表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/53

妻が猿に見えた話①

いつものように、悠真は喫茶「雪塚」の扉を開けた。


「いらっしゃ……」


と千鶴が言いかけるよりも先に、店内から聞こえてきたのは少女のワクワクとした声だった。


「ねぇ千鶴、川越の昔話でね、”妻が猿に見えた話”って知ってる?」


「は?」


悠真は一瞬、入り口で固まった。


「え?何の話?」


「お、悠真さんも来ましたね!」


白い着物を着た少女は、嬉しそうに身を乗り出した。


「ちょうどいいところでした。今から妻が猿に見えた話をするので、悠真さんも聞いてください」


「いや、聞く前から意味不明なんだけど……」


千鶴はカウンターの向こうで苦笑しながら、コーヒーを淹れていた。


「まあまあ、落ち着いて。で、どんな話なの?」


少女は嬉しそうに語り始めた。


「むかし、川越に暮らすある男が、美しい妻を娶りました。しかし、ある日、ふと妻を見たら猿に見えたのです」


「いや、どういうこと?」


「男は驚いて、あちこちの寺や神社を巡り、ついには名高いお坊さんに相談しました。すると、お坊さんはこう言ったのです。”お前さんの妻は、猿に憑りつかれておるな”」


「サルに?」


悠真は思わず聞き入る。


「どうやら、男は前世で猿を殺していたらしく、その因果で妻が猿に見えるようになったらしいのです」


「サルがねぇ……」


いまいちピンと来なかった。


「で、その後どうなったの?」


千鶴が続きをうながす。


「お坊さんの指導のもと、男は懸命にお経を唱えたり、バナナを供えたりして善行を積み、ついに妻の顔が元に戻ったのです」


「え、解決するの!?」


「でも、これっとちょっと面白くないですか?昔話なのに、どこからバナナ出したの!?って」


少女はクスクス笑う。


「なんだ、作り話かよ」


悠真は、そう言いながら、バナナをお供えしているチョンマゲ姿の町人を想像して笑った。


「この間、観光客が話しているのを聞いたんです!適当過ぎて、ちょっと笑っちゃいました」


そういって、カップに入ったホットミルクを飲むと、少女はにっこりと笑った。


悠真も、同意した。


「だな。だって、本当は全然違う話だもんな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ