サトミと宗次とヌシの所懐
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宗次とサトミの体が、抗いがたい引力に捕まった。
予想だにしなかった反応に、心拍数が大きく高まる。
息が詰まる。
眼を閉じる間もなく、ふわりと体の感覚がなくなった。
眩い光。
思い出したかのように瞬く。
「サトミ!宗次!」
呼ばれて顔を上げると、甕の中をのぞいていたはずなのに女神の沼のほとりにいた。
久しぶりにみるヌシの姿。
相変わらず女神好みの利発そうな稚児の顔。
「ヌシ様?」
一瞬呆けていたサトミも、すぐに正気を取り戻す。
そしてすぐに悪いことが起こったのだと悟った。
――どん!
上空で何かが弾ける振動があった。
天狗の瘴気。
さらにうごめく鱗。
灰銀色の煌めきが曇天を一層濃くしていく。
宗次は知っている。
あれが女神だと。
サトミもすぐに理解したようだ。
自分のために女神が天狗と戦っている。
「お主たち、まさか我らを案じてくれたのか?」
音もなく二人の傍ら近くにヌシが寄った。
「申し訳ありません。ヌシ様……」
謝るサトミをヌシが遮る。
「よい、いたしかたない。これも天命よ」
「やはり天狗なのですね?今度は女神様を狙っているのですか?」
「何やらお前も事情を知っているようだな」
宗次は眼を細めた。
木の葉の茂みのその合間に、雷雲を呼ぶ女神の本性と二匹の天狗が見える。
しかし、先日の天狗とは明らかに違うようだった。
「……あれは比良の天狗ですか」
「黒く仮面をつけておるのが見えるか?あれは若く経験も浅いようだが潜在する力が強い。雉羽の方は戦慣れしておるようだ」
宗次の質問に応え、ヌシは続ける。
「どうもサトミの怨念を消す為、邪魔な女神から消そうと企んでいるらしい」
「私は親族を恨んではおりませぬ」
「そうは言うてもな、サトミ。お主自身は恨んでおらぬといえど祟りは発生する。人は簡単に因縁を結ぶからの」
ヌシは静かに語った。
「何らかの不の事象に対し、原因を求める。腹を下したのは水が悪かったから。躓いたのは石が転がっていたから」
「それと同じだと?」
「断言はできぬが、比良の天狗たちが守ろうとするサトミの子孫の不幸に際し、たまたま成仏しておらぬサトミの霊験の影が見えたのなら、な
そこまで言って、ヌシは肩をすくめた。
「結局あやつが悪いと言っているようなものだな」
示唆する先には、女神の姿。
稚児の霊を傍におき、現世に留めていた女神。
さらに。
「帰ってこなかった我も同罪か」