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13/30

13 一人だけ

 次の日。


 私とクロードはノディウ王国の王都で、観光をすることにした。


 ……今思うと観光なんて、する暇もお金もなかった。私は家出してこの国に来て、生きて行くために仕事をして必死だった。


 だから、なんだか目に入るもの全部が新鮮で……王都に住んでいないクロードよりも、よっぽど、ここに住んで居る私の方が観光客に見えるかもしれない。


「……そんなに可愛くて、大丈夫? 道行く人に、可愛いで目に暴力を振るってないか?」


 私はクロードの言葉を聞いて、はあっと大きくため息をついた。


 クロードが私のことを、好きで居る理由も知っている。嘘のつけない彼に、何も知らない私が約束させたから。


 ……けど、自分でも思う。鏡で見る私って、そう悪くはないと自分では思うけれど……クロードのような美男に両手を挙げて口説かれるような、世にも稀な美女……という訳ではないもの。


「ねえ。クロード。私の……どこが好きなの?」


 約束する前から、クロードは私のことを好きで居てくれたと思う。けれど、私はもう……あの時の私ではない。


 貴族令嬢でもないし、よく手入れされた髪も肌も持っていない。貴族の身分を捨てた、ただの平民の女の子。


 クロードは私の言葉を聞いて、じっと見つめた。


 底で光を放つような、不思議な青い瞳。吸い込まれるように視線を合わせた私に、クロードは顎に手を当てて答えた。


「……わからない。シュゼットのことは、可愛いから好きなのか、好きだから可愛いのか。はじまりは謎だけど、それを考え出したら、ずっとループするから永遠に終わらない。外見もだけど、中身も良い。真っ直ぐで可愛い性格も好きだと思う」


「そ……そう……」


 クロードの話を聞いて、正直、私の笑顔は引き攣っていると思う。


 何。この人……私のことが、好き過ぎて、少し怖い。


 クロードが好きで居てくれる理由はもちろん知っているし、どこに居るかわからなかった私を諦めなかった理由も納得は出来る。


 けれど、ここまでクロードが私を好きで居てくれるという事実が、なんだか受け止めきれない。


 現実感なんてまるでなく、彼の存在そのものが夢の中の出来事のように思えるのだ。


「あ。俺。服を買おうかな……季節的に、そろそろ暑くなって来たし」


 クロードは観光地ならではのお土産物になんて目もくれず、実用的なものを買いたいと言い出した。


「クロード。それでは、高級服屋にでも行く? 三本向こうの通りになるんだけど……」


 彼は勇者として世界救済について莫大な報酬を受け取ったと言われているし、そういう服が必要なのかと気を利かせればクロードは首を横に振った。


「いや、良いよ。古着屋で十分。俺だって時と場合は(わきま)えるけど、今買いたいのは普段着るものだから」


「あ……そうなの? そうね。古着屋に案内するわ」


 私は彼の希望に従って、貴族ではなく平民たちが利用する古着屋へと向かった。


 クロードは迷いなく飾り気のない黒い半袖のシャツを選んで、店員に渡していた。


「……シュゼット。良かったら、何か服を買わせてよ」


「え? けど……」


「これは、泊めてくれた宿賃だよ。それならば受け取れるだろう?」


 何もないのに受け取れないと言い掛けた私は、クロードの提案を聞いて思い直した。


 宿屋に泊まる宿泊費を浮かせて、私の部屋に泊まっていると考えると、クロードの言いようは確かにそうだった。


 私がお金を出して借りた部屋を、彼は使わせてもらったのだから、そのお金を払おうと言うのだ。


 それは、正当なる対価であると。


「……そっか。それは、確かにそうよね。受け取ろうかしら」


「うん。良かったら、どうぞ」


 久しぶりに好きな服が買えると私は嬉しくなって、店の中に並べられていた服をいくつか選んだ。


「……どれが良いと思う?」


「元々の素材が良すぎるから、何を着ても似合うから、可愛い」


「ちょっと……そういうのは、もう良いから」


 クロードに『可愛い』と言ってもらえることは、正直に言うと、とても嬉しい。


 けれど、複数の中からどれが自分に似合うかという、客観的な意見が欲しい時に求めているような言葉ではなかった。


「うーん。じゃあ、このドレスは?」


 私が選び出して着ていた服を完全無視して、クロードはとあるドレスを指さした。


 こんな古着屋には似つかわしくない、とても美しい丈の長い白いドレス。もしかしたら、没落した貴族から買い取ったものなのかもしれない。


 いいえ。それは、普段着るようなドレスでも、服でもなく……特別な、あの時にしか着ない服。


「ウェディングドレスなんて……! もう……! 着る訳ないでしょう」


「どうして? もうすぐ隣で着れば良いと思うけど」


 クロードはしれっと言い返し、私は半目になった。


「それ……みんなに言っているでしょ」


 だって、あまりに言い慣れている。おかしい……どうして、こんなに恥じらいもなく、そんな言葉が口から出て来るのか。


「俺が言うわけないよ。好きなのは、シュゼット一人だけだよ」


 クロードは肩を竦めると、私が選んだ服をすべて持って、さっさと会計してしまった。

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