細い道②
友人の試合は、1点差で自チームの勝利だった。
「祝勝会いくぞー!」と友人たちはノリノリだったが、悠真は徒歩だったため、また今度にした。野球場から商店街までは、観光地を挟んで結構距離があるのだ。
ちなみにこの球場、初雁球場の近くには、市立博物館や美術館、川越城址などもあり、それなりに観光客や市民で賑わっている。
悠真は、今日は他に用事もないので帰ろうとしたところ、「悠真さん?」と誰かに話しかけられた。
ふと、声の方を見ると、鮮やかな赤い着物を着た少女がいた。年は悠真と同年代だろうか。
「はい?・・・そうですけど」
「やっぱり!私、雪の姉です。いつも妹がお世話になってます。」
女性はそういって微笑む。
「雪・・・さんの?いつも白い着物の雪さんですか?」
「はい、そうです!雪から聞いていた特徴がそっくりだったので、つい話しかけちゃいました!」
女性は、そう親しげに話しかけるが、悠真はちょっと事態を飲み込めないでいた。
確かに、雪とはよく喫茶「雪塚」で会うが、それは常連なだけでプライベートのことはほとんど知らない。
それに、自慢ではないが、人からはよく特徴のない顔と呼ばれる悠真である。雪は自分のことをどう姉に伝えているのだろうか・・・?
悠真が怪訝な顔をしていると、女性は続けた。
「私は、杏といいます。雪から、悠真さんは面白い人だと聞いていて、いつか会ってみたいと思ってたんですよー!」
・・・面白い。確かに、サルブルーの一件以来、ずっとからかわれており、雪には、いいおもちゃにされている気がする。
「あー、そうですか」と、悠真はハハハと乾いた笑いをする。
「私も、一度、喫茶「雪塚」に行ってみたいと思ってたんですよ!悠真さん、もし良かったら、これから一緒に行ってもらってもいいですか?」
悠真より背の低い杏は、そう言って上目遣いで見てくる。
突然話しかけられて、戸惑っていた悠真だったが、よく見ると杏は相当可愛い。
そんな娘に上目づかいでお願いされた悠真は、ちょっとドキドキしてしまう。
「これから?うーん、どうしようかな」
特に用事もない悠真だったが、ふと千鶴のことが気になり躊躇した。
まぁ、雪のお姉さんみたいだし、変に思われることはないか・・・。
そう考えた悠真は、いいですよと答えた。
「やったぁ!じゃあ、道案内お願いしますね!」
そう言って、杏は小さくジャンプした。
・・・可愛い。雪も確かに可愛らしいが、雪は小学生のような見た目をしており、ドキドキするような対象ではなかった。
しかし、杏。この少女は同い年くらいであり、整った容姿、可愛らしい仕草など、悠真のドストレートを直撃していた!
(お、おれには千鶴が・・・)
別に、千鶴は彼女というわけではない。・・・ないのだが、千鶴に好意を寄せている悠真は、激しく苦悩した。
そんな無意味な苦悩を悠真が抱えていることはいざ知らず、杏は「こっちのほうが近いですかね?」と先に進む。
「あっ!ちょっと待って!」と、悠真は、道案内の使命を思い出し、杏の隣に走り寄った。




