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あなたは、誰かの“希望”です

木の葉が色づき始めた、穏やかな秋の朝だった。

リュミの占い小屋に、ひとりの老人がやってきた。よれよれのコート、背中は丸まり、歩幅は小さい。けれど瞳だけは、不思議と澄んでいた。


「おう、嬢ちゃん。……ちょっと見てもらえんかね」


小屋の椅子に座った老人は、自嘲するように笑った。


「何を見ればいいのですか?」


リュミは問いかけながら、星霊盤に手を伸ばす。老人は少し黙ったあと、ぽつりと口を開いた。


「……わしが、まだ生きとる意味があるかどうか、だよ」


リュミの手が止まった。


「娘もとっくに独立しとるし、昔の仲間も、皆もうあっち側さ。わしひとり、こうして生きとっても、何にもならんのじゃよ。誰かに必要とされてる気もせん」


その言葉は静かだったが、根深い影を引いていた。


リュミは迷いながらも、星霊盤を展開した。青白い光がくるくると回転し、静かにひとつの“兆し”を示す。


「……“あなたは、誰かの支えとなっている”」


その言葉を聞いて、老人はふっと吹き出した。


「……まさか。支えられてばかりで、誰かを支えた記憶なんぞ、最近じゃまったく無いわ」


けれど、星霊盤は確かにそう告げていた。


リュミは、少し迷ったあとに静かに言った。


「……あなたが気づいていないだけかもしれません。“希望”というのは、時にとても小さな形で誰かの心に灯るものですから」


老人はふと、何かを思い出すように遠くを見た。


「……そうかのう」


それだけ言って、老人は礼を言い、小屋を去っていった。


その数日後、リュミのもとにひとりの少年がやってきた。まだ幼いその顔には、ある種の真剣さがあった。


「こんにちは! あの……お願いがあるんだ!」


少年は小さな紙包みを差し出した。


「これ、おじいちゃんに届けてほしくて……よく市場のはずれのベンチにいるおじいちゃん。リュミさんの小屋から出てくるの見たから、知ってるかと思って!」


包みの中には、クッキーと、拙い字で書かれた手紙が入っていた。


『おじいちゃんへ

この前話してくれた戦争の話、すごかった! 

おじいちゃんがいたから、今の町があるって気がしたよ。

また会いに行きます。ありがとう!』


リュミは少年の頭をそっと撫で、微笑んだ。


「わたしの方から、必ず渡しておきますね」


その夕方、老人はいつものように市場の隅のベンチに座っていた。日が傾き、薄いオレンジが町を包んでいる。


「こんにちは」


リュミが現れると、老人は少し驚いた顔をした。


「なんじゃ、また何か占うんか?」


「いえ、今日はこれを届けにきました」


手紙とクッキーを差し出すと、老人はまじまじとそれを見つめた。震える手で手紙を開く。


読んだ瞬間、しわだらけの頬がわずかに動いた。

それから、長い沈黙のあと、小さく笑った。


「……そうじゃ。あの子、よく声かけてきたんじゃよ。わしの昔話を、目を輝かせて聞いてなあ……。まさか、そんなふうに思っとったとは」


彼の瞳に、淡い光が戻っていた。


リュミは静かに言った。


「あなたの言葉が、誰かの未来に火を灯していたんです。小さなことかもしれません。でも、それは確かに“支え”でした」


老人は頷いた。そして、空を見上げる。


「……わしも、誰かの“星”になれたのかのう」


「ええ。きっと、なれたと思います」


その日以来、老人はベンチにいる時間が増えた。子どもたちに昔の話をし、通りすがりの人にも声をかける。小さなことでも、誰かが笑えば、それが生きる意味になるのだと知ったのだ。


リュミの小屋の扉には、新しい木札が下げられた。


「あなたが思うより、あなたは誰かにとって大きな存在かもしれません」


誰かの人生に、たったひとことでも影響を与える力がある。

それが“希望”という名の、小さな光なのだ。


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