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源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第一帖 若紫

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2/10

若紫②

秋の夜は、沈黙があまりにも深く、その静けさゆえに、かえって残忍でございました。

遠い野を渡る虫の声は、細く、細く、絶え入りそうに震え、

几帳の向こうの燭台の火は、風もないのに頼りなく揺れております。まるで、この世にしがみつく最後の命の灯のように。


光る君は、その弱々しい灯を見つめるたび、胸の内側で乾いた音が亀裂のように走るのを覚えました。

——この火がふっと消えるように、紫の上の命も、風ひとつでたおやかに散ってしまうのではないか。

それこそが、彼のもっとも深い恐れでございました。


横たわる紫の上は、透き通るような静寂のなかに身を沈め、

ただ目を閉じております。

その呼吸のかすかな震えでさえ、光る君の鋭い耳が辛うじて拾えるほど。

彼はおそるおそる指先を延ばし、忍びやかに触れました。

——その温もりは、露のようにゆっくりと失われ、握った指先からこぼれ落ちてゆく。


「紫……また、苦しい胸の内を、ひとりで抱えておりましたのですか……」


それは問いではなく、自らの不甲斐なさに向けた叫びでした。

彼は冷たくなりつつある彼女の手を取り、自らの額に押し当てます。

祈るように、赦しを乞うように、その細い手を必死に握りしめました。


紫の上は、微かに睫毛の縁を震わせ、宵闇へ溶けゆくような、消え入りそうな声で囁きます。


「……わたくし……強かったでしょうか……?」


光る君は息をすることさえ忘れました。

最後に彼女が求めたものは何だったのか。

耐え抜いた強さを褒めて欲しかったのか。

それとも、その裏に隠した弱さを、赦して欲しかったのか。

どちらも、彼は生あるあいだに与えられなかった——

その事実が胸を抉ります。


「強かったとも……。誰よりも気高く、美しく。

けれど……強さだけを支えに生きるのは、どれほど侘びしく、

孤独であっただろうか……」


悔恨に喉が詰まり、声は低く震えました。胸の奥が、何かに軋まされるように痛む。


紫の上は、途切れ途切れの、糸のように細い声で続けました。


「……孤独……でした……これ以上なく。

ずっと……ただ、ひとり……」


その声が紡がれるたび、光る君の心臓は無残に握り潰されるようでした。

——この、たおやかな人は、長い年月のあいだ、一度も自らの弱さを明かし、助けを求めることをしなかったのだ。

その哀しみに、どうして自分は気づけなかったのか。


闇は深まり、燭の火は泣くように揺れ続けておりました。


几帳の灯りの影が、無情にも揺れ動いておりました。

その淡い光のなかで、紫の上の艶やかな頬を、一筋の雫が静かに伝い落ちます。

それが、長く耐え忍んできた彼女自身の涙なのか、あるいは、

遅すぎる悔恨に打ちひしがれた光る君の涙の映りなのか、

もはや判然といたしません。


「……あなたの……真の御心の一番には……

ついに、なれませんでした。

それが、千々に乱れるほどに……苦しくて……苦しくて」


その言葉は、まるで鋭利な刃のように光る君の胸を深々と裂きました。


「紫……!そのような哀しいことを、言わないでくれ!」


声は震え、息は乱れ、抱き寄せた腕は壊れ物を扱うように細やかです。

しかし、その腕の中で紫の上の体は、真綿のように軽く、

そして夜の気配のように冷えてゆきます。


「もう……よろしいのでございます。

あなたの御心が……たとえどなたを向いていようとも……」

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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