雨の日の訪問者③
「受験、大変だな?」
悠真は慎重に言葉を選びながら話しかけた。
「苦手な教科とかあったら、教えてやるよ。千鶴が」
「なんで私?」
千鶴が呆れたように言うが、悠真は気にせず続ける。
「ところでさ、雪って霊的なことに詳しいよな?」
この流れなら、自然に真相に近づけるはず——そう思ったが、雪は困ったような笑みを浮かべた。
「別に詳しくはないですよ。ただ、知ってるだけなんです」
知ってる?何を?どこで?
しかし、雪は話をそらすように、千鶴に向き直った。
「それよりも、花粉の季節が終わったら、また体験イベントに悠真さんを巻き込んでくださいね。もちろん、本人には内緒で……」
千鶴は、カウンターの向こうから笑顔で親指を立てた。
「って、本人ここにいるし!」
悠真はツッコミながら、慌てて話を元に戻そうとする。
「いやいやいや、ほら、でも雪って神出鬼没じゃん。やっぱり、霊的な力とかあるわけ? ほら、あの三芳野神社のときとか……」
「あー、あの悠真さんが大変なことになったときのことですね?」
雪がニヤリと笑う。
「大変なこと?」
千鶴が不思議そうに首をかしげる。
「え、いや、その……」
しまった。悠真は内心で焦った。あの三芳野神社での出来事——美少女に迫られたことなんて、千鶴には言えない。
「ねえねえ、何があったの?」
千鶴がじっと悠真を見つめる。
「話してもいいんですかー?」
雪が意地悪く問いかける。
「お前……!」
悠真は、心の中で叫んだ。
「ふふ、悠真さんって、本当に面白いですよね」
雪が楽しそうに笑う。
「あっ!なんですか、この"春の雪解け桜満開パフェ"って!?」
「ふふふ、雪ちゃん、これはぎゅうひで包んだアイスで春の雪解けを表現した新作でね…」
「や、ヤバすぎます!悠真さん、今度は桜満開パフェが怖い!!」
結局、悠真は「口止め料」として雪にスイーツを奢る羽目になった。しかも、雪のお願いで千鶴の分まで。
雪の正体はよく分からないまま、雨の夜は更けていくのだった……




