紅葉賀④
光る君の手はさらに下へと滑り、秘められた熱の源へ、指先をそっと忍ぶように触れました。
藤壺の宮は、喉の奥で泣きじゃくるような声を上げました。
ためらいがちに触れたはずの指先が、やがて抗えぬ熱に引き寄せられるように、その輪郭をなぞっていきます。
内側から伝わる熱が、布越しにも絡みつき、何かを切実に求めているのを、否応なく感じさせました。
光る君は、その訴えから目を逸らすこともできず、藤壺の宮の濡れた耳元に顔を寄せ、罪深い言葉を囁きます。
「こんなにも……肌を震わせて……
宮もまた、俺を求めているのでしょう」
「あっ……あぁっ……そんな……こと……」
首を振る藤壺の宮の声音は弱々しいのに、その身体は本能のままに光る君の手を追ってしまう。
逃れようとしながら、なお惹かれてしまう矛盾と苦悩が、
薄闇の中で彼女の裾をかすかに震わせました。
光る君は、藤壺の宮の熱へそっと触れるだけで、胸奥が灼けるほど痛みました。
そこは決して踏み込んではならぬ禁忌の領域であるのに、
震えた呼気が彼を誘惑し、罪の坂を転げ落ちるように、
さらなる深みへと心を導いてゆきます。
やがて光る君は、指先にまとわりつく熱を名残惜しそうに離し、
そのかわりに、藤壺の宮の震える身体そのものを、両腕で強く抱きしめました。
逃げ道をすべて断つように、その華奢な肩と背を抱き寄せると、
二人のあいだに残されていたわずかな距離は、息ひとつ分さえ残らず、埋め尽くされていきます。
藤壺の宮は苦痛とも快楽ともつかぬ感情に眉を寄せ、耐えるように唇を強く噛みしめました。
「くぅ……っ」
長く艶やかな黒髪が、水墨画の波のように畳に広がり、
沈香の煙に乱れて絡まるその髪を、光る君は愛おしむように指で梳きながら、藤壺の宮の耳朶へそっと唇を寄せます。
その瞬間、小さく身を捩り、初めて、理性ではなく心から、光る君の名を掠れた声で呼びました。
「君……」
その赦しを乞うような声に、光る君はすべてを忘れ、ただ胸の底から湧き上がる衝動に身を任せました。
また藤壺の宮は、首を振りながらも、魂の叫びのように、
より強く、より切実に、光る君を求めてしまうのです。
二人は誰にも聞かれぬよう声を殺し、重ねた身体の奥で響く鼓動を打ち合わせるたび、
汗と熱と沈香が濃密に混じり合い、肌が肌に吸い付くようでした。
光る君は、藤壺の宮の細い首筋に唇を滑らせ、その震えを追うように、
身体の至る所へとそっと口づけを散らします。
もう言葉にならないほどの甘い声が喉の奥から零れ、
藤壺の宮は光る君の名を何度も掠れた声で呼びました。
やがて二人の影は、重ねた衣の中でひとつの『形を成さぬ炎』のようにうねり、
肌と肌の境界は曖昧になり、沈香の薫りが二人の息を絡め取りました。
「……ああっ……」
その一言に、光る君はすべてを忘れました。
罪も、罰も、未来の破滅すらも。
藤壺の宮もまた、背を震わせながら光る君へと身を寄せ、
拒絶と渇望がひとつの波となり、ふたりを呑み込みます。
声を殺しながらも、息が触れ合うたびに熱が高まり、
藤壺の宮は光る君の肩に顔を埋め、震える涙をハラリと零します。
その涙を、光る君は祈るようにそっと唇で受け止めました。
そのたび、藤壺の宮の身体は月影のように細く震え、
張り詰めた糸が切れる寸前のように、気配が鋭く揺れました。
「もう……っ……だ、めえ……」
その囁きは、夜の底へ落ちる花弁のようにかすれ、
光る君はその苦しいほどの響きに胸を掴まれました。
「宮……どうか……俺を……」
やがて藤壺の宮の体は、光る君の腕の中で静かに強張り、
細く、深く震えながら、やっとの思いで呼吸を整えました。
光る君もまた、その震えに捕らえられるように、ただ彼女を抱きしめることしかできませんでした。
しばらく動くこともできず、
二人は汗と香と涙にまみれたまま、沈黙という罪の殻に閉じ込められ、
禁忌の愛を抱き合っておりました。
やがて東の空が白みはじめた頃、
藤壺の宮は静かに光る君の胸から離れ、震える指で乱れた髪を押さえました。
「……これきり……永遠に、これきりでございます……君」
その声は、哀しみの底で凍りついたように震えていました。
光る君は、己が犯した罪の深さに、言葉のひとかけらも見つけられません。
ただ、藤壺の宮の冷え始めた指先に、ひとつだけ口づけを落とし——
闇の中へ身を消すしかありませんでした。
残された藤壺の宮は、夜明けまで、乱れた衣のまま、香炉の煙を茫然と見つめ続けるだけ。
頬を伝う涙は、二度と止まることはありませんでした。
藤壺の宮との、ただ一度だけの禁忌の逢瀬——
それは、光る君の魂へ、永遠に消えない影となって刻まれた夜だったのです。
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