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『星の下、隠されたもの』

占い小屋の扉が開いたのは、午後の陽が傾きはじめた頃だった。


「こんにちは。占い……できますか?」


現れたのは、少年だった。年の頃は十一、二。髪はぼさぼさで、服もややくたびれている。けれど、目はまっすぐだった。


「いらっしゃい。どうぞ、座って。名前を教えてくれる?」


「ライルです。えっと……家族のことを占ってほしくて」


リュミは頷き、魔道具《星霊盤》の準備を始めた。星霊盤は、対象者の運命だけでなく、周囲との“繋がり”にも反応する。家族について知りたいという依頼は珍しくないが、ライルのような年の少年が来るのは稀だった。


「最近、家の空気が変なんです。父さんは急に無口になったし、姉さんは毎日やけに元気なふりをしてるし……母さんも何か隠してる気がして。俺、何かあったのか知りたいんです」


リュミは静かに頷き、ライルの名を心の中で唱えながら星霊盤に手をかざした。


盤面に浮かぶのは、家族との“繋がり”を示す星の並び。


だが、光は乱れ、中央に“黒い点”が現れた。

それは――**「身近な者が重大な嘘をついている」**という印。


(これは……)


リュミはしばらく迷った。子どもに伝えるには重すぎる。けれど、ライルの目を見れば、逃げるわけにもいかなかった。


「……ライルくん。占いの結果をそのまま伝えるわね。あなたのとても近い人――おそらくご家族の誰かが、“大きな嘘”をついています」


ライルの瞳が揺れた。


「……嘘、ですか……」


「あなたを傷つけるためじゃない。その人はきっと、守ろうとしてる。けれど、そのままでは、誰も幸せになれない。そう……星は告げています」


しばしの沈黙の後、ライルは静かに立ち上がった。


「……わかりました。ちゃんと、話をしてみます。ありがとうございました」


リュミは見送った。背中は小さいけれど、どこか決意に満ちていた。



翌週。ライルは再びリュミの小屋を訪れた。

前よりも、少しだけ顔が大人びて見える。


「話、できました。嘘をついてたのは……姉さんでした」


リュミは静かにうなずいた。言葉を急かさず、待った。


「姉さん、ずっと体が弱くて、最近また調子が悪かったみたいです。でも、“私まで倒れたら、お父さんもお母さんももっと大変になる”って、黙ってたそうです。……ずるいですよね」


そう言いながら、ライルは少し笑った。目元には涙があった。


「それで、ちゃんと言いました。『俺にも頼ってほしい』って。そしたら姉さん、泣いて謝ってくれました」


リュミは、ふっと微笑んだ。


「よく頑張ったわね、ライルくん。占いを信じて、ちゃんと向き合った。それは、なかなかできることじゃないわ」


ライルは照れくさそうに頭をかいた。


「母さんにも言いました。家のこと、俺も手伝うって。……あの夜から、家の中が少し明るくなった気がするんです」


リュミはそっと、星霊盤を撫でた。

そこに今、濁った星の影はなかった。澄んだ光が、淡く輝いていた。


「……未来は変わるのね」


小さく呟くリュミに、ライルが問いかける。


「占いって、不思議ですね。星の光が本当に未来を教えてくれるなんて」


「未来は決まっているものじゃないの。星が教えてくれるのは“今”の在り方。そして、“今”が未来を変える鍵になる」


リュミは微笑み、魔道具の蓋を閉じた。


「あなたは自分で、未来を選んだのよ。立派だったわ」


ライルは、少し照れながら頷いた。


「じゃあ、次は“姉さんが元気になる未来”を信じてみます」


「きっと叶うわ。その想いがあれば」


少年は扉の外、穏やかな春の光のなかへ歩いていった。

その背中には、かすかな誇りと、希望の気配があった。



真実は、時に人を傷つける。

けれど、嘘のなかに埋もれた“想い”を掘り起こしたとき、

初めて人は、自分の人生を選び直すことができるのかもしれない。


今日も、星読みの小屋には光が灯る。

誰かの心が未来へとつながる、その一歩のために。


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