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源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第二帖 紅葉賀

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5/9

紅葉賀①

挿絵(By みてみん)

純粋で、剥き出しの怖れを告げたその一言に、光る君の胸は、

鉄の爪で強く掴まれたように締めつけられました。

それは、死の床で紫の上が『孤独は……これ以上なく』と告白した、あの痛ましい声と、あまりにも冷酷なほど似ていたからです。


守れなかった。

生涯、その悲痛な叫びに気づけなかった。

この幼い子の心の奥底に、時とともに降り積もっていく孤独という名の雪に——結局一度も触れてやれなかったのだ。


光る君は、自らの罪の重みを全身で受け止めるかのように、

静かに膝を折りました。


手を伸ばせば届く距離。

愛おしく、玻璃のように儚く、未来を変えうる唯一の存在が、

春の霞の中に立っています。


その声は驚くほど柔らかく、深く、春の庭へ吸いこまれるように落ちていきました。


「……もう、何も怖がらないで」

「……雀の子を……犬君が逃してしまったの。伏籠に入れていたのに……」


か細い声。

泣きそうな瞳。

それは残酷な未来へ向かう少女ではなく、ただ『ひとりが恐い』と震える幼い魂そのもの。


光る君は胸の奥底で、乾いた地面に水が沁みるように祈りが生まれるのを感じました。


「あなたを……二度とひとりにはしない。

あの暗く寂しい未来へ……決して向かわせはしないから」


少女はびくりと肩を揺らしながらも、おそるおそる顔を上げました。

その幼い唇の端に、花弁の蕾のような、ほころびかけた可憐な笑みが宿ります。


光る君は、そのわずかな微笑みに、胸を深く貫かれました。


ああ、この尊い子を守り通せるなら。

もう一度、すべてを賭けてやり直せるのなら。

いかなる運命でも、神仏の摂理でさえ、この手で変えてみせる——。


彼はそう誓わずにはいられませんでした。

彼女はまだ、自分が未来の夫であることを知らない。

そして彼は、彼女が辿る孤独な最期をすでに知っている。


誰にも頼れず、ただ独りで死んでいった夜を。

秘めた涙を飲み込み続けた永い時を。

そして最後の瞬間まで『ひとりはこわい』と震えた声を。


光る君は静かに、熱い涙をひと筋落とし、唇を震わせて言いました。


「……今度こそ、ただ貴女ひとりを……」


風が吹き、桜の花弁が歓喜の舞いのように空へ舞い上がります。

時を遡る世界は、一人の男の切実な愛と、未来への贖罪を背負い、静かに歩みを始めました。




「藤壺の宮様が、まもなく御所を離れ、御自邸へお下がりになられるようでございます」


その報告を受けた瞬間、光る君の胸の奥で、乾いた何かがかすかに軋みました。


あれほど永き歳月、ただひたすら焦がれつづけた御方。

瞼を閉じれば、衣に焚きしめられた甘やかな香の気配まで蘇り、祈っても祈っても収まらぬ想いは、荒れ狂う波濤となり、

燃え盛る炎となり、止めようとしても止まらぬ大河のように、

日ごと光る君の魂を呑みこんでいったものでした。


二度と会えぬかもしれぬ——

そんな焦燥に背を押され、神仏の咎と知りながら、禁断の愛として藤壺の宮を抱いてしまった、あの秘めたる夜。

あの瞬間の幸福は甘露にも等しく、けれどその後は、どれほど華やかな女たちと肌を重ねようとも、安らぎの影すら胸に射すことはありませんでした。


そして——

紫の上を孤独のうちに喪ったとき。

光る君は、あれこそが天より課された避けられぬ罰であった、

と悟ったのです。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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