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あたりくじ②

夜もすっかり更け、通りはさらに賑わいを増していた。提灯の明かりが揺れ、遠くからは盆踊りのような音楽が聞こえてくる。


屋台の列は途切れることがなかった。人気ゲーム機につられたのか、老若男女がくじを楽しみ、歓声やため息を上げては、それぞれの夜を楽しんでいる。


悠真は次々と来るお客さんをさばきながら、ちょっとした違和感を感じていた。


……また来た。


赤いキャップにTシャツ姿の少年。その隣には、丸いメガネをかけた少年と、少し背の高い少年。先ほど、くじを引いたはずの三人組が、またくじ引きの列に加わっている。


(さっきも来たよな、あの三人組……)


三人の小学生は、一人ずつくじを引くと、景品を受け取ってどこかに消える。そして、しばらくするとまた現れて、くじを引いて行く。それを繰り返して、すでに10回目……


(さすがにおかしいだろ……)


1回300円。それが10回で3千円。三人分なら、合計9千円。小学生の小遣いにしては、いくらなんでも額が大きすぎる。


悠真は、店番を他のバイトに任せると、屋台の裏に回って、そこにいた店長に声をかけた。ちなみにこの店長は、店には立たず、品出しの合間にブラブラと他の屋台を回っては、ビールを片手にくつろいでいる。


「店長、あの子たち、さっきから何回も来てるんですよね……」


「うん、どの子たち?」


店長はタオルで顔の汗を拭いながら、悠真の指さす方向を見た。


「……あいつらか」


店長の顔がスッと険しくなる。目を細めて何かを思案するようにしばらく黙った後、低い声で言った。


「悠真くん。その子たちから受け取ったお金は、他とは分けておいてくれるか?」


「えっ……は、はい。わかりましたけど」


理由を聞く間もなく、店長はそそくさと、どこかへ出掛けて行った。取り残された悠真は、仕方なく店番に戻る。


(店長は、何かを知ってる感じだったな……)


悠真の胸に、不穏な予感が広がる。三人組は、何食わぬ顔で他の客と同じように、くじ引きを楽しんでいるように見えた。


***


祭りの熱気とざわめきに包まれながら、悠真は先ほどから、三人の小学生の動きに意識を集中させていた。


(……やっぱりおかしい)


11回目の来店。最初は、祭りの軍資金をたっぷりともらった裕福な少年たちかと思った。しかし、怪しい点はそれだけではなかった。


最初に引いたときは、三人とも5等ばかりだった。スーパーボールや、光るブレスレット、よくある残念賞だ。それが、2回、3回と回数を重ねるごとに、じわじわと当たりのランクが上がってきているのだ。


「2等!大当たり~!」


悠真は大きく声を張り上げた。手元のベルをカランカランと鳴らすと、周囲から「おぉ!」とどよめきが起こった。少年の一人が、嬉しそうにぬいぐるみを抱える。


(……マジか)


二人目の少年がくじを引く。丸メガネの少年だ。無造作にくじを引き、こちらに渡す。


くじを確認した悠真は、思わず息を飲む。


「に、2等!またしても大当たり!!」


今度は騒然となる。人混みのあちこちから「連続で!?」「本当に当たってんの?」という声が飛び交う。


残るは三人目。


赤いキャップを被った少年だ。丸メガネの少年と同様、まるで当たりが分かっているかのようにくじを選び、こちらに差し出す。悠真は、くじを受け取った瞬間、一瞬ぞくりとした。


(冷たい……?)


少年の手は、周囲の熱気にも拘わらずひんやりとしていた。キャップの影で隠れていた少年の目と目が合う。こちらを見透かすような冷静な目だ。まるで、それは子どもとは思えないような……


「……!」


悠真はハッとし、くじに目を戻す。そして、ゆっくりと書かれた文字を確認する。


そこには、赤い文字で「1等」と書かれていた。


「い、1等……!で、出ました!!」


悠真の叫び声が響き、ベルの音がそれに続く。その様子を見ていた周囲の人々は一瞬沈黙し、その後、爆発したように歓声が上がった。


「マジかよ!」

「聞いた!?1等だって!!」

「ゲーム機だろ!?」


悠真は、何度もくじを確認してから、景品の棚を振り返る。高い位置にある箱を、手を伸ばして取り出した。ずっしりと重みのある箱を少年に手渡すと、微かに笑みを浮かべて走り去る。他の二人も、それに続いて笑いながら駆けていく。


残されたのは、祭りの喧騒と、人だかりのざわめき。そして、呆然と立ち尽くす悠真だけだった。

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