妻が猿に見えた話③
「それじゃ!!!」
突然の声に、悠真と千鶴、そして少女が驚いて振り向く。
そこには、奥の席で立ちあがる老人の姿があった。派手なメガネがLEDで輝いて見える。
「いたのか……」
悠真が呆れたようにつぶやく。
千鶴はカウンター越しに肩をすくめた。
「常連さんだから」
「なんであんなに元気なんだろうな……」
悠真のツッコミを聞くまでもなく、老人は店から走り去って行った。
***
それから数日後……
喫茶「雪塚」に、妙な噂が流れ始めた。
「最近、この辺りで猿の亡霊が出るらしいぞ」
「夜な夜な、ウホウホ言いながら踊ってるらしい」
「えーっ!怖い!」
そんな話をしていたある日、悠真がいつものように店に入ると、千鶴が無言のまま、指をさした。
「……ん?」
悠真がその視線を追うと、そこには……
猿の全身タイツを着た老人が、堂々と座っていた。
「……」
「……」
「ウホッ」
「お前かよ!!!!」
悠真の叫びが、喫茶店に響き渡る。
「いや、なんで猿の全身タイツ着てんの!?」
「いやなに、ちょっと猿の気持ちを理解しようと思ってのぅ」
「やめろ!!人間の尊厳を取り戻せ!!!」
千鶴はため息をつきながら、注文を聞いた。
「……コーヒーでいいですか?」
「バナナジュースはないかの?」
「ないよ!!」
悠真が即座にツッコむ。
その横で、少女は微笑みながら小さく拍手した。
「爺さんが猿になった話、ですね」
いや、そのまんまじゃないか……
こうして街には、また新たな都市伝説が生まれたのであった。