女神とヌシと曇天の雷
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「あーどうしたものでしょうね」
頬杖をついてため息。
今にも落ちてきそうな重たい空が、深い木々の茂みの隙間に垣間見える。
結界に守られたヌシの森の上空を密度の濃い空気がうごめいている。
「お主、天狗と一体何を揉めたのだ」
女神と一緒に天空を見上げながら、ヌシもため息をつく。
二人には宗次たちと違い焦る様子はない。
「おそらくですね、目には目をというやつではないでしょうか」
「天狗は自尊心が高すぎる。よほど痛い目にあわせたか」
「ちょっと大げさではないですか?」
「事の次第を一から十までとくと話せば力になってやらぬこともないぞ」
「え?ヌシ様……それって手助けしてくれないってことですか」
「なんじゃ、話す気にならぬか」
「えー……そんな大層なことでもないし、ご想像の通りですけども」
「やはりサトミ関連か」
「かくかくしかじか」
暗雲を頭上にいだいたまま、女神は観念したように語りだす。
怒られるならそれもしょうがない。
怒ったヌシの顔も素敵だからいい。
「お主、ほんに稚児が好きよの……」
女神の想像に反して呆れかえった反応が返ってきた。
「しかし、サトミも苦労するのう」
「ええ、死しても親族に疎まれるとは」
「お主の事を言うておるのだ愚か者」
「えええええ?私ですか!」
「過保護にも程があるわ。付きまとうてやるなよ」
「いやいやいやいや、それはヌシ様譲りということで」
「うるさい。一緒にするでないわ」
二人の会話を割くように。
曇天に雷光が走った。
「あ」
地響き。
ヌシの森の端に雷が落ちた。
生木の爆ぜる不快な、悲鳴にも似た音が空を震わす。
肌でそれを感じながら、ヌシはいたわるように視線を投げた。
「どれ、ちいと野次馬でもしてまいろうかの」
「お供します!」
「ふん、食われるでないぞ夜叉」
天の神妖と地の龍神は交わることのない種族。
天敵。
されど。
「絡み合った因縁をここでほぐしておかねば地の安定はないのでな」
にやりと。
影の落ちた表情にきらりと光る笑み。
「さっすが~」
すべてを終わらせる自信に満ちた幼い姿をした「神」の姿に、やはり女神は恍惚とするのであった。




