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03 再会

 名乗り出てくれた勇者様は、短時間の鮮やかな戦い振りで、なんなく鳥型の大型魔物を海へと沈めた。


 私はただ、それを安全な窓の内側から見ていただけで、勇者たる彼が何をしたか理解出来なかった。けど、空から十字の白い光が走り、魔物はそれに当たり落ちて行った。


 船外の甲板に出て戦闘していた勇者は、乗客たちの歓声に迎え入れられ、感謝を込めて大きな拍手喝采を受けていた。


 私は久しぶりのあまりの懐かしさから、彼に話しかけようと思ったけれど、今は止めておこう……クロードはいま運営会社側の人と、何か真剣な話をしているようだから。


 魔物退治はあちらから呼び出しで仕事になった訳だから、この戦いの報酬について話しているのかもしれない。


 呼びだしておいて無料で人助けしろなんて、虫が良すぎるものね。


 けれど……こうして見てみると、今の私たちは、あまりにも身分が違い過ぎる。


 成長して大人っぽい姿を見せる勇者クロード・レムシャイトは、私が以前住んでいた邸の使用人の息子。


 幼馴染で一つ年下のとっても可愛い男の子だった。


 クロードのことは可愛くてお気に入りで、私はどちらの両親に困った顔をされても、どこに行くにも一緒で連れ回した記憶はある。


 今思うと典型的でわがままな、貴族の娘だった。


 けれど、そんな私の要求にクロードはいつもにこにこ笑顔を浮かべ、聞いてくれていたような気がする。


 あの頃、男女の違いなんてわからないほどに、私たちはいたいけな子どもだった。


 今の私たちは立場が、逆になってしまった。何でも持っている側と、何も持ってない側。真逆の立場。


 私側にはいろいろとやんごとない事情があったけれど、幼馴染みのクロードが、あんな風に立派になってくれて、それ自体はすごく嬉しい!


 幼いクロードは、まるで天使のように可愛かったけど、今は本当に格好良くて背が高くて……まるで、芸術的な絵画から抜け出たような高貴さを持つ美形の男性になっていた。


 黒い髪は短く整えられ、その瞳は、まるで窓に映る空の抜けるような青。


 私はいかにも冒険者といった出で立ちの彼を見て、大きくなって……立派になって……と、久しぶりに親戚の子を見たような、しんみりした気分になってしまう。


 小さな天使クロードが、成長して素敵な男性になっているという、時間の流れにだって感慨深く思った。


 この私にだって、色々あったもの……クロードにだって、色々あったことは想像に(かた)くない。


 ……なにせ、彼は世界を救った勇者様だもの。


 勇者パーティが一年ほど前に魔王を倒し、世界を救ってくれたというニュースは、全世界を駆け抜けた一大ニュースだった。


 私は新聞で勇者の名前を見た時、同じ名前だわ程度には思ったかもしれない。慣例で写真も掲載されていたはずだけれど、私はそれを見ることもしなかった。


 生きるために忙しい毎日をこなすだけで精一杯で、勇者の名前を見て、それを思ったこともすぐに忘れてしまっていた。


 今、こうして彼の姿を目にすると間違いなく……私の幼馴染の……あのクロードで、間違いないわ。


「……クロード!」


 運営側と話し終えて歩きながら何かを考えていた彼に向かって、私は手を振った。そうするとクロードは、とても驚いたのか、口を片手で覆って目を見開いて動きを止めた。


 それもそのはず……私たち、十年以上会っていなかった。クロードがそれほどまでに驚いてしまうのも無理はない。


 待っている間に心の準備を先に済ませていた私が彼に近づいて、気がついていますかと言わんばかりに目の前で手を振って笑うと、何も言えなくなっていたクロードはようやく言葉を口にした。


「あ……ごめん。驚いて、すぐに反応出来なかった。こんな所に、居たんだ。シュゼット」


「そうよ! クロード。久しぶり。本当に、大きくなっていて……驚いたわ!」


 こうして近い距離まで近づいて見ると、本当に背が高い。子どもだった頃には信じられないくらいに成長している。


 クロードは私よりも頭二個分ほどは、背が高いだろうか。


 まじまじと見れば顔は整っていて、本当に美形……昔は天使のように可愛かったのに。すごく素敵……私は懐かしさのあまりじっと見ていると、クロードは照れたように微笑んだ。


「いや、見過ぎだろ……それはこっちの台詞。シュゼットがとても綺麗になっていて、自分の目を疑った……ごめん。なんだか、何も言えなくなって」


 何年か振りに会ったクロードから外見を褒めてもらった私は、嬉しいような悲しいような、なんだか複雑な気分になった。


 こんな風に格好良くなった幼馴染みに褒められることは、思わず胸が高鳴ってしまうくらいにすごく嬉しい。けれど、そういう褒め言葉が、やけに上手いように思えた。


 だって、それって……私以外の女の子を褒め慣れているってことでしょう。


 クロードはこうして見ると、驚くほどに格好良くなっているし……それに対し何かを言えるほど、私たち二人関係は深くないのだけど、何だかそんな彼の成長が複雑ではあった。


 私たち二人は、ここで偶然再会した……ただの、幼馴染という関係だけのはずだけど。


「あら……クロード。女性にお世辞も言えるようになったの? あの小さな天使だった頃の貴方を知っている身となると、なんだか複雑な気持ちになるわ……」


 幼馴染みの私でさえ彼の名前と髪、そして目の色を見て、クロードだと確信したくらいだ。


 丸い頬を持つ素晴らしく可愛い天使が、こんなにも立派な成人男性になってしまうなんて、誰も想像つかなかっただろう。


「……子ども扱いするのは、やめてくれ。確かに年下とは言え、シュゼットと俺は一つしか変わらない」


 拗ねたような口調で言ったクロードがまた可愛らしく思えて、私は微笑んだ。


「まあ。ごめんなさい。そうね。貴方ももう、十七歳なのね。名前は同じだったけど……私はあの世界救済の時に新聞を見ていなかったの。まさか、クロードが勇者様と関連していると思わなかったわ。とても、久しぶりね。ちゃんとした別れも言えなくて……」


「うん。別れの時、俺たちは……子どもだったから。君も幼かった。無理もない」


「そうね。今思うと、十年以上前だものっ……っ」


 私は彼と別れてからの自分のこれまでを思い出すと、込み上げてくるものがあって言葉を詰まらせてしまった。


 ……いけない。ここで無関係の彼に同情を買うつもりなんて、全くないのに。


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