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14 女の敵

「こちら、クロード・サイアーズだ。今日から、ローレンス侯爵邸で執事見習いとして務めてもらうことになった……挨拶を」


「今日からお世話になります。よろしくお願いします」


 長めの前髪を撫で付け白シャツ黒いトゥラウザーズを身につけたクロードが軽く頭を下げると、その場に居た女性の使用人たちが口々に小さく歓喜の声を上げた。


 いつものようにメイド服を着て後方で立っていた私はというと、どうして家で待っているはずの彼がここに居るかわからずに戸惑うしかない。


 ……クロードも掃除メイドの私と同じように、ここローレンス侯爵邸で働くの?


 この邸を一手に取り仕切る執事が解散を告げ、私はそれとなく新入り執事見習いクロードの近くへと寄った。


「あの……どういうこと?」


「俺もね。シュゼットの覚悟が決まるまでは、ちゃんと待とうとは思うんだけど、その間、どうせなら近くに居たいと思って、同じ職場に就職することにした」


 当然のことのように言われて、私は何も言えなくなった。


 ……それは、クロード自身の勝手ではあるけれど……彼は、一生働く必要のない人のはずなのに。


「紹介状は? 偽名で用意したの?」


 もし、貴族の家で使用人として雇われるためには、以前に働いていた邸の主人の紹介状を持って行くことが一番に確実だ。


 逆に言うと主人に逆らったり窃盗を働いたりで紹介状を貰えていなければ、次の就職が出来ない。


 だから、使用人たちは何かの理由で辞めたとしても、その時に、主人からの紹介状を得るためにも真面目に働くのだ。


「追放した一人の神官が、大貴族だから、書いてもらったんだ」


「勇者パーティーから……追放したのに? 紹介状を書いてもらったの?」


 クロードの言いようを聞いて、私は驚いてしまった。だって、パーティーから追放したのに、頼み事が出来るって、一体どういうことなの?


「俺が一人ですべて魔王を倒すっていう大仕事をこなしたってことだから、感謝しているメンバーも居るよ。その一人が、神官。たまに呼びだして、怪我を治してもらう。俺も回復魔法は使えるけど、あまり得意ではないから」


「たまに、呼びだして……怪我の回復をさせるの? それだけのために?」


 勇者クロードのあまりの傍若無人振りに、私はぽかんとしてしまった。


「そうだよ。野宿前提の長旅もしなくて良いし、たまに呼び出されて回復魔法掛ける程度、別に大したことないと思うけど」


「そっ……そうなんだ」


 呼び出して、たまに回復させるためだけの関係ですって……自分勝手過ぎるわ。


 全く想像つかないけれど、私も一緒に遊んで過ごして居た頃には、あんなに可愛くて優しい天使クロードだったのに……時は人を変えるんだわ。本当に残酷。


 私は掃除担当のメイドで持ち場に行かなければいけないので、これから執事見習いとして時を過ごすクロードに手を振って別れた。


「……見た? 今回雇われた執事見習い。背も高くて見栄えするし、素敵よねー!」


「本当よね。以前は、リベルカ王国の公爵の元で働いていたそうよ……どうして、そんな良い職場を辞めて、ノディウ王国に移り住んだのかしら」


「聞いてみたら?」


「嫌よ! 恥ずかしいもの」


 本日のローレンス侯爵邸は、雇われたばかりの執事見習いクロードの話が、そこかしこから聞こえて来た。


 女性に人気ある……そうね。あんなに素敵なんだから、当然のことなのだろうけれど……。


 なんだろう。胸のあたりがざわざわする……クロードが女の子にモテるなんて、幼い頃もそうだったのに。


 私は掃除に使った布を浸けた桶を持って、外に行くことにした。後はこの布を洗って外に干せば、今日の仕事は終わりだった。


 私は大きな槽の中に井戸から水をくみ上げて、洗剤を入れると汚れた布を浸した。


 肌が丈夫な方ではなくて、この洗剤は合わないのだけれど、自分の肌に合わないから洗剤を変えてくれなんて言えるような身分ではなかった。


 ……これも、お金を得るための仕事。たった一人で、生きていくために。


「シュゼット! おかえり。別の仕事は、どうだった?」


「ドレイク……夜中の通信は、もう止めて貰える? 深夜に起こされるのも、迷惑だわ」


 ドレイクは金髪碧眼の従者(ヴァレット)で主人の傍に居る事が仕事だ。見目も良く、口も上手い。メイドとして雇ってもらったばかりの私に言い寄って、付き合ったばかりなのに浮気した。そして、別れた。


 別れたのはもう一年以上前なのに、ああしてまだ連絡して来たりするのだ。距離の詰め方が上手いのだけれど、それは女の子を軽く見ているからと今では理解した。


 つまり、ドレイクはただの女の敵よ。



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