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04 微妙な時期

「ああ……シュゼット。とりあえず……久しぶりに会った俺たちには、積もる話も多いから、とりあえず場所を変えようか」


 近づいたクロードの大きな手で、さりげなく背中を押されて、私は同意し頷いた。大人の男性らしい、こういう時に気遣いのある最適な対応。


 それに、優しいところは、今も変わらない。


「ありがとう。クロード」


「そろそろ晩御飯の時間だし……一緒にご飯でも食べよう。シュゼット。だが、君の服に合わせてレストランを選ぶと、俺は部屋にジャケットを取りに帰らなければならない。そこの大衆向けには見せつつ、値段がとても高級な酒場……であれば、すぐに入れると思うがどちらが良い?」


 レストランには明確な服装規定(ドレスコード)が存在しているから、クロードは身軽な服装を一度着替えねばならないと伝えた。


 その間、私を待たせてしまうことになるから、先んじて気を使ってくれたのだろう。


「高級酒場で、構わないわ。私は一人旅だから、そういう場所に行ったことなくて……いつか行ってみたいとは思って居たの」


 酔っ払いが集まる場所に女一人で行くことが、いくら治安が良いとは言え、どれだけ危険なのかは皆知るところだろう。


「そういう話も、ゆっくり聞くよ。それでは、店へと入ろう」


 そんな訳で、久しぶりに会った私と勇者クロードは、飛空艇の中にある店の暖簾をくぐった。


 私たちは可愛いらしい白いエプロンを付けたウェイトレスに案内されて、酒場のテーブル席へと着いた。


 来た時からクロードをチラチラ見て彼が気になっている彼女は、私たちがメニュー表を開き注文を終えて、去り際に勇気を振り絞ったかのように質問をした。


「あのっ……もしかして、お二人は恋人同士ですか?」


「はい。そうです」


 にこやかに答えたクロードに、私は慌てて手を横に振った。


「……違います!」


「そうだろう?」


「違うでしょう。嘘言わないで」


 私たち二人は双方共に見つめ合い、その場には微妙な間が空いた。


「あっ……そういう、そういう感じなんですね。なんだか、失礼しましたー!!」


 ここでクロードが独身で誰とも付き合っていない自由の身だと知れば、連絡先でも渡そうと思っていただろうウェイトレスの女の子は、脱兎のごとく逃げ出してしまった。


 確かにさっき再会したばかりで、男女二人ではあるものの、私たちには恋人というには距離がある。


 彼女の質問からの私たち二人の会話で、付き合う一歩手前の、微妙な時期に余計なことをしたと勘違いしたのかもしれない。


 私たちは久しぶりに会っただけの、ただの幼馴染でしかないのというのに。


「……どうして、あんな嘘ついたの?」


 上目遣いで睨んだ私に、クロードは苦笑いした。


「あの店員は、俺が勇者だと知ったから、声を掛けようとしただけ。現に昨日ここに来た時には、何も聞かれていない」


 なんでわざわざそれを? ……クロードを気になっていたけど、今日まで声を掛けられなかった可能性だってあるのに。


 しかも、こういう状況には完全に慣れているクロードに、なんだか面白くない気持ちになりながら、私は目の前に置かれた冷たい水を飲んだ。


 流石にあの後再度やりとりするのは恥ずかしかったのか、先ほどとは違うウェイトレスが来て、美味しそうな食事を私たちの前へと並べた。


「……そういえば、飛空艇を運営する会社は、クロードが飛空艇に乗っていることに知っていたのかしら?」


「新聞で見た同姓同名の記載が乗船名簿にあったから、一か八かで勇者を放送で呼び出したみたいだよ」


「……そうなのね。この飛空艇に乗っている全員が、生きるか死ぬかの瀬戸際だったもの。偶然だけれど、クロードが乗っていてくれて良かったわ」


 謎の呼び出し放送が、何故ああなってしまったのかを理解できて、私はほっと息をついた。


「……うん。さっき俺は船室でのんびり昼寝してて、魔物の接近にまだ気が付かなかったから、呼び出して貰って良かったよ」


 もし、あの魔物を退治出来るクロードが乗っていると運営会社が確実にわかっていたとしても、彼があの時に部屋に居るか何をしているかはわからない。


 だから、あんな船内放送で呼び出すしかなかったんだ……。


「私はロビーでお茶を飲んでいたけど、魔物がこちらへ向かって来るのが見えて……とっても怖かったわ。けど、クロードは本当に強くて、魔物を倒してしまうのはすぐだったわね。すっごく頼もしかったわ」


 クロードは船員以外立ち入り出来ない甲板から、遠距離攻撃を使って魔物を倒していた。


 その場で彼の活躍の目撃者となった私も、勇者の華麗なる戦いぶりを、皆に伝えなくては……。


「運営会社に乗船名簿を見せてもらって……ついでに知り合いが居ないかを、確認させてもらったんだけど……シュゼットの名前は、乗船名簿になかったね。どうして、偽名を使っているの?」


 ああ……そういえば、クロードは実名で登録しているはずだから、だから飛空挺の乗組員たちは『勇者が乗っているかもしれない』と思ったのね。


 クロードの言う通り、今の私は『シュゼット・フィニアン』ではなく『リズ・キングレー』ということになっている。


 私のここでの仕事内容を彼に深く話すつもりはなかったけれど……これは仕方ないわ。

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