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17/30

17 見知らぬ女性

「はーっ……元の生活に戻って来たのね……」


 私は帰宅した家の窓を開けて、二週間振りに元の生活に戻ったことをようやく実感した。


 久しぶりに復帰した掃除メイドの仕事は、ただ飛空挺に乗り隣国を往復して来る仕事に比べれば、常に時間に追われていて忙しなくて大変だ。


 大変だけれど仕事終わりの爽快な充足感は、この生活でしか得られないものだった。


「……シュゼット。こんばんは」


 不意にふわんっと燐光を放ち窓の外から現れたのは、翼を持つ猫……魔獣ギャビンだった。薄紫色の美しい毛並みは、ほのかに発光しているようだった。


 飛空挺の中では、初めて会った時以来は見て居なかったけれど、ギャビンはずっと私たちの近くに居たのかもしれない。


「あら。ギャビン。驚いたわ……クロードなら、今はここに居ないわよ」


 クロードは私を先に送ってから、分身の様子を見てくるとローレンス侯爵邸へ戻ったのだ。執事見習いの働きは深夜に及び、早朝から始まる。まだ働き出したばかりで要領を得ない頃合いには、階段下で眠っていることだってあるくらいだ。


「ええ。知っています。シュゼット。君はクロードの幼馴染みなんですよね……?」


「そうよ。ねえ……ギャビン。勇者が嘘をつけないって、本当なの?」


 別にクロードの話を疑っていた訳ではないけれど、第三者にこのことを聞いてみたかったのだ。


「本当ですよ。勇者として精霊の加護を得るためには、代償に差し出さねばならぬこともあります」


「そうなんだ……大変なのね」


 やはり、そうなんだ……私が『私以外絶対好きにならないで』という言葉に、了承してしまったから、クロードはそうするしかないのよね。


「シュゼット。君はクロードのことを良く知っていると思いますが、僕は彼にどうしても頼みたい願いがあるんです。どうか、協力していただけませんか」


 ギャビンは可愛い肉球の付いた柔らかそうな手を振って、どうにかならないかと言いたげだ。


「あら。知らなかったかしら。私たちは何年も会っていなかったのよ。この前に、本当に久しぶりに再会したの。クロードがあんな風に素敵に成長しているなんて、思ってもいなくて驚いたわ……」


「そうなのですか……僕から見れば、二人は随分と親しそうに見えたので……」


 ギャビンは私とクロードが、もっと親しい関係なのかと思って居たのかもしれない。


「再会してから、まだ数日しか経っていないのよ。ギャビン。私に手伝えることなら手伝おうと思うけれど、彼に何を頼むつもりなの?」


「いえ。僕は世界救済の時に案内人として選ばれました。それは、名誉なことです。僕は翼猫の中でもっとも優秀だと選ばれた、そういうことですから。そういった権威ある立場で、民を束ねる王より困りごとがあると頼まれれば、聞くしかありません」


「え? ……ええ。そうね」


 芝居がかった仕草のギャビンは、自分がどれほど困っているかを訴えたいようだ。


「クロードには、とある大臣の不正を暴くように、頼みたいのです。彼は勇者として様々な能力を発現させ、精霊だって使役出来ます。クロード・レムシャイトは世界最強の男と言っても過言ではありません。それを、世のため人のために、役立てて欲しいのです……!」


「それは……確かに、そうね」


 勇者として様々な能力を与えられているのだから、それを世の中のために役立てて欲しいというのは、当然のことなのかもしれない。


「シュゼット。僕は今夜もあいつに頼むつもりですけどね……また、何か良い方法があったら、教えて下さい。クロードを後世も伝説に残るような、良き勇者にしたいのです! 僕が彼の案内人になったからには……」


「ええ……何か思いついたら、貴方を呼ぶことにするわ」


 胸に手を当てて使命感いっぱいの目を向けたギャビンに、私は苦笑いするしかない。だって、クロードがやらないと言っているものを、どうにかさせる方法なんて思いつかないもの。


「あ。噂をすれば……ですね。僕はクロードを説得に行って来ます!」


 道にはクロードの姿が見えて、ギャビンは彼に向かって素早く舞い降りて行った。


 とは言っても、ギャビンの必死の訴えを一応は聞く姿勢を見せてはいるものの、うるさげに右手を振るクロードを見れば勝算は少なそうだわ……。


 案の定、ギャビンはしょんぼりして、力なく翼を動かして飛び去って行った。


 持つ者は持たざる者に施しを与えるべきだと、ギャビンが何を言いたいかはわかるけれど、何をするか何をしないかはクロード本人が選ぶことだものね……。


「……え?」


 ギャビンとは入れ替わりに、そこに現れたのは……フードを被った一人の女性。誰かしら?


 ひと目見れば目を引くほどに、とても美しい女性だった。遠慮がちにクロードに何かを話しているけれど、クロードは両腕を組んで仕方なさそうな表情を浮かべていた。


 一体、何の話を、しているんだろう……。


 いいえ……けど、クロード……私以外、好きにならないって言っていたわよね……?


 だから、彼女とそういう話をしている訳ではないって……ちゃんとわかっているけれど……。


 胸がざわざわする……クロードと彼女とは何もないって、頭では理解出来ているはずなのに。


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