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剣の重さ、命の重さ

まだ夜が明けきらぬ早朝、リュミの小屋の戸が控えめに叩かれた。

こんな時間に珍しいと思いながら扉を開けると、そこに立っていたのは、年若い騎士団の制服に身を包んだ青年だった。


「……ここ、占いができるって聞いて」


その声は低く、震えていた。恐れでも、緊張でもない。

何かを――自分の中の何かを、必死に抑え込もうとしているような声音だった。


「はい、どうぞお入りください」


リュミは優しく答え、青年を招き入れる。まだ明かりを灯す前の小屋の中、外の薄明かりが星霊盤にぼんやりと反射していた。


青年は遠慮がちに腰を下ろし、戸口を振り返って一度深呼吸すると、ゆっくりと口を開いた。


「……俺、騎士団に入りました。新兵で、今度の遠征が初陣です」


リュミは頷き、言葉を遮らず聞き続ける。


「皆、剣を手入れしたり、笑って“俺の初手柄は誰だろうな”なんて言い合ってる。でも……俺だけ、夜になると、手が震えて、眠れなくなるんです」


青年は拳を強く握りしめ、うつむいた。


「人を……殺す覚悟が、あるのか、自分でも分からなくて」


リュミは静かに立ち上がり、棚の奥から香草を詰めた小さな瓶を取り出した。火にくべると、心を静める香りが部屋に広がる。


そして再び座り、彼の瞳を見つめた。


「……お名前は?」


「カリムです」


「カリムさん。では、星に尋ねてみましょう。あなたの内にある本当の“在り方”を」


彼が小さく頷くと、リュミは両手を星霊盤にかざし、星の道を読み始めた。

星霊盤は静かに輝きを帯び、その中央に浮かび上がったのは――一振りの剣。そして、その剣を地に突き立てて守るように立つ人影の姿。


リュミは確信するように言った。


「……星は“あなたが命を奪う者”ではなく、“守るために立つ者”と出ています」


「……守る?」


「はい。剣に重さを感じるのは、あなたがそれを“人を殺す道具”としてではなく、“命を守るもの”だと知っているから。

だから怖いのです。だから、震えるのです。

その震えは、弱さではありません。大切なものを、大切に思える人の強さです」


カリムの肩がかすかに揺れた。


「皆、平気そうにしてます。笑って、軽口を叩いて。……なのに俺だけ、怖くて」


「……彼らも同じですよ。ただ、それを口にする場所がないだけ。

あなたは、その怖さと向き合うだけの誠実さを持っている。

それこそが、真の“強さ”です」


言葉がしみ込むように、小屋の中に静寂が戻る。


カリムはしばらく目を閉じていたが、やがて、何かを決意するように顔を上げた。


「……ありがとうございます」


その表情は、最初に入ってきたときよりも、少しだけ落ち着いていた。


リュミは微笑み、棚から小さな布袋を取り出した。中には、ほんの一握りの星の砂が入っている。


「これを、お守りに。星霊盤の欠片から削ったものです。あなたの剣が、守るべきものを見失わないように」


カリムはその袋を、両手で大切そうに受け取った。


「……遠征から戻ったら、また来てもいいですか?」


「もちろん。どんな姿であっても、帰ってきたあなたを占いましょう」


小屋の扉を開け、朝日が差し込む。


カリムはその光の中に歩み出し、振り返ると、一礼した。


「俺、戦うためじゃなくて、守るために剣を持ちます。それを……忘れません」


その背中を見送ったあと、リュミはそっと目を閉じた。

彼が背負っている重さは、彼自身の命より重いものかもしれない。


でもその剣は、きっと“殺すため”ではなく、“生かすため”に振るわれるはず。


星霊盤の中心で、光がやわらかく揺れていた。


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