雪塚稲荷の夜④
悠真と千鶴は、呆気に取られてその場に立ち尽くしていた。
老人はニヤリと笑い、再びリモコンのボタンを押す。
ピッ!
すると、さっきまで幻想的に光っていたライトが七色に点灯し、ラジカセからはRPGのラスボス戦みたいなBGMが流れ始めた。
「こういう雰囲気も良いじゃろ?フォッフォッフォ!」
「いや、何やってんすか!!」
悠真が思わず叫ぶ。
「こんなの心霊現象だと思うじゃん!なんなら、俺、ファンタジーが来たかと思ったぞ!」
「私も!てゆうか、何でこんなことしてるんですか!?」
詰め寄る2人。老人はふむ、と頷いて語り始めた。
「ワシ、ここの近所に住んでおるんじゃがの……最近、この神社に来る人が少なくなって寂しかったんじゃ……だから、ちょっと盛り上げようと思って、この演出を仕込んでみたんじゃ!!!」
「えぇ……」
悠真と千鶴は、老人の勢いにちょっと引いた。
「いや、やる気はすごいけどさ……こういうことは、許可なくやっちゃ……え?許可とか取ってるんですよね?」
すると老人は「あっ、やっぱダメか~」みたいな顔をして頭を掻いた。
「いやいやいや、ダメでしょ!?」
「ふむ、確かに……勝手にやるのは良くないかの……?」
「いや、気づけよ!」
「ま、バレたし、やめるか!」
そういうと、老人は「オッケーサンキュー!」と軽いノリで去っていった。
「軽っ!!」
悠真は思わずツッコんだが、老人はそのままスタスタと帰っていった。
こうして、雪塚稲荷の謎の怪奇現象は幕を閉じ、神社には平穏が訪れた。
***
数日後。
白い着物の少女は、すっかり喫茶店の常連になっていた。
「ホットミルクを一つ」
「あ、もう普通に馴染んでる……」
悠真と千鶴が呆れる中、少女は満足そうにミルクの湯気を眺めている。
「やはり、このお店は落ち着きますね」
「いや、お前どこに住んでるの?」
「秘密です」
「そこが一番気になるんだけど……」
そのとき、店のドアベルがチリンと鳴り、見覚えのある小柄な老人が入ってきた。
「ホットコーヒーを一つ」
「あんたも来るんかい!!」
喫茶雪塚は、川越の街並みにひっそりと佇んでいる。悠真の憩いの場は、妙なメンバーによっておかしな雰囲気に染められていくのであった……