表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第二帖 紅葉賀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/47

紅葉賀④

光る君の手はさらに下へと滑り、秘められた熱の源へ、指先をそっと忍ぶように触れました。

藤壺の宮は、喉の奥で泣きじゃくるような声を上げました。


ためらいがちに触れたはずの指先が、やがて抗えぬ熱に引き寄せられるように、その輪郭をなぞっていきます。

内側から伝わる熱が、布越しにも絡みつき、何かを切実に求めているのを、否応なく感じさせました。

光る君は、その訴えから目を逸らすこともできず、藤壺の宮の濡れた耳元に顔を寄せ、罪深い言葉を囁きます。


「こんなにも……肌を震わせて……

宮もまた、俺を求めているのでしょう」


「あっ……あぁっ……そんな……こと……」


首を振る藤壺の宮の声音は弱々しいのに、その身体は本能のままに光る君の手を追ってしまう。

逃れようとしながら、なお惹かれてしまう矛盾と苦悩が、

薄闇の中で彼女の裾をかすかに震わせました。


光る君は、藤壺の宮の熱へそっと触れるだけで、胸奥が灼けるほど痛みました。

そこは決して踏み込んではならぬ禁忌の領域であるのに、

震えた呼気が彼を誘惑し、罪の坂を転げ落ちるように、

さらなる深みへと心を導いてゆきます。


やがて光る君は、指先にまとわりつく熱を名残惜しそうに離し、

そのかわりに、藤壺の宮の震える身体そのものを、両腕で強く抱きしめました。

逃げ道をすべて断つように、その華奢な肩と背を抱き寄せると、

二人のあいだに残されていたわずかな距離は、息ひとつ分さえ残らず、埋め尽くされていきます。

藤壺の宮は苦痛とも快楽ともつかぬ感情に眉を寄せ、耐えるように唇を強く噛みしめました。


「くぅ……っ」


長く艶やかな黒髪が、水墨画の波のように畳に広がり、

沈香の煙に乱れて絡まるその髪を、光る君は愛おしむように指で梳きながら、藤壺の宮の耳朶へそっと唇を寄せます。

その瞬間、小さく身を捩り、初めて、理性ではなく心から、光る君の名を掠れた声で呼びました。


「君……」


その赦しを乞うような声に、光る君はすべてを忘れ、ただ胸の底から湧き上がる衝動に身を任せました。

また藤壺の宮は、首を振りながらも、魂の叫びのように、

より強く、より切実に、光る君を求めてしまうのです。

二人は誰にも聞かれぬよう声を殺し、重ねた身体の奥で響く鼓動を打ち合わせるたび、

汗と熱と沈香が濃密に混じり合い、肌が肌に吸い付くようでした。


光る君は、藤壺の宮の細い首筋に唇を滑らせ、その震えを追うように、

身体の至る所へとそっと口づけを散らします。

もう言葉にならないほどの甘い声が喉の奥から零れ、

藤壺の宮は光る君の名を何度も掠れた声で呼びました。


やがて二人の影は、重ねた衣の中でひとつの『形を成さぬ炎』のようにうねり、

肌と肌の境界は曖昧になり、沈香の薫りが二人の息を絡め取りました。


「……ああっ……」


その一言に、光る君はすべてを忘れました。

罪も、罰も、未来の破滅すらも。


藤壺の宮もまた、背を震わせながら光る君へと身を寄せ、

拒絶と渇望がひとつの波となり、ふたりを呑み込みます。


声を殺しながらも、息が触れ合うたびに熱が高まり、

藤壺の宮は光る君の肩に顔を埋め、震える涙をハラリと零します。


その涙を、光る君は祈るようにそっと唇で受け止めました。

そのたび、藤壺の宮の身体は月影のように細く震え、

張り詰めた糸が切れる寸前のように、気配が鋭く揺れました。


「もう……っ……だ、めえ……」


その囁きは、夜の底へ落ちる花弁のようにかすれ、

光る君はその苦しいほどの響きに胸を掴まれました。


「宮……どうか……俺を……」


やがて藤壺の宮の体は、光る君の腕の中で静かに強張り、

細く、深く震えながら、やっとの思いで呼吸を整えました。

光る君もまた、その震えに捕らえられるように、ただ彼女を抱きしめることしかできませんでした。


しばらく動くこともできず、

二人は汗と香と涙にまみれたまま、沈黙という罪の殻に閉じ込められ、

禁忌の愛を抱き合っておりました。


やがて東の空が白みはじめた頃、

藤壺の宮は静かに光る君の胸から離れ、震える指で乱れた髪を押さえました。


「……これきり……永遠に、これきりでございます……君」


その声は、哀しみの底で凍りついたように震えていました。

光る君は、己が犯した罪の深さに、言葉のひとかけらも見つけられません。


ただ、藤壺の宮の冷え始めた指先に、ひとつだけ口づけを落とし——

闇の中へ身を消すしかありませんでした。


残された藤壺の宮は、夜明けまで、乱れた衣のまま、香炉の煙を茫然と見つめ続けるだけ。


頬を伝う涙は、二度と止まることはありませんでした。


藤壺の宮との、ただ一度だけの禁忌の逢瀬——

それは、光る君の魂へ、永遠に消えない影となって刻まれた夜だったのです。

ブックマーク、☆☆☆☆☆、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
古典『源氏物語』をモチーフにした逆行(タイムリープ)×溺愛ロマンス作品です。全話を通じて、失われた愛を取り戻すために過去へ戻った主人公の再生劇が描かれ物語の導入は、「愛する妻・紫の上を失った光る君」…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ