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閉ざされた雪塚⑥

「推理の続きをお話しましょう」


悠真は、喫茶店に戻ると、一同を振り返ってそう言った。


「北村さんは、犯人を待ちきれずにカレーライスを食べ始める。犯人は、店の入り口から出て裏口の方に回り、配管から出ているロープをゆるゆると引き上げる」


一同は黙って悠真の話を聞いている。


「北村さんはカレーに夢中だ。()()()()()()()()ロープの動きは気にしなかった。そして、犯人は北村さんの首に食い込んだロープをグッと引き上げる!」


悠真はグイっと、ロープを引く動作をする。


「北村さんの体は、その程度の力では持ち上がらない。だから、犯人はコンクリートブロックを複数結びつけることで持ち上げる力を増やそうとした」


その場にいた全員がゴクリと息を飲む。


「途中で、これはヤバイと北村さんが気が付いた頃には、ロープは首に締まっており、北村さんの巨漢が吊り上げられる。北村さんが息を引き取った頃合いで、ロープを離せば倒れた身体がつっかえとなって、ドアが開かなくなる!密室の完成だ!」


悠真はドヤ顔で言い放った。


「な、なんと…!」

「すごーい!」


サル爺やおばさまたちが関心している。


「えっ、でもさ」


千鶴がぽつりと口を開いた。


「首にしまったロープはどう回収したの?そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


しかし、今度は悠真は引き下がらなかった。


「首に締まったロープを外す方法なんていくらでもあると思うよ。手品みたいなものさ」


悠真は軽く言う。実際に、テレビでそんなシーンを見たことがあったからだ。


「重要なのは、北村さんが、なぜロープに気が付かなかったのか。いや、気が付いてもロープを外そうとしなかったのか……」


悠真は、そうゆっくりと話すと、ある人物に向き直った。


「それは犯人にそう指示されていたからだ。そうでしょう、おじいさん?」


「えっ、ワシ!?」


サル爺が驚きのあまり目を剥く。


「そうだ!北村さんはサルイエローの衣装を着ていた。つまり、今日はサルレンジャーの集まりがあったはずだ!」


悠真が勢いよく語る。


「今日の舞台は、サルイエローが敵につかまってピンチになるシーンがある。ちょっとリハーサルをするから、首にロープがかかっても気にするな。そういって首にロープをかけさせたのでしょう」


悠真の語りは段々と熱が入ってきた。


「そんな指示を出せるのは、サルレッドであるあなたしかいない。そして、北村さんのカレー好きを知っており、喫茶店によく出入りして裏口の配管のことまで知っている人物……」


悠真は、サル爺を指差してこういった。


「犯人はお前だ!サルレッド!!!」


「く、くそう!」


サル爺は叫び、身を翻して喫茶店の出口へと走り出した。


「逃がすか!」


悠真も思わず駈け出そうとする。その時。


「城山三吉、殺人の疑いで逮捕する!」


突如、店の入り口が開き、制服姿の男たちが飛び込んできた。手錠を持った警官がサル爺の腕をがっちり掴む。


「わ、わしが……捕まる……?」


サル爺は顔を歪めた。


そして、突然「イエローが目立って憎かったんじゃーー!!」と絶叫した。


そのまま、警官たちに連行されるサル爺。


悠真は急展開に呆然とつぶやく。


「サル爺って、城山三吉って名前だったんだな……」


すると、警官の一人が悠真に微笑みながら歩み寄った。


「犯人逮捕に協力ありがとう悠真くん、いや……名探偵・悠真!」


がっちりと握手される。


悠真はその顔を見て、驚いた。


「え、藤木さん?」


長身にメガネの男……北町商工会議所の副会長、藤木だった。


「……いや、何やってんすか藤木さん?」


藤木は何も答えず、薄く微笑むだけだった。


そして、まるで物語のエピローグのように静かに語り始める。


「こうして、事件は解決した。しかし、名探偵はまだ気づいていなかった。これが、これから続く大事件の幕開けだったとは……」


パチパチパチパチ!とおばさまたちの拍手が響いた…!


「はいカットじゃ~~!!」


元気な声が響き、悠真は反射的に振り返った。


喫茶店の入り口から、先ほど警察に連行されたはずのサル爺が満面の笑みで戻ってくる。


「……え?」


悠真は固まる。


「どうもどうも、見事な推理ショーじゃったな!」


「え?え?ちょっと待ってください……」


悠真は混乱する。


「お主、まっこと見事にハマっておったのう!」


おばさまたちも笑って拍手する。


「……は?」


「これはの、商工会議所が企画した体験型ミステリーイベントじゃよ!」


悠真は言葉を失った。


「悠真には何も知らせてなかったけどね!」


千鶴がくすくす笑いながら言う。


「……は?」


「いや~まさかお主が本気で推理し始めるとは思わんかったわい!」


サル爺が腹を抱えて笑う。


「いやいやいやいや…!」


悠真は現実を受け入れられない。


「名探偵ぶり、最高だったわよ?」


おばさまたちが目を輝かせる。


「俺も、お前の雄姿を見たかったぜ」


藤木が悠真の方を叩いてニヤリと笑う。


「いや、俺だけ知らされてなかったの?なんで!?みんな知ってたんですか!?」


「そうだよ」


いつの間にか復活した北村が、カレーを食べながら言う。


「やっぱり、寝起きにはカレーだよね?」


悠真は頭を抱えた。


「普通に考えてわかるでしょ?」


千鶴がさらりと言う。


「最後の藤木さんの語りとか、明らかにおかしかったじゃない?」


「は、はぁ!?ちょ、待って!?俺、めっちゃ恥ずかしいじゃん!?」


悠真は、真っ赤になって苦情を言うが、千鶴は澄まし顔で答える。


「だって、イベントだって知らない人がいたら、面白いじゃない?」


「そうじゃ!今回は悠真の活躍があったからこそ成功したんじゃぞ?」


サル爺が大きく頷くと、周囲のおばさまたちも「そうよそうよ」と賛同の声を上げる。


「いや、活躍って……」


悠真は困惑しつつも、満面の笑みで拍手を送られると、だんだんと悪い気がしなくなってきた。


「実は、自分でも犯人を指摘するところは、良かったかなーと思うんだよね……」


「おぉー!」


店内が再び盛り上がり、悠真は照れくさそうに鼻をこすった。


「まあ、俺くらいになると、こういうのも直感でわかっちゃうんだよな……?」


「さすが、悠真くん!」


「よっ、名探偵!」


「私、サイン貰っとこうかしら?」


おばさまたちに取り囲まれる悠真。


そんな、調子に乗り始めた悠真を横目に、サル爺と藤木はそっと目配せを交わした。


(……次も、巻き込めるな)


(……じゃのう)


サル爺と藤木は、ニヤリと笑う。


「やっぱ、悠真はサルレンジャーショーの経験があるからなー」


「そう?やっぱり?」


千鶴は、そんな悪だくみをする2人に気づいたが、面白いので放っておくことにした。


こうして、悠真は知らぬ間に、次のイベントの主役に決定したのだった。


悠真の受難は続く!!

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