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細い道③

初雁球場、川越城址は、隣の三芳野神社に続いている。神社は通り抜けができるので、喫茶「雪塚」に行くには、確かにこちらのほうが近い。


神社の境内は広く、高い木々に覆われており、人影もまばらだった。


「ねぇ、悠真さん」杏は悠真を見た。


「『とおりゃんせ』っていう歌知ってる?」悠真の目を見つめて言う。


悠真は何となく、目線がそらせずに杏を見つめ返して言う。


「とーりゃんせ、とーりゃんせってやつ?」


「そう」杏はにっこりと笑う。


「あれね。この神社が発祥の地っていう話があるの知ってた?」


「マジ?」


「うん。ほら、そこの石碑にも書いてある」


そう言って、杏は指さした。


童謡「とおりゃんせ」は、いくつか発祥の地とされている場所があるらしい。ここ三芳野神社もその一つだそうだ。


石碑には歌詞も書いてあった。



通りゃんせ 通りゃんせ


ここはどこの細通じゃ 天神さまの細道じゃ


ちっと通して下しゃんせ


御用のないもの通しゃせぬ


この子の七つのお祝いに お札を納めに参ります


行きはよいよい 帰りは怖い 怖いながらも


通りゃんせ 通りゃんせ




「あの歌詞って、ちょっと意味不明だよね?帰りは怖いって何が怖いんだろう?」


そう話しかける杏は、いつの間にか口調がくだけていることに悠真は気が付いた。

高い木々から落ちる木漏れ日が杏の瞳に当たり、時折りキラキラと光る。


悠真は、少しぼんやりとしながら答える。


「とおりゃんせって、本当は怖い歌なんだって都市伝説あるよね」


「そうなんだ?」杏は、興味深そうに悠真を見る。


「昔、子どもは七つまで神の子で、それを過ぎて初めて人間になるっていう考え方があったらしくて」


神社は静かで、木々のざわめきしか聞こえない。


「昔は、食糧事情がそんなに良くなかったから、口減らしのために子どもを殺すこともあったらしい」


悠真は、自分でしゃべりながら、なぜか自分の声が他人事のように聞こえていた。


「そんなときは、子殺しではなくて、神様の元に返したんだって、罪悪感を感じなくなるように、”七つまでは神の子”っていうことにしたんだって説もあるらしいよ。


だから、子どもにとっては、”行きはよいよい”で、”帰りは怖い”って」


境内を強い風が吹き、木々のざわめきが大きくなった。


「ふうん、だとしたら悲しい歌かもしれないんだね」


杏は、物憂げな表情でそう言った後、「あっ!着いたみたいだよ!?」と、明るい声で悠真に笑いかけた。

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