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女神と天狗と交わる因縁



低く垂れこめた雲のさらにその下で。

漆黒の羽根を持つ天狗が悠然と腕組みしていた。

目の部分だけを覆う仮面。

能面にも似た、硬質でかつ柔和な温かみがある。


挑発が効いたようだ


森の気配が変わった。

露わになっている唇が弓なりに曲がる。


「過日は我が同胞が世話になった」


地に向けて礼を述べる。


「遠くて聞こえない」


姿はなかったが、確かに女神の声がした。

天狗はまた笑う。

「そうだった。蛇には耳がないのであったな」

「無礼なやつだな。この前のもそうだったが、故事にもあるようそういう生き物なのか」

「ほう?学があるようだな」

「そういう偏見が無礼だというのだ」

ふわりと。

天狗の眼前に水滴が集まる。

「雷雲を呼ぶとは安い挑発だな」

「我々は風であり天である」

「そうか。では我はなんであろうな」

大きくなった「水たまり」に、女神の体が浮かび上がる。

「今日は本性を現さぬのか」

「天狗、なぜサトミを狙う」

二人の声が重なった。

「……」

「……」

見えぬ視線がぶつかる。

女神が先に口を開いた。

「……存外若いな」

「生きた年月になんぞ関係があるのか」

「いや?もう少し若ければと思っただけ」

女神は上から下まで天狗の肌の色つやを見定める。

背丈は大人の成りで幼態である証しの鳥のようなくちばしはないが、声の感じからしてもずいぶん若いと知れた。

「サトミの子孫はなぜお前たち天狗を使役する」

「知ってどうする。蛇には関係あるまい」

「ええい!蛇蛇いうんじゃないよ!」

「怖い怖い、女の蛇は執念深いというからな」

はははと、天狗が声を上げた。

「……面白いなぁ、蛇神は」

仮面の下の眼がにんまりと無邪気に笑んだ気がした。

「わかった、面白いから教えてやろう」

今にも腹を抱えて笑いだしそうだ。

「我が御屋形様の魂は、お前が言う若宮に祟られている」

「サトミが子孫を祟るわけなかろう!」

反意を叫ぶが、漆黒の天狗は意に介さない。


バサリと。

大きな羽ばたきとともに雉羽を持つ天狗が視界に現れた。

黒い仮面天狗の隣に舞い立つ。

「しゃべりが過ぎますよ」

そして、黒い天狗をささやきでたしなめた。

女神の表情がゆがむ。

一目見て新参者が厄介な存在であると分かったからだ。

雌雉に似た羽根を持つ天狗は、存在自体が伝統的に古く尊い血統だ。

「何を悠長に構えておいでか」

雉羽の天狗は女神を無視するかのようにさらに続ける。

「雨を降らせると厄介ですぞ」

「分かっている。まあ少し楽しませてくれ」

黒天狗の鋭い視線が女神を捉える、


ふぅ、と。

女神は息を吐いた。

もしもがあるとは思いたくないが、ヌシが見守っていてくれている。

サトミが人を祟るはずはない。

それは信じられる。

人に捨てられた自分とサトミ。

同じ境遇にあって、家族同然に長い時を過ごした。

新たな生き方を得たサトミを消滅させるわけにはいかない。

人々の拠り所となり、存在価値を得られた幼子に消される謂われはないはずだ。

「去っていただこうではないか」

女神は意を決した。

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