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07 距離感

「……ん? クロード。こちらのご令嬢(レディ)は?」


「シュゼットだ。シュゼット。こちらは、翼猫のギャビン。俺が勇者としての役目を与えられた時に、勇者を導く案内人として選ばれた魔獣」


「はっ……はじめまして。シュゼット・フィニアンです……」


 クロードから紹介を受けた私は、条件反射で挨拶して自己紹介をした。


 ギャビンは私をまじまじと見て、綺麗な青色をした目を見開き、器用に頭を下げた。


「僕はギャビンです。勇者パーティを迷わぬように導く役目を持つ。それは、代々違う魔獣が順繰りに選ばれるのですが、今回は翼猫の番で、その中で一番に優秀な僕が選ばれたんです」


 柔らかそうな毛がふわふわな胸を反らした誇らしげにギャビンに、クロードは胡乱げな眼差しで見つめた。


「いや……だから、何の用? 俺は勇者として魔王を打ち倒し、すべての役目を終えただろう」


 嫌そうな表情のクロードに、ギャビンは器用に肩を竦めた。


「何を言うんです。クロード。勇者たる者、民が助けを求めれば、応えるべきだと思いますよ」


「いや……知らない。確かに勇者の剣を抜いてしまったのは、一生の不覚だが、まさか自分が勇者に選ばれてるなんて、思わなかった。最終目的である魔王を倒すまでやり遂げたんだから、その後は放っておいてくれよ」


 クロードはうんざりした口調で言い、柔らかそうな腕を組んでいたギャビンは小さく息をついた。


「まあまあ、少しだけで良いから話を聞いて下さい。僕は別にクロードと、口喧嘩したい訳ではないです」


「わかった……今は邪魔だから、俺の船室にでも待機していてくれ。話だけは聞いてやる」


 その後、クロードが投げやりに部屋番号を告げると、ギャビンは黙ったまま大人しく、上に向かって飛び、天井をすり抜けて行ってしまった。


「翼猫……? 猫に翼がある魔獣なんて居るのね。凄いわ……天井を通り抜けて行ってしまった」


 私が感心して呟くと、クロードは目を細めて頷いた。


「ああ。あれは、翼猫の能力で……いや、それは良いんだ。やっぱりシュゼットは、育ちが違うね。いきなり空飛ぶ猫が室内に飛び込んできても、とりあえず挨拶はするし……生まれや育ちは、どうしても隠せないね」


 クロードが何故か嬉しそうに言ったので、私は不意に痛みを感じた胸に両手を当てて首を横に振った。


「私はもう、貴族令嬢ではないもの……ただの平民よ。皆と一緒だわ」


「……何を言っているの。シュゼットは、他とは違うよ。全然違う。特別な女の子だ」


 再会したクロードはやけに、私を特別視する。


 私が昔、彼にさせてしまったあの約束のせいだと思うけれど。


 これだって、ただの事実……私はもう、貴族ではない。


 お金がなくなり家が没落してしまって、何も持っていない平民の一人。


「同じよ。今はあの頃に持っていたものを、何も持っていないわ。貴族の身分も……何もかも」


 私が顔を上げた、その時の……クロードの表情。


 これまで彼は何を言っても余裕綽々な顔をしていたはずなのに、やけに悲しそうに見えた。


 何なのかしら……どうして、そんなに悲しそうなの。


 私がここでこうして居ることは、クロードのせいでも、なんでもないのに……。



◇◆◇



 翌日、私は体調を崩してしまって寝込んでしまった。


 クロードと再会した昨日には、あまりにも色々なことがあったせいかもれない。


 大型魔物が襲い掛かり、海の藻屑になりそうなところをすんでのところで回避出来たもの。いわば死の危険を免れたばかりで、なかなか


 船室の扉をノックした音が聞こえたので、私はのろのろとした動きで扉を開けた。


「……はい?」


「あ。ごめん。ロビーのどこにも居ないから……どうしたの。シュゼット。具合でも悪いの?」


 そこに居たのは、再会したばかりの幼馴染みクロードだった。ううん。今は世界を救った勇者様だった。


 私は日中はロビーで空を見て過ごすことが多いと言ってあったけれど、今日は居なかったからここまで来てくれたみたい。


「そうなの。なんだか、お腹の調子も悪くて……多分、昨日大きく驚き過ぎたからだと思う。魔物に生まれて初めて襲われて、何年も会っていなかった幼馴染みに再会したから」


 私がお腹を撫でつつそう言うと、クロードは慌てた様子で言った。


「うわ。それって、完全に俺のせいだな。ちょっと待ってて。消化に良さそうなものを作ってもらってくるから」


 私が返事をしない内に、クロードは廊下を走って行ってしまった。


 俺のせいって……変なの。魔物からこの飛空挺を救ってくれたのはクロードなのに。


「……お待たせ」


 私はベッドに戻って横になっていたら、クロードはついさっきの言葉通り消化に良さそうな温かなスープを持って来てくれた。


「ありがとう……クロード」


「熱は?」


 クロードは不意に私の額に大きな手で触れて、私の胸はドキッと大きく高鳴った。


 彼はもう立派な成人男性なのに、家族のように近い距離感は幼馴染みのままだ。


 別に……嫌ではないけれど、刺激が強過ぎるわ。


「だっ……大丈夫!」


「そう? 心配だからそこの椅子に座ってて良い?」


 クロードが指さした椅子は備え付けの物なのだけれど、単にないと便利だろうと必要があって置いてある程度で、実用性はあるけれど快適性はまったくない。


「私の船室、狭いのに! 大丈夫だよ……気にしないで」


「いや、俺が……シュゼットを驚かせたせいだから。うん。責任を感じているだけ。だから、早く良くなってよ」


 クロードはにっこり微笑んで、私は幼い頃と変わらない笑顔をを見て胸がドキドキした。


 ……そうだった。小さな頃も私が風邪を引いたら、こんな風に出来るだけ傍に一緒に居てくれたっけ……。

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