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21 相談

 私はふと壁に貼っていた一年の暦を見て、そういえばと思い出した。


 あ。クロードの誕生日が、もうすぐだ……けど、本人は何も言わない。


 ……ううん。誕生日のお祝いなんて、本人から言い出すような話ではないものね。


 幼い頃のクロードのこと、学校に行って、その行事で勇者の剣を抜いてしまった。


 それからは冒険の旅に出ることになり、怒濤の毎日の中で、一年前に魔王打倒することが出来た……と。


 となると……自分の誕生日を祝うなんて、気にすることが出来なかったのではないかしら?


 そもそも、彼は誕生日を祝うこと自体忘れていそうだわ……。


 もし……私がお祝いしたら、喜んでくれるかしら?


「シュゼット」


「わ! 何? 何か用?」


 心配そうなクロードに不意に呼びかけられて、私は慌ててしまった。


「いや、そろそろ夕飯を食べないかと思って」


「あ……ごめんなさい。待たせてしまっていたのね」


 夕飯は既にテーブルの上に置かれているので、ただ私を待っていただけのようだった。


 クロードとは、まだギクシャクしている。ただ私が聞きたい事を、彼に聞けていないだけ。


 ただ好きなだという関係では、こんなに遠い場所にまで追い掛けて来るあの彼女の行動は、あまりにもおかしい。


 『私以外絶対好きにならないで』という約束を守り続けていると言っていたから、そんな訳ないって思っているけれど、もしかして、前に付き合っていたとか……?


「……そういえば、ギャビンって、今何処に居るの?」


「呼びましたか?」


 何気なく思った疑問を口にしたら、するりと紫の猫が机の下から頭を出して、私は息が止まるほどにとても驚いた。


 だって、そんな場所に居るなんて、全く思っていなかったもの!


「おい。すり抜けるなって……驚くだろう」


「僕は誇り高き翼猫ですよ。移動方法には口出しされたくありません。そこは、譲りません」


 機嫌が悪そうに眉を寄せたクロードと涼しけな表情を崩さないギャビンは、じっと睨み合っていた。


 関係性的にクロードの方が立場的に上かと思えば、どうやらそうでもないらしい。


 そういえば、クロードはパーティ全員追放したくらいなのに、案内人ギャビンだけはずっと一緒に居たのよね……。


「あ。ギャビンは、どうして追放されなかったの?」


 クロードは魔王を打ち倒す旅の中で、自分以外邪魔だと思うくらいだったのだ。案内人はそれほど重要な役割だったのだろうか。


「こいつが居ないと、次に何処に行けば良いかわからない。先んじて全部言えと言っても、翼猫の誇りにかけてそれは出来ないって言うんだ。仕方なかった」


「またまた~、何を言っているんです。クロード。僕が有能だったからでしょう? 僕の撒く魔法の粉は状態異常に陥らせることが出来ますし、力の弱い魔物であれば『翼猫の声(キリングボイス)』つまり、声を出すだけで一掃出来るんです。とても役に立つ存在だから、追放など出来るはずもありません」


「まあ……それは、確かに否定しないな」


 机に立っているギャビンは誇らしげにふわふわの胸に手を付き、クロードはなんとも言えない表情を見せていた。


 クロードがそう言うってことは、ギャビンって本当に凄い存在なのかもしれない。


「すごいわ。ギャビン。状態異常って、どんなことが出来るの?」


「眠らせたり毒状態にしたり、混乱させて行動不能にしたり出来るんです」


 興味津々で聞いた私に、ギャビンはピンと張った髭を伸ばしながら答えた。


「ギャビンは翼猫だから飛行出来るし、物体をすり抜けられる。だから、回避能力が異常に高いんだ。攻撃するには特殊な魔法を使うしかない」


 クロードは夕飯を食べながら、私の知りたいだろう情報を補足してくれた。


「そうそう。そう言うことなんです。シュゼット。つまり、激戦を重ねる勇者の傍に居ても、僕は邪魔をすることなく援護することも可能! どれだけ有能な案内人であるか、良くわかりますね」


「……自分でそれを言ったら、台無しだけどな」


 クロードはとても嫌そうな顔をして言い、ギャビンはそこで遠慮せずムッとした顔で睨んだので、長旅を共に過ごしていた二人の様子が垣間見れて、私はついつい微笑んだ。



◇◆◇



 大きな身体を持つクロードは私の部屋の浴室だと狭いと言うことで、就寝前に近くにある湯浴み施設へと行っている。


 だから、現在私と彼が明確に離れている時間はここしかない。


 仕事中も分身とか言う反則技で、仕事している私の事を見ているらしいし……クロードでないと通報するしかない行動だった。


「ねえ。ギャビン。居る?」


 私が何もいない空間に呼びかけると、紫の猫は思った通りにすぐに現れた。ただし、今回は窓をすり抜けたので、驚きはなかった。


「なんでしょう? シュゼット」


 ギャビンは不思議そうな表情で、首を傾げていた。ふわふわの猫がそういう仕草をするのはとても可愛い。


「あの、お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」


 そして、私はクロードに内緒で翼猫ギャビンと、とある相談をすることが出来た。


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