第一話 別格
帰路。
校門を出てしばらく歩いたところには商店街もある寮までの長い道のり。
入学したての頃はよく誰かとここへ来た。
大会でも使える魔導具とかを売ってるところもあって、うちの学校以外からも時々人が来る。
なんだけど、なんだか今日は違和感があった。
「……なんか人多くね?」
さっき言った商店街の方から物凄い勢いで人波が迫って来てた。
今は昼間だしうちの学生もよく行くとこだけど、あんなに騒いでんのは初めて見るな。
そんな悠長なことを考えていた次の瞬間、
———シュン。
彼らの背後に立つ建物が崩れ落ちる。
立ち込める粉塵が、人々を包み込んだ。
「はあ!?」
何が起きたのか分からない。
建物はまるで何かに斬られたみたいに両断されている。
「逃げろ! 殺されるぞ!!」
殺される?
誰か暴れてるのか?
誰だか知らないけど、建物両断するなんてバケモンどころじゃないぞ。
この人たちは騒いでたとかじゃなく、暴れてる誰かから逃げてたんだ。
俺も早く逃げないと。
学校の方へ振り返る。
しかし、
「———助けて!」
一つの悲鳴が俺の耳に止まった。
他とは違ってか細く、絞り出したみたいなその声は俺の足にしがみつき、動きを止める。
俺は立ち止まり視線を巡らせた。
「いた!」
人混みの先。
たった一人でうずくまる子供の姿があった。
「(誰も気づいてないのかよ!)」
どうする。
この人混みじゃ掻き分けてくのは無理だ。
それにあの子の後ろ、“いる”。
明らかに他と雰囲気の違う黒ずくめの男が、ゆっくりと子供のもとへと向かっていた。
「ちょ、退けって!!」
クソッ!
かき分けようとしてもやっぱり進めない。
人が多すぎる。
「おやおや。 獣もこう見ると可哀想ですね」
「ッ!」
まずい、もうすぐそこじゃんか!
早くここ抜けないと取り返しが———!
「私が救ってあげましょう」
男が子供に腕を向ける。
明らかに魔力が、殺意がこもった手だ。
「クソッ!」
こうなったら一か八かだ!
「《裂空波》」
吹き荒れる突風。
竜巻のような風が地面を抉る。
しかし、
「大丈夫か!」
その直線に子供はいなかった。
ギリギリだけど間に合ったんだ。
「うん…でもお兄ちゃんの足が……」
子どもに言われて見てみると足首ら辺に血が滲んでいた。
ちょっとかすったか。
「気にすんな。 かすり傷だ」
痛みはあるけど腱は切れてない。
大丈夫だ。
「………貴方は? 見たところゴルツアル生のようですが」
「だったらなんだよ」
さーてどうする。
思わず出てきちゃったけど戦っても絶対勝てない。
俺は魔力量はあるけど建物ぶった斬るなんて怪物相手じゃ最悪使い切る前にやられる。
「大人でも逃げ出すこの状況で助けにくる勇気は認めましょう。 今その子を差し出せば見逃してあげます」
「寝言は寝て言えよ」
幸いなのはこいつの魔法自体は想像がつくってことだ。
最初、こいつは建物を切るために斬撃を使った。
多分斬撃そのものを作る生成系か、何かを操る操作系。
ただ操作系ならやばい。
単純に斬撃作るだけなら極論避ければいい。
けど操作系となると手数が段違いだ。
「(逃げれるか?)」
俺はこの子だけでも逃げてもらおうと声をかける。
しかし、
「ごめんなさい、足が……立てないんです…」
だよな。
こんな子供があやうく死にかけたんだ。
腰抜かすのも無理はない。
「ではそろそろ始めましょうか」
やっぱ戦うしかないか。
俺は奴の方を向き、両手に魔力を込める。
「《華刻》」
「うわッ!?」
早い!
ついさっきまで離れていた奴の手が、風とともに俺の頬をかすめた。
「チッ、《大熱波》!!」
まずはこの子から離れないと。
俺は両手に魔力を集めて解き放つ。
膨大な熱と蒸気が溢れ出し、男を吹き飛ばそうとした。
「やりますね。 しかし火力が足りませんよ?」
「うるせぇ!」
余裕で耐えてくるのかよ!
蒸気で押し出すぐらいできると思ったんだが、微動だにしない。
マジのバケモンじゃねぇか。
「《華刻》」
「しまっ———!?」
一瞬の緩みを男は見落とさない。
ガラ空きになった俺の腹に手を押し当て、魔法を叩き込んできた。
「———ごぶっ!」
俺の腹は十字に切り裂かれ、血飛沫が上がっていた。
「空気の操作か………!」
「おや、なかなか鋭いですね」
さっきかすったときも“風”があった。
こいつの魔法は空気の操作系。
圧縮とかして斬撃とか刺突もできる。
逃げようとしても無理だったなこりゃ。
「ではそろそろ……」
「まだ終わらねーよ!」
ふらつく足を立て直す。
俺は自らの炎を腹部に集中させた。
だけど
「止血、素晴らしい胆力ですね」
「《火球》!!」
正直もう限界だ。
視界は揺らぎ、半身の感覚も鈍くなってる。
この近距離で撃ち込んだ《火球》も瞬時にかき消された。
「おい! 逃げろ!」
振り返り、駆け出そうとしたその時、
「どこへ行くのですか?」
男が片手を構える。
周囲の空気を集約した塊が、俺のことを睨みつけていた。
「《裂空波》」
「《火円》!!!」
逃げる暇がない!
咄嗟に炎の盾を展開し子供を庇う。
けど、
「(重すぎるだろ………!!)」
建物とか地面抉る魔法なんていつまでも抑えてられない。
練ったそばから魔力を吐き出さないと防御が追いつかなかった。
「だ、誰か! この子を助けてください!!」
俺は必死に呼びかける。
周りには物陰に隠れながらこちらを見つめる人たちがいたんだ。
けど、誰一人来てはくれなかった。
「可哀想に。 少年が身を犠牲にしている姿を見てなお、大人が動いてくれないなんて」
———バキッ!
俺の盾に亀裂が走る。
魔力を維持するのも限界なんだ。
死ぬのか?
俺もこの子も。
こんな、何にもならないところで。
「…ざけんな。 ふざけんなぁぁあ!!!」
死なせてたまるか!
俺の雄叫びが街中を駆け巡る。
その時、
「《白掌》!!」
真っ白な魔力の塊が俺たちのあいだを貫き、男の魔法をかき消した。
「なんだ…?」
俺はその場に崩れ落ちる。
膝をつき、ゆっくりと見上げたその先には彼女が、ブレス先輩がいた。
「よく頑張ったねエリウス君。 あとは任せて」
「なんで先輩がここに? 放課後の練習行ったはずじゃ…」
「すごい物音だったからね。 一応と思ったんだけど、見に来て正解だったよ」
よかった。
緊張の糸がぷつんと切れる。
「さてと、君だよね? 私の後輩をいたぶってくれたの」
「そうですよ。 あまり歯応えがありませんでしたが、貴方なら少しは楽しめそうです」
不気味な笑みを浮かべる男。
しかし次の瞬間、その顔は青く染まることになった。
「スキル【四獣展身:白虎】」
「ッ!?」
もとは人間のブレス先輩。
その肌を雪のように真っ白な毛が覆い尽くし、耳や尻尾が生えていく。
同時に魔力も満ち溢れ、周囲を飲み込むような圧を放っていた。
「許さないよ」
<階級制度について>
魔導士の階級はE〜S級の全六段階で分けられている。
初階級は魔力総量や適正魔法の強さで決められ、そこから大会などの成績をかみして魔法庁管理のもと昇格降格が決められる。
E級…一般人レベル。 魔導士としては生きていけず、鍛冶師などの仕事に就く人が多い。
D級…そこそこ強い。 魔導士としてのスタートラインだが多くの人がこのステージに留まることになる。
C級…魔導士として一人前と認められる。 この辺りになると学校側から声がかかることもしばしばあり、魔法庁などへの加入も見込める。
B級…才能がないと到達できない。 それ以下とは比べものにならないほどの実力を認められる。
A級…超人。 大陸四大国家合わせても一握りの実力者。
S級…戦闘に関しては化け物級。 下手をすれば国すら滅ぶレベル。 基本的には魔法庁もしくは直轄の戦闘部隊などの統括役を担っている。




