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15 夕日

「ごめんごめん! あの時は少し酔ってたんだよ。もうしないって~!」


「もう。その言葉、何回目なの? いい加減にして」


 私が軽く睨みつけると、ドレイクは無視してにやにやしつつ手を振った。


 こうやって、自分の都合の悪いことは聞かない振りをする。いつもの事なので、私もふーっと息をついた。


 何を言っても無駄なことは、前々から知っているけれど……本当に嫌だわ。


「というか、あれからシュゼットの通信機、使えなくなっているけど……どうかした?」


 あれからドレイクが私へ通信して来ても、受信する側の通信機が壊れているのだから繋がるわけは無く、ずっと不思議に思っていたのかもしれない。


 けれど、あれは仕事の時に使う物で家に居る時に使うものではない。私用での使用は禁止はされていないけれど、私はドレイクからの通信には迷惑していた。


 仕事上で連絡を取り合うこともないのたもから、彼からの通信だけ拒否出来たら良いのに……。


「……壊れてしまったの。通信機は今は、修理に出しているから」


 壊してしまったクロードがお金を出してくれて、今は専門のお店で修理中だ。私も提示された修理代を見て目が飛び出そうになったけれど、クロードはまったく動じずにお金を払っていた。


「え? 何があったの?」


「貴方に関係ないでしょう。ドレイク。いい加減私のことは、放って置いてよ。付き合ったことがあるとは言え、もう別れているんだから」


 彼のことを拒否するために嫌な表情をしてそう言ったのに、ドレイクはにやにやしながら私により近付いた。


「シュゼット~。そんなに嫌がらないでよ。俺たちは一度は付き合った仲じゃないか」


「……付き合って三日で浮気する人なんて、絶対に嫌よ。復縁することなんて、あり得ないからね」


 ドレイクは自らの容姿が良いことを良く知っていて、私に顔を近づけて来た。


 自分のことを嫌がるはずないだろう? 俺のことを悪くは思わないだろう? と、そう言いたげなふてぶてしい表情。


 確かに外見が良い男性に、嫌な気持ちを持つ女性は少ないと思う。


 けれど、私は出会ったばかりの彼に抱いた淡い好意を台無しにされて以降、このドレイクに好意なんて示したことはないはず。


 いつも嫌悪感剥き出しにして対応して、出来るだけ関わらないように避けているというのに、まだ嫌がっているとわかってもらえない。


「またまた~、嫌よ嫌よも好きのうちって言うんだよ。シュゼットには、まだわからないと思うけどね」


 遠ざかる私の腕を親しげに触ろうとしたので、やんわりと押し戻した。


「……私の嫌は、本当の嫌よ。もういい加減にして、ドレイク」


 本当の拒否を言葉に込めて強めに言えば、ドレイクは急に態度を豹変させた。


「おい。少し優しくすればつけあがりやがって。俺が言い寄ってやっているんだから、抵抗せずに大人しく従えよ」


 ドレイクは私の手首を掴むと、ぎゅっと握った。


「っ……嫌! 痛い。止めてよ!」


 その瞬間、ドレイクの身体は吹っ飛んだ。


 そうとしか、言いようがない。だって、さっきまで私の腕を掴んでいたはずなのに、今は裏庭の向こう側までドレイクの身体は移動していた。


「シュゼット」


 いつの間にかすぐそこに居たのは、黒髪を上げて白いシャツを腕まくりしたクロードだった。陰り始めた赤い夕日の中に彼の姿があり、やけに良く見えてしまい思わず息をのんだ。


「クロード!」


「なんだよ! ……お前。一体、誰なんだ。俺のことを誰だと思って……」


 いきり立ったドレイクは泥まみれになって立ち上がり、寄り添った私とクロードを見比べていた。そして、クロードが自分をじっと睨みつけていることに気が付き、目を見開いて固まって居た。


「おい。そこのお前……これから、シュゼットに近付くな。嫌がられていると、わからないのか。次に彼女に近付けば、わかっているよな?」


「なっ……お前……今日入った新入りか? シュゼットと知り合いだったのか……」


 ドレイクはクロードに睨み付けられて、どうにか虚勢を張ろうにも声が震えてしまっていた。


 ……それはそうよ。大型魔物だって単体で倒せることの勇者に、戦闘の心得もなさそうな一介の従者が敵うはずなんてないもの。


 私は大きく、息を吐いた。


 さっき彼のしたことは許し難いしドレイクのことは好きではないけれど、勇者の怒りを買って亡くなれば悲しいし、クロードに殺人者になって欲しい訳ではないもの。


「ええ。彼とは実は、故郷が同じで幼馴染みなの……ねえ。ドレイク、そろそろ行った方が良くないかしら?」


 ただの従者ドレイクが浴びるには、勇者クロードが放つ覇気は、あまりにも強烈過ぎたらしい。


 ……というか、隣にいるクロードは殺気立って居て、ただの従者であるドレイクはいつ何があってもおかしくはないほどだった。


 とても恐ろしいことに、クロードは彼がそうしようと思えば、数秒かからずに出来てしまう。


「あっ……ああ。またな。シュゼット」


 クロードを殺人者にしてしまう訳にはいかないと、早くここから去った方が良くないかと助け船を出した私に、本能的に逆らってはいけない人物だと察したのか、顔を真っ青にしたドレイクは慌てて走って行った。


 本当にドレイクは見目と調子は良いけれど、それだけの男性だわ。


 もし、今ならば彼から『付き合おう』と告白されたら、ドレイクの本性を知る私は頷くはずなんてない。邸内でも何人か同時進行していて、修羅場になったことだってあった。


 あの人のために泣く泣く辞めざるをえなくなった女性だって、たくさんいるのだ。


 確かに私は働き始め、何もわからない頃に一度は付き合うことになったけれど、浮気をする男性なんて絶対に嫌だから、私があのドレイクを好きになるはずもない。


 けれど、そうだとしても二人で居るところを見てしまったせいか、クロードは見るからに不機嫌そうだ。


 そんな彼を見て、私の胸はひとりでに高鳴った。


 嬉しかった。そういう反応をするクロードは、私のことが好きなんだと思えて。


 他の男性と一緒に居るところを見られて嫉妬されて喜ぶなんて、それは、いけないことかもしれないけれど……。

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