第二話 名門校の優等生
「《裂空波》!!」
先輩の気迫にたじろぐ男。
両手に魔力を注ぎ、先輩目掛けて解き放つ。
さっきのとは桁違いの威力だ。
しかし、
「《虎行》!」
先輩は一切引くことなく構える。
白く輝く魔力を纏い、その嵐の中へと飛び込んでいった。
「こんなもん? かゆいぐらいだよ!」
「なっ!?」
男の魔法は先輩の魔力を突破できない。
衣服に届くことすらなく、彼女の進行を許していた。
「《白掌》!」
「ゴブッ!?」
叩き込まれる先輩の拳。
骨の軋む音が鳴り、魔力の爆風が嵐を容易くかき消す。
「分かりやすく中距離タイプ。 思った通り本人は柔らかかったね」
すごい…。
俺は言葉を漏らす。
簡単にやってのけたけど、本当ならあんな魔法受けられない。
事実建物やら舗装道路を切り裂くレベルだったし、俺なんて防御一辺倒でも突破されたんだぞ。
あれがA級、先輩の実力…。
「おのれ…! なぜ私が……。 たった一発の! ただの打撃でこのような………!!!」
煮えたぎる怒り。
うずくまって苦しんでいた男が怒声とともに立ち上がる。
「大人しくするならここまでにしてあげるけど———」
「舐めるな!!!」
先輩の言葉を遮り、駆け出す。
その動きはさっきまでの奴とは別人のようだった。
「クハハッ!! どうですかお嬢さん!! 私の動きが追えないでしょう!!!」
先輩の言った通り、さっきまであいつは魔法ぶっぱの中距離タイプそのものだった。
しかしどうだ、今のこの速度。
動きどころか魔力の流動も追えない。
周囲の建物を駆け回り、飛び回り、無数の残像だけが俺たちを取り囲んでいた。
「私の魔法は空気の操作!! 圧縮発射だけでなく流れそのものを操り、抵抗を逆回転させ加速に転じることだってできるのです!! さらには!!! 圧縮した空気を設置することで弾性力による加速も得られる!!! これにより私は捉えることのできない超高速を———!!!!」
「うるさいよ」
意気揚々と語り出す男。
しかし次の瞬間、興奮に染まったその顔は、血が抜かれたように真っ青になることになる。
「《虎行》」
俺の目の前から先輩が“消えた”。
「なっ! バカな!?」
「遅いね。 簡単に追いつけちゃったよ?」
同時に聞こえる男の声。
視線を向けると、そのには先輩に首を掴まれてたあいつの姿があった。
あの姿すら見えない速度を、先輩は見切ってたんだ。
「どうやって!? なぜ私が捕まっ———!!!」
「だから………」
拳を構える先輩。
落下に身を任せながら男の顔面に解き放ち、地面へと叩き落とす。
衝撃で大地は盛り上がり、突風が吹き荒れる。
「・・・あれ、生きてるかなこれ」
『白虎』を解いた彼女は、いつもの先輩に戻っていた。
「あ! そうだエリウス君!」
駆け寄ってくる先輩。
まるで何事もなかったみたいな感じだな。
「遅くなっちゃってごめんね。 これ飲めるかな?」
彼女が差し出したのは“回復薬”。
軽い怪我なら簡単に治してくれる便利アイテムだ。
俺はそれを受け取り、風呂上がりの牛乳の如く一気に喉の奥へと流し込む。
途端に足の傷口は塞がり、気持ち程度だが疲労も抜けていった。
「あんまり怪我してなくてよかったね」
「はい。 この子も腰抜けちゃってるだけみたいですし」
俺は後ろにいた子どもの方を見る。
怖かったからかずっと俺の服を握りしめてたおかげで俺の影にすっぽり隠れててくれた。
怪我の方は心配なさそうだな。
「とりあえずこの子送ろうか」
すがりつく子どもを抱えて立ち上がる。
しにても、なんでこんな子どもが一人でいたんだ?
ふと疑問に思ったその時、
「退いてください!!」
ある女性の声が聞こえてきた。
建物からもゾロゾロと人が出てきていたが、さらにその奥からだろうか。
「ねえ、あの耳ってさ」
その方を眺めていた俺に、先輩が呟く。
耳? 目を凝らして人混みを見ると、確かにピンッと張った長いウサギの耳がこっちに向かってくるのが見えた。
「あれってこの子の親御さん? 種族一緒だよね」
「え?」
ウサギの耳ってことは獣人だよな?
この子には人間の………。
そう思って子どもの頭らへんをよく見るとあった。
後ろの方に垂れる小さなウサギの耳が。
状況が状況だったし、垂れてたのもあって気が付かなかった。
「道開けてあげてー」
先輩の言葉でよろよろと動き出す人たち。
開けた道の先から、汗だくの女性が走ってきた。
「しょーちゃん!!」
「ママ!」
その女性を見た子どもはパーッと明るい表情を浮かべ、俺の背中から飛び降りた。
「よかった……。 いなくなったときはもうダメかと……」
どうやら母親で間違いないらしいな。
その人曰く、逃げてる途中で人に押されて手を離してしまったらしい。
あの量の人をかき分けることもできず、騒動の間は周りの人に止められて建物から出られなかったそうだ。
「本当になんとお礼を言ったらいいか、ありがとうございます」
自分の子どもがあんな奴のところにいるかもしれない。
そんな状態で助けにいけなかったんだもんな。
…不安だったろうな。
「いえいえ! それより、お子さんのためにも早く帰ってあげてくださいね!」
先輩のテンションは相変わらずだ。
けど、戦ってる時よりもこっちの方がしっくりくるな。
その後二人は何度も頭を下げながら帰っていった。
ーーー ーーー ーーー
「エリウス君、明日の放課後空いてる?」
帰り際、成り行きで寮まで一緒に歩いていると、先輩はそんなことを聞いてきた。
「空けようと思えば開けられますけど、どうしました?」
「実はさ、明日選抜大会の予行練習があるんだ。 対人式で本番とは違うけどね」
選抜大会、もうそんな時期か。
前々から言っているが、魔導士が名を上げるには大会で勝ち上がるのが一番手っ取り早い。
そのためにはもちろん大会に参加しなきゃなんだけど、そう簡単じゃないんだよな。
学校、一般それぞれで参加できる枠ってのは決まってる。
その中に入るためにはまず、それぞれの区分の中で参加資格を勝ち取らなきゃならないんだ。
「今日の君を見てて、やっぱり勿体無いって思ったんだよ。 君は魔導士としてもだけど、人としてももっと輝ける」
輝ける、ね。
今までだったら「そんなこと言ったって」って流してたかもしれない。
けど、今の俺は少し違っていた。
さっきのほんの一瞬、数分もしないぐらいしか見ていないけど、俺は先輩の戦う姿を幼い頃に見たあの少年、シアンと重ねてた。
“かっこいい”と思ったんだ。
自分もこんな風だったらなって、思ったんだ。
「………分かりました。 行ってみます」
「え、嘘!? いつもやだやだ言うのに来てくれるの!?」
ピョンピョンとはしゃぎ出す先輩。
そんな彼女の背中が、いつもよりも大きく見えていた。
<キャラ紹介>
個体名:ブレス
種族:純人間
適正魔法:強化系
スキル:【四獣展身】
強化系の適正魔法は、魔導士共通の魔力による身体強化の上位互換と考えられている。
強化倍率もそうだが、視覚の認識能力や思考速度なども加減することができ、より汎用性の効果の高いものになっている。
【四獣展身】
白虎、朱雀、青龍、玄武の四種を模した姿になることができる。 それぞれスピード型、バランス型、パワー型、ディフェンス型に分かれており、自分の意思で変えられる。




