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02 呼び出し

 最初は、目をこらして見えたあの黒い点は何なのかしらと不思議だった。


 もしかしたら、昨夜遅くまで本を読んでいたから、私の目が疲れているせいかもしれないとも思った。


 ……けれど、それはすぐに間違いであるとわかった。


 黒い点と飛空挺。


 お互いにとても速い速度で近寄っているのか、どんどん黒い点は大きくなり、黒い点だったものの全体像が見えて来た。


 大きな翼を持つ、鳥の魔物。近付く巨体は、ともすればこの飛空挺と同じ大きさがあるのかもしれない。


 私がそれを魔物だと認識し、息をのんだ瞬間。


 飛空挺の中には甲高い警戒音が何度も響き渡り、呆然としている人々は、現在自分たちの身に何が起こっているのか、いまいち理解が出来ていないようだ。


 彼らと縁遠い生活をしていた私だって、空を飛ぶ魔物は居ることを知っている。これまでにも飛空挺に乗っている時に、遠目で飛行する魔物が見えたことはあった。


 けれど、こんなにも飛空挺を狙って来るかのような、攻撃性の高い魔物に遭遇したことなんてなかった。おそらくは魔物だとしても、こんな上空で戦闘したくはないからだと思う。


 飛空艇側も魔物へ向けて威嚇のために、何度か大砲を発射した。


 私は手を組んで白い煙の向こうへ、魔物が去って行くことを祈った。


 けれど、そちらの期待なんて知ったことかと言わんばかりに、危険な黒い影は迷いなく真っ直ぐと飛空挺へと近づいてくる。


 つまり、飛空挺は狙われているのだと、私たちは次第に理解することが出来た。


 ……え?


 嘘でしょう。まるで物語の中のように、現実感がなかった。


 けれど、これって……とてもまずい事態なのでは?


 だって!


 この飛空挺には、どこにも逃げ道なんてないのよ。


 緊急救命艇はあるはずだけど、あの速度であれば逃げる時間なんてあるはずない。乗り込んでいるうちに、すぐに魔物がやって来てしまうだろう。


 魔物に攻撃を受けて、飛空挺ごと落とされる……さっきまで優雅に空の旅を楽しんでいたというのに、これはとんでもないことになってしまった。


 砲撃などものともせずに迫って来る大型魔物に強い不安を感じたのは、当然だけれど、私一人だけではなかったらしい。


 そこら中から、恐怖を感じて高い悲鳴が巻き起こり、辺りは騒然とした。



――――その時、だった。



 ピンポンパンポンという間抜けな音の後に、とある人物へ向けて呼び出しがあった。


『ーーーーーお呼び出しを申し上げます。この中に、世界を救った勇者様はいらっしゃいませんか? いらっしゃいましたら、至急、名乗り出てくださいますよう、お願い申し上げますーーー繰り返しますーーー』


 何……え? 勇者様? あ。確か一年前に世界を救ったって言う、あの?


 新聞で確か話題になっていたけれど、あまり興味が無かったから、どんな人物であるかは詳しく知らない。


 ローレンス侯爵邸で共に働くメイドたちが、写真を見て勇者様が格好良いと騒いでいたけれど、私は興味が湧かなくてどんな人かも確認していない。


 そもそも、一介のメイドが会えるような人ではないからどんな人でも関係なかった。


 そんな人が……この飛空挺に、乗船しているというの?


 こんな呼び出しでなんて、まさか、名乗り出て来る訳がないわよね……?


 その後、私が耳を疑う放送内容は、三回ほど繰り返された。


 ロビーに居た多数の乗客はキョロキョロと周囲を見渡し、誰かが名乗り出て来るのかという期待感で満ちあふれていた。


 あんな良くわからない放送があるくらいなのだから、もしかしたら、呼びだした側にもなんらかの根拠があるのではないかと思うわよね。


 ……世界の何処かには勇者は存在しているだろうけれど、こんなにピンポイントに現れるなんて思えないもの。


 そうであって欲しい……どうか、現れて。


 ……だって、もしここで、空飛ぶ魔物に対抗出来るような勇者が居なかったとするでしょう。


 今にも迫り来る鳥型の大型魔物に、飛空挺は墜落させられてしまう。


 ここに乗っている私たちは全員、近い未来、死んでしまうことになるのよ……良くわからない呼び出しに期待を繋ぐしか、なかった。


 どうか、どうか、勇者様。もし居るなら、名乗り出て……と、私も胸の前で両手を組んで心から願った。


「……はい」


 緊張感に包まれたロビー中央、どこかから歩いてきた背の高い男性が、やる気のない声で返事をして軽く片手を挙げていた。


 私は彼の姿を見て、とても驚いた。


 勇者様、居たんだー! と、心の中で大きく叫んでしまうと同時に、今自分が目にしている光景がとても信じられない思いだった。


 この流れで世界を救った勇者が名乗り出てきてくれるなんて、にわかには信じられなかったし、彼が同じ飛空挺に一緒に乗っていたんだという事実も、本当に衝撃でしかなかった。


 そう。ここで何が一番に驚いたかと言うと、私には……名乗り出た勇者の顔に、とても見覚えがあったということ。

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