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27 宝石

 色々と落ち着いた私たちは、一旦ノディウ王国へと帰国することにした。


 空飛ぶ飛空挺で、とんぼ返りだ。


 仕事としてローレンス侯爵に貰ったチケットは、色々あって乗り遅れたと理由を話せば次の便を取ってくれることとなった。


 クロードは『どう考えてもローレンス侯爵が怪しいから、シュゼットの部屋の荷物だけを持ってすぐに逃げよう』と言ったので、私も彼の言い分には同意した。


 私を誘拐した誰かは手紙に入っているものは、『宝石』と言っていた。


 実はノディウ王国の宝石は、質が高く世界でも有名で、欲しいと思う人は多い。


 けれど、出来れば貴重な宝石は自国で流通して欲しいと何代か前の国王によって、輸出される際には、宝石そのものの価値の半額が関税として掛けられることになっている。


 そもそも高価な宝石にそれだけの関税が必要となると、それだけ多額の税収入があるということだ。


 ……私がローレンス侯爵から届けるようにと言付かる、あの固めの封筒には宝石が隠されていてもおかしくはない。


 やけに分厚いと思って居たけれど、大事な書類だから枚数も多いのだろうと思って居た。


 私はもしかしたら、宝石の密輸に、そうとは知らずに関わっていたのではないだろうか。


 ローレンス侯爵邸がやけに裕福な理由。それに、飛空挺は貴族や裕福な商人が多い。


 それに、貴族は特権として荷物検査免除なのだ。


 ……だから、私は『リズ・キングレー』という架空の貴族令嬢になりすまし、宝石を密輸していたということになる。


 それに、私は元々貴族令嬢でドレスだって着慣れていたし、自分で言うのもなんだけど礼儀作法だって出来ている。


 こうして荷物検査免除が出来る貴族令嬢になりすますのなら、もってこいの人物だったのかもしれない。


 ああ……すべてはこれで、筋が通ってしまった。


 ローレンス侯爵は、私をこのためにメイドとして雇った。たまに特別報酬のある仕事として『本当に頼みたい仕事』をさせる。


 だから、私は……あの時に、彼に拾われたのね……。


 けれど、ローレンス侯爵に拾われなければ堕ちるところまで堕ちていたか、死んでいたと思う。何も持たない一人の女の子が、何もなく生きて行けるほど、この世の中は甘くはない。


 利用されたとしても、救われたことは、間違いない。


 私はあれから知り得た情報から自分なりに考えた結果をクロードに報告すると、彼は大きく息をついた。


「……うん。まあ、そんなとこだと思う。もし万が一シュゼットが捕まったとしても、知らないで済ませるつもりだったんだろうな」


「そうよね」


 飛空挺のロビーの窓から見える雲海は、次々に流れていく。常に変化し続けるしかない、私たちの人生のようだった。


 出来れば、信じていたかった。私を救ってくれたローレンス侯爵を、良い人だと思ったままでいたかった。


 過去にした判断を、決して間違いにしたくはなくて。


「私は……これまでずっと、騙されていたのね」


 ぽつりと言った言葉に、クロードはなんとも言えない顔で頷いた。彼だって私を傷つけたくないはずだ。


 けれど、これは誤魔化しようもない真実だった。


「どうしたい? シュゼット。俺は君が知らずに犯罪に関与させられていたという事実は許し難いものではあるけれど、君の考えを支持するよ」


 これまでに、ローレンス侯爵邸でお世話になった人たちの顔が浮かんだ。彼らは何も知らずに働いているだけだ。私が何も出来ない新人だった時も、とても優しくしてくれて良くしてくれた。


 私がローレンス侯爵の犯罪を告発すれば、彼らの仕事を奪ってしまうことになる。


「……ノディウ王国を離れて、少し考えてみる。いきなり沢山のことが起こったから混乱してて、今の私は上手く判断が出来ないと思う」


 両親たちの話を聞いてしまった時だって、そうだった。


 衝撃的なことが起こって、衝動的に行動してしまったけれど……一人で暮らして働いて、今ならば両親たちの気持ちもわかる。


 お金がないと心にもないことを言って、関係を悪くしてしまうことは、誰にだってあると思う。


 だって、お金がないと食べ物も買えないし家も確保出来ない。何も出来ない。


 お金がない自分も嫌になって気持ちが暴れ出して、あんな酷い言葉を互いにぶつけてしまうことだってあるかもしれない。


「俺はさっき言った通り、シュゼットの言葉を支持するよ。確かにそうだ。あまりにも色々なことが起こりすぎた。今すぐには、未来後悔しない選択が出来るとは思えない……時間を置こう」


「うん……退職の届けは済んでいるから、荷物を持って、一度ノディウ王国を離れましょう。私が無事だとわかれば、ローレンス侯爵に何をされるかわからないもの」


 彼は私の言葉に頷いた。出来れば後任への引き継ぎもちゃんとしたかったけれど、これは非常事態だった。


 ……ローレンス侯爵を信じていた。私を救ってくれた人だったからだ。けれど、それは宝石の密輸を私にさせるためだっただけだ。今はそれがわかってしまった。


 私はあの彼のことを、一体、どうしたいんだろう。

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