宗次とサトミと空の異変
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若宮神社の境内には、いつものように子供らの遊ぶ声が満ちている。
宗次が柔和な笑みで子供らの遊ぶ様を見ていると、
「もはやそなたも女神様の趣味にそまったのではないでしょうね?」
単純に疑問を口に乗せたのだとでもいわんばかりのサトミの声が耳に届く。
宗次にしか聞こえない、若宮の声。
「……ほほ笑ましいだけです」
「否定せずともよいのですよ?別に責めているわけではないのです。対象がどちらにせよ」
「変なこと言わないで下さいよ……貴族でも僧侶でもないのですから」
稚児を囲う趣味などないと、否定する。
「宗次……いくつになりました」
「もうすぐ17ですかね」
「そろそろ婚姻も考えてよい年では?」
「ええ?いや、この若宮の正式な宮司になるまではそんなの考えられませんよ」
「まぁ、良いですが。私に付きおうて独り身で一生を終えないようにするのですよ」
「……いきなりどうしたんですか」
「人は、生をまっとうする為に生まれ出るものですからね」
サトミは、自分と同じ年頃の姿をした子供らを見つめながらそう言う。
サトミ自身のことか、女神のことか。
言葉の真意に何を思っているのか。
生をまっとうするというその意味を、どう解釈しての言葉なのか。
「……サト……」
宗次がサトミの真意を問おうとした時、異変は起こった。
「あー!お山が真っ黒!」
子供達が次々を山を指差す。
その方向は、大井村。
真っ黒と表現された山は、実はその上の空だった。
雨雲のようなそれ。
しかし、異様に不穏な気配。
「宗次!」
サトミもその異変に声を荒げる。
「子供らを家に帰すのです!今日は決して家から出ぬよう厳命しなさい!」
「はい!」
子供達の背を押し、家路を急がせる。
しぶる子供達をようやく帰らせ本社を振り返ると、サトミが険しい表情で立ち尽くしていた。
ぞわり、と。
背筋が泡立つ。
何かよくないことが起ころうとしている。
明らかにそんな様子だ。
「サトミさん……!」
「ええ、ヌシ様と女神様に何も無ければ良いのですが」
「俺、行って来ます!」
「待つのです!」
「でも!」
祀られた神はおいそれと守護地を出ることはできない。
異変を確認する為には宗次が大井村にいくしかない。
「あの雷雲。天候を操るのは高位の妖畏か神。ですが、今はヌシ様が土地におわす。もし、天狗の仕業であったら真の狙いは私でしょう……」
ぐ、と宗次のこぶしに力が篭る。
「これも天狗の仕業だと……?そうまでしてサトミさんを?祟るわけないのに……!」
「判りません。でも、確実に力のある怪異の仕業に違いないでしょう」
サトミの表情も曇る。
歯がゆさがにじみ出る。
「そなたはただの人ですよ?行って、どうするのです。もし、そなたに何かあれば私はどうしたらよい……」