閉ざされた雪塚⑤
「な、なんじゃと!」
サル爺は、目を見開いて大声で叫ぶ。
「つまりはこういうことです!」
真相が見えた悠真は、得意げに語りだした。
「北村さんは大のカレー好きだ。新作カレーができたから食べにおいでよと誘えば、必ずついてくるに違いありません」
「うんうん、確かに!」
「カレーの誘惑には勝てないわよねぇ」
おばさまたちは、妙にノリノリで頷く。
「で、犯人はテープルの上にカレーを置く。そして、なにか理由をつけて外に出るんです。何か物音がしたとか言って。待ちきれなくなった北村さんは、カレーを食べ始める」
悠真は天井を指さした。
「すると、天井に仕掛けられたロープが下りてきて北村さんの首に引っかかる。犯人は、店の外からロープを操作しているんです」
みんな思わず天井を見つめた。
「しかしのう、本当にそんなことができるんかの?」
サル爺がつぶやく。
「だってのう、じゃあロープはどこに行ったんじゃ?それがなきゃ証拠も何もないじゃろ?」
悠真は「うっ……」と詰まった。確かにロープが見当たらない。
「それにの、外から操作するにしても、どうやってやるんじゃ?」
「それは窓の隙間からロープを出して……」
悠真は、そういって窓の方を見るが、そんな都合のいい隙間は見当たらない。
「極めつけじゃが、北村さんは100kgを超える巨漢じゃ。よしんば、ロープで引っ張ったところで上に持ち上がるものかのう……」
……完全論破されてしまった。
「そんなことより、やはりお主が北村さんを始末したと考えるのが自然ではないかの?」
サル爺は、悠真を追い詰めるようにゆっくりと言った。
やばい!このままでは、犯人にされてしまう!
悠真は必死に考えるが、解決方法が思いつかない。
「まさか、あの子が犯人?」
「あんなに無害そうな顔をしてるのにねぇ」
「私は最初から疑ってたわ!」
おばさまたちの好感度もだだ下がりだ。
「そうよね。それに、店の前でロープを引っ張ってたら、通りがかった人が不自然に思うからできないわよねー」
千鶴が明後日の方向を見て言う。
「店の前はダメよね。人通りが多いし。あーあ、裏だったらなぁー」
「……お前、なんか知ってるのか?」
悠真は思わず千鶴を疑いの目で見る。しかし、千鶴は「さあ?」と肩をすくめるだけだった。
表がダメだったら裏……?
悠真はふと視線を巡らせる。
喫茶店の奥…キッチン…そして倉庫へと続く壁の上の方。
そこに、小さな穴が開いていた。
「なんだこれ?」
「あー、それ?昔の配管の跡よ」
千鶴がすぐに答える。
「配管の……跡?」
悠真ははじかれたように走り出した。
「ちょ、悠真!?」
「ちょっと待て、悠真!」
千鶴とサル爺が呼び止めるが、悠真は無視して裏口へ向かった。
(もしここからロープを通していたとした…!)
悠真は裏口から出て、振り向くと配管の先を見る。
配管からはロープが垂れ下がっており、その下にはコンクリートブロックが山のように積まれていた。
悠真の背中越しに、千鶴、サル爺、おばさまたちもそれを見る。
「……皆さん、喫茶店の中に戻りましょう」
悠真は静かに言った。




