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19/30

19 考え事

 本当に……あの人って、一体誰なのかしら。


 私は高い足場台を使って、手には小さな箒を持ち、玄関ホールに飾られたシャンデリアの蜘蛛の巣を払っていた。


 最初は高い場所が苦手でおそるおそる作業していたものだけど、シャンデリアの清掃は掃除メイドの仕事だし、何度も何度もこなしたら段々と慣れて来た。


 別に怖くないという訳ではなくお金が潤沢にある邸のものなので、落ちないように安全装置はちゃんと付いているし、気を付けて作業すれば落ちることはないし安全だと気が付いたからだ。


 それに、私だってそこまで、運動神経が悪い訳ではない。


 昨夜見た光景が、目に焼き付いて離れない。とても綺麗な女性だった。すっかり大人っぽく成長したクロードの隣に居たら、よく似合いそう。


 それに、よくよく考えてみると『偶然見掛けたんだけど、あの時に一緒に居た女性って誰なの?』と聞くことが、別に私たちの関係を決めなければならないことのようには思えない。


 ……けど、どうしても私は彼を意識しすぎて、聞けなかった。


 私は、クロードのことが好き……なのよね。そうよ。初恋の人だからという話では終われない。でなければ、こんなに気になるなんて、あり得ないもの。


 無心になりパタパタと箒を動かして、私は蜘蛛の巣を払った。


 シャンデリアに飾られた硝子がちょうど良い距離感なのか、蜘蛛の巣が張ってしまうことは避けられない。


 定期的に掃除するしかないのだけど、蜘蛛の糸が粘着質なのでなかなか取れないのだ。


 布で綺麗に拭ければ良いのかもしれないけれど、遠目で見ればわからないので、こうして蜘蛛の糸を払うだけで良いことになっている。


 ……あの綺麗な女の人は、もしかしてクロードのことが……好きなのかしら……。


「っ……わっ」


 蜘蛛の糸を払うことに夢中になっていた私は、不意に足を前に動かしてしまいぐらりと身体が傾いだ。


 けれど、安全装置として腰には紐が巻いてあったので、大丈夫……な、はずだった!


 無情にも紐と足場台を繋いでいた金具が外れ、私はこのまま落下する! と目を閉じた。


「……シュゼット。大丈夫?」


 そこに私の身体を抱き止めてくれていたのは、真剣な表情を浮かべたクロードだった。


 わ……助かった。同じ邸の中で働いているものね……偶然私の近くにクロードが居てくれて助かった。


「あ……クロード。ありがとう……助けてくれて」


 もし、彼が居なかったら、私はそこそこの高さから無防備に落ちてしまうところだった。


 どうなっていたかを思えば、背筋がゾッとしてしまう。


「いや……あれは、金具が老朽化していたんだよ。執事にすぐに言って、新品に買い換えて貰った方が良い」


 クロードは真面目な顔でそう言い、抱き止めてくれた私を真っ直ぐ立たせた。そして、足場台を畳んで片付けようとしたので、すぐにどこかに行ってしまいそうだった。


「クロード! その、どうして、ここにいたの?」


 今にも執事へ抗議しに行きそうなクロードに、私はごく自然な質問をしたつもりだった。クロードは何かの用事で、玄関ホールに来ていたことは間違いないのだし。


「ごめん。シュゼットのことが心配で……隠れてずっと見ていた」


「え……?」


 彼の言いようがすぐには理解出来なくて、私は固まってしまった。


 何? 何って言ったの? 私のことを仕事中、ずーっと見て居るってこと?


「こわいわ……クロード」


 素直な気持ちが、口を突いて出て来てしまった。私のことをずっと好きなことも知っているし、私だって初恋の人だった。


 けど、仕事中の姿をずーっと見て居ると思えば、こう思ってしまうことも仕方ない。


「そう思われると思って、今まで言っていなかった。だって、何年も会っていないんだよ! 俺はいくらでも見ていたいよ」


「そうなの? 別に……それは、良いけど……」


 正直、少し怖くなってしまった私を見てここは一旦引くべきかと思ったのか、クロードは足場台を持って去って行った。


 クロード私のこと、仕事中もずっと見て居たってこと……?


 そういえば、任せられた執事見習いの仕事自体は、前に言っていた分身がやっているだろうし……クロードはもし、誰かに見られたとしても不審人物ではなくて、執事見習いが居る程度にしか見られない。


 だから、すぐにここへ職を求めたのね。私の傍に居ようと思ったら、そうするのが一番早いもの。


 私はとりあえず掃除道具を片付けようと、箒を持って外へ出ようとした。


 ここまでしてくれて……嬉しいか嬉しくないかで言えば、とても嬉しい……嬉しいけど、クロードは……。


 また考え事をしていたせいか、私は外に出るために小さな階段を踏み外した。


 そこへ、私の身体を支えてくれた太い腕。


 それが、誰のものかすぐにわかって、私は顔を上げた。


「危ない! シュゼット。何考えてるんだ?」


 足場台を届けて帰って来たクロードは、いつになく怒っているようだった。こんなに短時間で二度もこんな風に危険なことになっていたら、当然のことかもしれないけれど。


「あ……クロードのこと」


 その時、真剣な顔をしていたクロードの顔はみるみる赤くなった。


 わ、私も……思っていたこと、そのまま言ってしまった……恥ずかしい。


「えっ……ごめん。強く言いすぎた」


 顔を片手で覆ったクロードは、また私の持っていた箒を持って、掃除用具置き場へと向かっていた。


 そんな姿を見て思った。ここで……それを何処にしまうべきか、聞かなくてもちゃんとわかっているってことは、私のこと本当に良く見てくれていたんだ……。


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