女神とヌシと女神の呪い
「ヌシ様、何か手はないのでしょうか」
不穏な上空を見上げ、サトミが問う。
「……もし、互いの信ずるものを譲るというのならすぐにでも解決しよう。だが、それを出来ぬからこうなっておる」
「私が……一族の誤解を解けば……」
サトミの言葉に、ヌシは目を閉じる。
「すでに起こった過去は変えられぬ。おぬし、どう一族に証明するというのだ。祟っていないとでも言うつもりか」
ぐ、とサトミが険しい顔をした。
「でも、サトミさんは現に祟りなんて起こしてないですよ!」
宗次も割ってはいる。
「先にも言うたが、人は原因を求める生き物なのだ。たとえ祟る意思がなくとも、おそらくサトミの子孫たちにはサトミの霊魂の影が差していたのだ」
深く。
その言葉の意味が心に刺さった。
「まさか……」
女神がながくこの世にサトミを霊魂のままとどめ置いたから。
宗次はあらためて空を見上げた。
くねる龍の体。
―――女神様は、おそらくそれをわかっている。
どうするのか。
今はまだ。
息をのんで見守るしかなかった。
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あの日。
自分に鱗があるから厭われるのだと悟ったあの日。
味噌部屋に作られた座敷牢に囚われたまま死んでいった母のことを思い出した。
夜叉姫と呼ばれ、男勝りに狩りに出ていたという母。
「だから、お前にも夜叉という名をあげよう。あの人がお前に気づき、そして私を忘れないように」
呪いのように。
それは今でも耳に残って離れない。
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