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遅すぎるシリーズ

遅かった告白

作者: すみのもふ

 純のことを守ったのは保育園の時だった。いじめっ子たちにからかわれたり押されたりしていた。


 ほとんどの子は関わらないように見て見ぬふりをしていたけど、ヒーローアニメを観ていた私には見過ごせない出来事だった。


 カッコよくは登場できなかったけど、いじめっ子に立ちはだかった時はキマっていたと思う。純の目には私にマントがあり、旗めいていたように見えたのではないだろうか。



 そんな私も、純に守られたことがある。中学生の時だった。女子集団に絡まれてしまって大勢相手になにも出来なかった時に純が現れた。


 身長はそんなに変わらなかったけど、力では純が有利だった。すごんだ純に集団は散り散りになった。



 お互い助け合った私たちは言葉なしで心が通じていると思っていた。強い絆があると信じていた。だから、純とキスしたし、同じベッドで寝た。付き合ってると思ってた。




 だけど、高校に入学して一週間後、純が彼女と下校していくのを見た。彼女は今一番人気のある女子アナに似ていると言われている女子だった。


 ショックだった。私が彼女だと思ってたのに。涙は出なかった。何回星が昇っても、綺麗だなんて思えなかった。



 安西夢と安東純。出席番号が近かったし、妙字は一文字違い。運命だと思ったし、将来は一文字変わるだけだと思っていた。そんな妄想はなんも意味なかったけど。



 純と彼女は至る所で見かけた。下駄箱、渡り廊下、図書室、保健室、教室。その度に心を痛め、下を向いた。心のモヤが濃くなる。


 このままでは頭がおかしくなりそうだったので、気分転換に泣ける恋愛ドラマを観た。大量の涙が流れるとともに、純を好きだと気持ちも膨らんで破裂しそうになった。


 耐えられなくて、走り出した。純の元へ。一秒でも早く会いたくて。



 インターフォンを押した。何度も何度も押した。息を整えている間に扉は開かれることはなかった。帰ろうとして振り返ると、純がいた。


「何してんの?」

「あっ……と」

「入る?」

「いや、いいの。……純に伝えたいことがあって」

「……ふーん。なに?」

「うん。……あのね……」

「……」

「……」

「……」

「…………っ好きです!」


 心臓が激しく脈打つ。手に汗を握り、溜まった想いを吐き出した。


 声に驚いた鳥たちが飛び立つ。遠くの車の音が聞こえるほど、この辺りはしんとしていた。


「急だな」

「急なんかじゃないよ。中学生の頃からだもん」


 長い前髪から覗く純の目は影にのまれてよく見えない。言葉を選ぶように、ゆっくりと口が開かれた。


「…………遅いよ」

「え?」

「遅いよ」


 言葉の意味は分かるのに、純の言う「遅い」の意味が分からなかった。どこが遅かったのだろうか。なにか私は間違えていたのだろうか。


「俺も好きだったよ」

「……過去形?」

「過去形」

「…………そっか」

「……うん」


 車が横切った。車の煙で私が見えなくなってしまえばいいのに。煙のように、消えてなくなればいいのに。


 涙が溢れ落ちそうになるのを堪える。悲しさやら悔しさで唇を噛み締める。


「もうちょっと早ければ付き合えた?」


 笑ってみたけど、笑えてるかな。声が震えてるのは隠せない。


「そうかもね」

「そっか…………分かった」

「うん」


 瞼を閉じて、開いた。純を近くで見れるのはこれで最後かもしれないから、この光景を目に焼けつける。


 私の知らない純。私から離れようとする純。こんな純を見たくなかったな。


「彼女はどんな子なの?」

「好奇心旺盛でいろんなことを知ってる」

「へー。楽しいんだ?」

「楽しい」

「……仲良くね」

「うん」


 涙が見えないように背中を向けた。帰り道は暗く、長く感じる。


 これからは純が隣にいない人生を歩むことになるけど、どうなるのか不安だ。私は今まで通りに生きていけるのだろうか。純なしで生きていけるのだろうか。


 よくある漫画やドラマだったら新しい出会いが待ってるけど、人生はそう簡単にはいかない。災難が続いてしまうことも多々ある。


 今の私はコンパスなしで道を歩いてるのかもしれない。恐る恐る進むしかない。この先を信じるしかできない。



 これも私の物語。いつか、純以上にいい人と巡り合ってこんなことがあったって話せたらいいな。






おわり

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