美童好みの女神の逸話、その語り2
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蒼天。
昨夜の龍神出現の騒ぎは、吹き飛んだ家屋にしか痕跡を見出せない。
何か特殊な呪でもかかっていたのか、龍神と天狗を目撃したという話も村人の口に上ることはなかった。
「先生、林のおうち、どうしたのかな?」
いつものように境内に集まる子供たち。
宗次は子供たちと一緒に戯れながら
「昨晩の嵐で、屋根に何か落ちたんだよ」
さし障りのない程度の事実を教える。
「ふーん?よくわからないや」
「ことの家はなんともなかったかい?」
「うちー?うん、ちょっと雨漏りしてたけど」
子供たちは今日も元気だ。
そして。
「今日はなんのお話をしてあげようね?」
「女神様のお話ー」
「女神様、好き?」
「先生が話してくれるお話は何でもすきー」
無垢な笑顔がその女神の心を和ませる。
きっと今も大楠の枝の上で、宗次と子供たちの姿を眺めているに違いない。
そういえば。
もうすぐ出雲からこの地の氏神が帰ってくる。
「女神様の話もいいけど、今度はここの神様の話をしてあげようか」
「本当?うちらの神様だよね?」
「そうだよ」
「女神様とうちらの神様、どっちがえらいの?」
「…」
どちらがえらい。
とは。
子供の考えとは常に面白い。
ちら、と梢の中の女神の気配を気にしたが、子供のためだ。
「ことたちを守ってくれているここの神様がえらいかなー」
宗次の答えに、ことはうれしそうに腕を上下する。
「本当?」
しかし。
宗次は考えた。
自分が知る神は多くいる。
もちろん、神話の神たちは雲の上の格であろうから、除外するとして。
身近な女神「夜叉」や「サトミ」、そして「ヌシ」は、やおろずの神たちの中でどんな存在なのだろう。
比良の天狗たちは神というより、物の怪の類のように感じる。
神、とは。
宗次の心に、かすかな疑問が浮かんだ。