漆黒の闇があった。
比央の美しい羽が左右に大きく広がる。
今までにない、圧力がかかったような息苦しさが広がった。
宗次のひざが折れる。
次の瞬間、女神の体が消えた。
人型になったのだと気づくまでにしばらくかかった。
「女神様!」
サトミは思わず飛び出していた。
中空に投げ出されるようにして、女神の体が落下していく。
「気を消したか」
ヌシが合点のいった表情で後を追う。
宗次はその成り行きを見守ることしかできない。
小さな体の二人に支えられ、女神が地上に横たえられた。
「大丈夫ですか?」
「息をするのに必要な気がこやつの周辺から消されたのだ。しばらくこのまま安静に。じき目覚める」
宗次の問いにヌシは冷静に答えたが、わずかながらに語気に緊張が混じる。
その緊張の理由が怒りに違いないことはわかるが、誰に対してのそれなのかは宗次にはわからない。
「さて」
女神が戦えなくなったところで、天狗二人は優雅に降下を始め、森の直上で止まった。
「結界が消えないということは、やはりこの蛇は本物ではないということだな」
天狗の言葉に、ヌシがぬらりと視線を流した。