閉ざされた雪塚②
雪塚の裏手は、建物に囲まれており、人気がなかった。千鶴は、バッグから鍵を取り出すと、ガチャリとロックを外す。
「開いた…!」
千鶴がドアを引くと、ギギィ…と古びた蝶番が不吉な音を立てる。
「うわぁ…これは入れないかなぁ……」
裏口のドアをあけると、段ボール箱が積みあがっていて入口が塞がれていた。
「ほんとに使ってない出入口なんだな……」
悠真が、段ボール箱を見上げながら言う。
「うん、こっちの入り口はほとんど使わないの。でも、荷物をどかせば中に入れるかな……」
千鶴は、段ボール箱をどかしながら、何とか通り道を作ろうとしている。悠真と、サル爺、おばさまたちもそれを手伝う。
段ボール箱をどかすと、部屋の様子が見えた。どうやら、倉庫として使っているようだ。
「……悠真。中に入って、様子を見てきてくれない?」
千鶴が、手を合わせてお願いのポーズをしながら言う。
「えっ、なんで俺?」
「だって……なんかあったら怖いし……」
「お前の店だろ!」
「だって怖いんだもん!」
「だもんじゃない!」
「男の子でしょ!」
「男女関係ねえだろ!」
「悠真くん、がんばって♡」
「なぜおばさまたちまで!?」
そんなやり取りをしていると、サル爺が何やら棒状の物を渡してきて言った。
「ほれ、若いもんが行け。ワシはこう見えても腰が弱いんじゃ」
「これは?」
「サルソードじゃ!」
「いらんわ!」
悠真は、新聞紙を丸めた棒を投げ捨てると、しぶしぶ倉庫の中へ足を踏み入れた。
倉庫の中は薄暗かったが、出入口から入る明かりで中は見えた。棚には、コーヒー豆や小麦粉の袋などがならんでおり、バックヤードとして使っているようだった。
悠真は、薄明りの中で正面にドアを見つけた。
バタバタしていて忘れていたが、さっき窓の外からは何かが動くような影を見た気がする。
(……何かあったときは、すぐに逃げよう。)と、悠真は内心ビクついていた。
音がしないように慎重にドアノブを回し、ちょっとだけドアを開けると、
「……誰かいませんか?」と、問いかけてみる。
しかし返答はない。
腰をかがめながらドアの中に入ると、倉庫の先には、見慣れたキッチンが現れた。
(おお、ここに繋がってるのか……)
キッチンの先には、喫茶店のカウンターが見える。
店内は、まるで時が止まったかのようにしんと静まり返っていた。
「……誰もいない?」
悠真は、慎重に歩みを進めて、カウンター越しに店内を見た。
いつもの雪塚の風景。だが、悠真はテーブルの上に置かれたものに違和感を感じた。
(なんで、こんなところにカレーライスが?)
テーブルの上には、食べかけのカレーライスが置かれていた。カレーは、まだ湯気を上げており、作られてからまだ時間は経っていないようだ。
何かが足りない。悠真は、見た目に不自然さを感じた。
(そうだ、スプーンがないんだ!)
カレーを食べるには、スプーンがいる。悠真が、スプーンはどこに行った?とテーブルの近くを見渡すと、近くにあるのを発見した。
スプーンは、床に倒れた男の手に握られていたのだ。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
悠真は叫び声を上げて、飛びのいた。
「何!?何!?何があったの!?」
悠真の悲鳴を聞きつけ、千鶴が慌てて呼びかける。
「悠真!どうしたの!?」
「人が!人が倒れてる!?」




